異世界転移したけど王様がクズなので旅をします。〜邪神に選ばれし男は神へと至る〜

悪鬼さん

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紅い月編

VSゼロ、part 1

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「勝負って言っても、どこでやんだよ。庭は花畑、外は森、館内は論外。それとも地下でもあんのか?」
「一応、地下はあるけど。生憎、倉庫に使っていてね、場所は…庭にしよう、ゼパロ」

ゼパロはそれを聞くと、「はい」と返事をして部屋を出た。リアが机に並んだ、食べ終わった食器を片付け始める。
そしてゼロは立ち上がり、部屋の外に向かおうとする。

「庭って…花畑と館に被害が出るぞ」

「花畑は大丈夫さ、館の裏はそこそこ広いけど何も無くてね、館の方は…まあ来れば分かるよ、準備が有るから先に行っておいてくれ。館の裏に石タイルで床が造られてる場所があるから、そこで」

そのままゼロは部屋を出て、食堂には晃とミインが残された。ミインの食事はまだ残っており、スープをスプーンで、音を立たないように丁寧に飲んでいる。

「ミイン、俺はゼロの詳しい強さは知らないんだが、教えを受けたお前から見た俺の勝率は?」
「…私が教わったのは、戦いの基礎、魔力の操り方、魔法の術式、魔術の構築ぐらいだから、ゼロの能力とかは分からない。でも、今まで見た事だけで考えたら…」

「考えたら?」
「…晃が善戦出来るかすら危うい」

「そうか。まあ、俺もそんな気はするが…一矢報いるぐらいはするさ、イメージとしては青龍と互角ぐらいと俺は考えてる。まあ、1番想像できる範疇で強いのはアイツで、一撃受けた事もあるから想像しやすいってのはあるが」

「でも、能力や技、戦い方は人によって違う。総合的な強さでイメージしても、相性によるからあんまり意味無い」

「…それもそうか。よし、行くか」

「ん」
ミインが話しているうちに食べ終わったので、両者がその場を経つ。それを見て近くで待機していたリアが、食べ終わった食器の片付けを続行する。

さて、何処まで通用するか。

晃は肩を回し、ミインと館の外に歩いて行った。



言われた通り館の裏まで廻ると、地面の一部が石タイルで敷き詰められた場所があった。

石タイルの場所には、中央に何か置き物が設置してある。

その置き物は地面と同じ石で造られていて、短い柱の上に空洞のようで、縦に穴が空いている部分が複数ある。

空洞の周りは膨らんでいて、鍋のような造りになっているので、何となく灯台を連想する。中に蝋燭でも入れれば灯になりそうだ。


「何だあれ?」
「ん…闘う場所にするには邪魔」
「まあ、そこまで大きく無いし気にする程では無いが…」

晃とミインは首を傾げて言う。闘う時に退ける事が出来るならば良いが、そう思って近付いて行く。

そして、置き物を持ち上げようと触るが、どうやら地面に完全に固定してあるようで、少し押す程度ではびくともしない。
余り強く動かそうとすれば、晃の今の腕力なら簡単に壊してしまいそうなので、無理に押すことはせずに晃は直ぐに手を離した。

「壊すのは駄目だしな…まあ、この場所はそこそこ広いし、問題ないか。ん?これ…」
天辺の楕円形で出来た箇所を触ると、動くことに気付いた。

「動くなこれ」
「本当だ、何だろう?」
持ち上げようとすると、コツコツと足音が聞こえ、ゼロとバトラが近付いて来る事に気がついた。 

「やあ、待たせたかな?」
「いや、別にそんな長く待ってた訳じゃ無い」

ゼロを見ると、赤みの掛かった色のコートをたなびかせ、手には何処か見覚えのあるランプが…

「おい!それ、俺を転移させたヤツじゃねえか!」
「ん?ああ、それとはまた別の物だよ。この魔石灯は…」
ゼロはそう言いながら近付いて来る。晃はそれを見て一定の距離を保って後ろに後ずさった。
その表情と行動にはまた飛ばされたく無い、という意思が強く見える。

「大丈夫だよ、これはこの中に入れるんだ。ミイン、石タイルの場所から出てくれるかい?」
「…ん、分かったけど。また晃だけに変なことやったら許さない」
「信用ないなぁ…まあ、仕方ないけどね」

