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俺が魔王で魔王が俺だった
しおりを挟む俺の名前はヴァシリアス。ヴァシリアス・ボアネルジェス。
幼い頃から、父に「この世界には魔王がいる」と教わっていた。
「魔王を倒すために勇者があらわれるのだ」と。
「父上はゆうしゃにあったことがあるのですか?」
「あぁ。奴らは確かに……強かった。我はこの家を…お前を守るために、自らの力を封じたのだ。今ではただの老いぼれだな。」
「…?父上のはなしはむずかしいですが、そのゆうしゃはとてもつよいのですね!」
「あぁ……我がもう少しでも長く……生きられたなら、お前も……立派な…………に…してやれたのに…………」
「父上?もうねむるのですか?明日のあさごはんはベリーのジャムをぬったパンがいいです!」
「……はは、……そうだなぁ……」
それから間もなくして父は亡くなり、俺は父が遺した山奥の家でひっそりと生活していた。
父と執事のシメオンの3人で暮らしていた俺は、父の遺志を継ぐために、シメオンに勉強を教えてもらい、剣や弓の鍛錬をしてきた。
家には“魔王”の本が沢山あった。
どの本の中でも、魔王は世界を闇で覆い、女を侍らせ子供を贄にし、人間が魔族に仕えている。
俺は、幼い頃からその挿絵や生々しい表現が恐ろしくて、魔王を好きになれなかった。
外を見れば青空が広がり、木々の香りや鳥のさえずりに包まれたこの温かい世界が好きだ。
だから俺は、勇者になる。
闇を使役する魔王を唯一倒すことの出来る、光の力の使い手。
この世に希望をもたらし、混沌を振り払う者。
俺は幼かったからあまり覚えていないが、父の最後の夜……俺に、立派な勇者になってほしいと願われていたのではないかと思うのだ。
優しい父のことだから、いつ魔王が復活してもいいように、俺に魔王の話をたくさん聞かせていたのだろう。
そうして鍛錬をつんだ俺は遂に、剣のレベルが99になった。だから、街に行って、魔王を倒すためのギルドに入ることにした。
俺1人でもこの山の魔獣くらいなら倒せるが、魔王となるとそうもいかないはずだ。後衛や回復魔法の使い手がいるに越したことはないだろう。
この事を伝えると、シメオンは震えていた。
「ヴァシリアス様……その、本当に街に行かれるのですか…?」
「ああ。」
「ええと……勇者に、なるため……に?」
「そうだ。」
「街には行かないほうが……」
「何故だ?」
「危険が……といいますか、本物の…勇者が……ですね……」
「なに?勇者がいるのか!?」
「え、えぇ、恐らくは…」
「ならば勇者のギルドに入れてもらわねば!俺は急ぐ。シメオン、とりあえず今日はギルドに入ったら帰ってくるから風呂と夕食の用意を頼む。」
「お、お待ちください!ちょ、おいクソガキ!!!!!!!!!!魔王はーーー」
シメオンの制止はいつもの事だ。昔から心配性だからな。
転送魔法でギルドまでは一瞬。
まばたきひとつの間に、景色は変わった。
初めて父やシメオン以外の人間を見たが、街の者たちはみな小さいのだな…。
やはり、山で暮らす方が魔獣がでる影響で多少体が強くなるのだろうか。興味深い。
話し声や音楽で辺りは騒がしい。
知識として人間のことや街の様子は知っていたが、人間はこんなに存在していたのか。
奥に、案内をしている人間がいる。
彼に話しかければいいのか。
やっと、俺は勇者になれる。
「お次は…お、見ない顔だね。身体は大きいけれど17.8歳くらいか?やっぱり冒険者ギルド?」
「あぁ、勇者になりにきた。仲間がほしい。」
「勇者……?…うん、夢を見るのはいいことだ。ただギルドが初めてなら初級から…兄ちゃん、人とパーティーを組むならレベル3からだけど、もう3まであがっているかい?」
「3?それなら大丈夫だ。」
「余裕そうだな。それじゃあ名前とレベルを教えてくれ。」
「名前はヴァシリアス…レベルは99。魔王を討伐するため、日々鍛錬してきた。…俺のレベルだと何級だろうか。」
俺の名前を告げた途端、これまでにこやかだった人間の顔が引き攣ってしまった。
「ヴァシ……リアス…………?」
「あぁ。俺の名前だが、……君とはどこかで会ったか?」
「い、いや、ええと……お住まいは……どちらで……?」
「住まい?あぁ、ここから15kmほど先の山奥の家だが……ギルドに入るのに住所は必要なのか?」
「ひ…………い、いえ、あの……貴方は、“魔王”…………ヴァシリアス様……では……??」
「……………………は?」
「こ……殺さないでください、娘が産まれたばかりで……!いや、せめて家族だけでも……!」
「何を言ってるんだ。俺は人間は殺さない。」
「でも貴方は……!」
「俺の名前が、その魔王と同じなのか?そのくらい偶然ではないか。」
「魔王と同じ名前を付ける人間はいません!!!!!それに普段は山奥の館にいらっしゃるんですよね!?!?」
「あぁ、シメオンという執事と2人でな。」
「シメオン!?あの魔王の右腕、残虐非道というシメオンが生きていたのか!?」
「……?シメオンは良い奴だ。俺が狩った魔獣も捌けないんだぞ。」
「ま……魔獣……?」
「山の中は魔獣が多いからな。肉は良い身体を作る。」
「魔獣は上級ギルドがパーティーで5日かけて追い込むもの……では…………?」
「そうなのか?」
「お……王宮に連絡だ、おい、メリー!お前の音声転送魔法を王宮の人間に繋げ!誰でもいい!」
「え、で、でもなんて伝えれば…!?」
「魔王が魔王を倒すために勇者になりたいとギルドにきたって言え!いいか、意味は分からないし伝わらないだろうが伝えろ!」
「王宮に行けばいいのか?それなら転送魔法を使う。」
「とりあえずここにいてください!」
俺が魔王と呼ばれたり、意味が分からないが、王宮と連絡をとるらしい。
勇者という称号は王から直接賜るというし、これは勇者への道が開けたのかもしれないな。
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