英傑奇譚

選択の時

「君は今後、『No.8』として他のオクタプルメンバーの後方支援にまわってもらいたい。」
　天魔さんの口から告げられたのは遅かれ早かれこうなっていただろうと予想できたものだった。
「・・・・・。」
　俺はその言葉に沈黙を返した。
　例え予想できたとは言ってもやはりショックであることには変わりはない。
　もはや一言も発することができなかった。
「・・・もちろん君にも前線に出てもらうこと少なからずあるだろう。」
「だがこれからの君の主な仕事は依頼内容の整理や他のオクタプルメンバーへの情報伝達等になる。」
「だがいきなり言われて決めるのも酷な話だと思う。」
「期間として一週間、君には考えてもらう。」
「そしてこの一週間は体を休めるのも兼ねて君は任務には参加せず療養だ。」
「最初に言うが俺たちは君の意見を尊重する。」
「この話は上司ではなく同じオクタプルメンバーの仲間という立場で君に話した。」
「よく考えて答えを出してくれ・・・。」
「じゃあ俺たちはこれで失礼する・・・。」
　天魔さんはスッと立ち上がり病室を後にする。
　それに続いて他のみんなも「お大事に！」と言いながら病室から出ていった。
　一人取り残された俺は再度ベッドに横たわった。
　俺はいつものように一人考える。
　今回の件で俺はいったい何を守ることができたのだろうか？
　確かにクリミナの足止めに少しは貢献できたのかもしれない。
　でもそれは結果論である。
　もしあの時、龍さんが助けに来れなかったとしたら俺は殺されもっと被害は拡大していたかもしれない。
　龍さんや燈が来なかったのであれば足止めにすらなれなかった可能性もあるのだ。
　結局のところ俺は市民のことも1人では満足に守れず仲間に頼らなければならない弱い存在なのだ。
　天魔さんだって分かっているはずだ。
　今後、オクタプルとしての活動において俺はあまりにも弱く実力不足であると・・・。
　最近になって世界がおかしくなっている。
　犯罪の多発やクリミナが告げた言葉。
　昔までの平和な日常から少しずつかけ離れていっているのを感じる。
　もちろんそれは俺だけでなく他のメンバーも当然、気づいているはずだ。
　これからは能力者によるテロ行為なども徐々に増えていくだろう。
　だからこそ無能力者の俺では勝つことは愚か生き抜くことさえ困難になるかもしれない。
　オクタプルとしてあまりにも脆く弱い存在。
　それが俺と言う人間なのだ。
　なのに俺に選択を委ねてくれた。
　それに対し俺が出来ることと言ったら一つだけ。
　しっかり考えて悩んで自身に問いかけ己の皆んなが納得するような答えを出すことだ。
　幸いにも時間はある。
　今日のところは休んで明日から本格的に考えるとしようかな。
　そう思い俺は再度やってきた睡魔に身を委ねた。
　翌日、俺はさまざまな検査をして異常なしと判断され退院することになった。
　もとから体が丈夫だった事とこの国の高度な医療技術もあり後遺症もなく退院できた。
　今は治療してくれた医療従事者の人に感謝し帰路についている。
「さてと天魔さんから貰ったこの一週間。」
「思う存分、考えるとしますか・・・。」
　そうして己を見つめ直す一週間が始まったのだった。