ゼロは晃に近付いて来るように手招きをするが、晃は嫌な顔をしてそれを拒否する。
悲しそうな顔をするんじゃねえ。前科が有るから当然だろうが。

晃は仕方ない、と言うばかりに溜息を吐きながら近付いて行く。

「これは、上の蓋を外して…」

晃がそこに着くと、先程、晃が気が付いた置き物の仕組みにゼロは触れ、それを外して持ち上げる。
そうすると中に六角形の窪みがあり、ゼロは持っている魔石灯をそこに下ろし、はめ込んだ。

カチッ、と音が鳴ると、魔石灯が白色の光を放ち出した。ゼロは持っていた蓋を元の位置に再び戻すと、白い光は石タイルの地面の四隅まで伸びる。

そうすると、その光が少しづつ壁を創り上げるように上に展開され、最終的に晃とゼロの四方は透明な壁に囲まれた。

「何だこれ…」

「これは結界だよ。これがあれば、外への被害を防げるから全力でやれるだろう?」


「成る程、これ良いな」
晃は透明な壁に触れて、強度を確かめる。
押しても動きはしないし、裏拳で少し叩いてみたが、かなり硬さであった。
「だろう?かなり頑丈だから、もし全力で君が殴っても、多分壊れないよ」

「へえ、言うな。…フッ!」
晃はその発言を聞き、素早い一撃を結界に打ち込む。
「チッ…」
しかし、結界は衝撃音を立てただけで、傷一つ付けるどころか、凹みすらしなかった。
どうやらゼロの言う通り、相当頑丈に作られてるみたいだ。戦技を使えばまた別だろうが、今することでは無い。

「チェックは終わったかい?じゃあ、始めようか」

ゼロの発言と共に、その場に強い緊張感が走る。
晃の目は、全力で標的を狙い、刈り取る瞬間を見切る目を。ゼロは晃の力を理解しようと、力量を測るような見定める目を。



しかし、晃にとってその目は侮辱でもあり、内心舌打ちをしつつも、構えや反応に影響を出す様なものは外には出さない。

不敵な微笑みを浮かべてこちらを見ている。

ーーー自分は、ゼロにとっては敵では無い。

その事実がゼロの態度から有り様に感じられる。
決して油断している訳ではない、しかし、既に見切られている。そして事実と見切った力量から必然的な態度を取っているだけであろう。が、割り切れるものではない。

「“龍拳法ドラゴンストライク”」
固有スキル龍拳法を発動し、蒼いオーラを全身に纏わせる。
「“身体強化Ⅷ”」
そして今出来る限界まで身体強化を全力で使い、肉体能力を最大まで引き上げる。総合的能力だけで言えば、今出来る範疇でこの状態が最も強いだろう。

しかし、そんな様子を見てもゼロが構える様子はない。こちらを見据え、どれほどの物かと見定めている。

次の瞬間、地面の石タイルが砕ける程の力で踏み込み、間合いを詰めて拳を顔面に向けて打った。
しかし、拳は空を切る。一瞬で背後に回り込まれた。見る事すら叶わなく、これだけでも力量の差が感じられる。

「ゼアッ!」
直ぐに回し蹴りを放つが、腹部の前で片手で受け止められてしまう。
足を掴まれる前に直ぐに引っ込め、後ろにステップを刻んで下がる。

能力が高いが、戦闘技術は乏しいかもと淡い期待を持っていたが、そんな事は有り得なかった。
蹴りを受け止める時の動きは、最速で正確であった。
対人技術を磨かねば、あの動きは出来ない。

「駄目か…」
「そんなに甘くは無いよ」

…かなり全力だったんだが、駄目だった。焦りを顔に出さないように必死に押し込めるが、こんな時でもゼロは不敵な微笑みを崩さない。

よし、決めた。元から一矢報いる程度の心持ちだったが、出来る限り全力で嫌がらせしてやる。 

勝敗とか、島に飛ばした理由とか関係無い。ただその笑みを壊すことだけはする。

ミインが見てる中、泥臭い闘い方はしたくないが、個人的にはそれが一番得意な闘い方だ。

本人が油断するつもりが無くとも、力量の差からは必ず生まれる隙がある。そこを突けば捌かれ無いかもしれない。

「さて、どんどん来て良いよ」

…絶対笑えない状況にしてやる。
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