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30.気まずいタイミング
しおりを挟む「おや?お邪魔だったかな?」
ルイはこてりと壁に身体を預けながら、ツヤサラになった茶色い髪を耳へと掛けた。
何気ない様子であるのにその姿はどこぞの一流のモデルのようだ。
そんな彼の髪と同じ色の茶色の瞳は、ベッドの上で呼吸を荒げている珠奈に向いている。
乱れた服の間から露出してる肌も赤く染まった頬も、その瞳にしっかりと映っていた。
そんな珠奈のあられもない姿を見ているルイと視線がかち合えば、達したばかりでふわふわとしていた思考が途端にクリアになる。
(ぬああああぁあぁぁぁ!!)
今置かれている状況を即座に正しく理解し、珠奈は心の中で色気のない悲鳴を盛大に上げた。
桃色だった珠奈の脳内は、快楽から羞恥へと完全に切り替わる。
ほのかに染まっていた色っぽい頬は熟れた林檎のように真っ赤に色付き、顔だけではなく首元まで一気に染め上げた。
(よりにもよってなんで今!?な、なんていうタイミングで出て来るの……!)
火が吹き出しそうなほどに熱くなった顔をルイに向けたままにしておく事など出来るわけがない。
そのため、依然として珠奈の上にのしかかったままのアランの肩口に顔を隠すように押し付けた。
「まったく……。私がいるというのに珠奈に盛る節度のないオオカミ君を叱りたいところだけど、とりあえず珠奈の上から退いたらどうかな?」
「………もう一度風呂に入ってきたらどうだ」
「おや、この状況になってもまだソレを続けたいのかい?」
アランは眉間にくっきりとシワを寄せながら深くため息を吐く。
「貴様さえ来なければ……」
ルイには聞こえないほどの声量でぽつりと呟かれた小さな小さな独り言。
しかし、その独り言は間近にいた珠奈の耳にははっきりと届いてしまっていた。
(ルイさえ来なければ一体どうなってたんでしょうね!?…………まぁ、あのままアランに流されてそうなってたんだろうけどねっ!!今回はほんとに危なかった。頑張れ私の理性……)
珠奈の温もりをその身に少しでも残そうとするかのように、アランは身体を密着させつつ肩口に埋まる柔らかな髪の毛にすりすりと頬を寄せる。
ルイにこんな状態を見られてしまった恥ずかしさと気まずさで消えてしまいそうな珠奈は、アランの行動に身を任せたまま、この状況の打開策を思案していた。
――すりすり、クンクン
においまで嗅いで未だ珠奈を堪能し続けているアランに、ルイは冷ややかな視線を投げつける。
「君は狼の系譜だと思ったのだけれど、ただの駄犬だったのかな?」
「……貴様の目は節穴か?俺は犬ではなく、森狼の血を引く者だ」
「へぇ、そうなのかい?では、威厳ある賢き森の狼らしく理性的に振る舞ったらどうかな?」
アランは目の笑っていない笑顔のルイをひと睨みすると、名残惜しそうにしながらもようやく珠奈から身を離そうと動き出す。
「……ひぁっ!」
突然の感覚に珠奈は思わず声を上げた。
アランが身体を離すと共に、予告なく珠奈の中に納めていた自らの長い指をするりと引き抜いたのだ。
身構える猶予を与えられなかった珠奈は、驚きと少しの快感が混じった声を抑えられずに上げてしまった。
「っ!いきなりしないで……!」
真っ赤な顔をしながら小さな声でアランに抗議すれば、彼は全く悪びれる様子もなく頬にキスを落としてくる。
そのまま珠奈の耳に唇を寄せると、甘い声色で囁いた。
「すみません。あたたかくて柔らかい珠奈の中にもっと居たかったのですが……。珠奈が望んでくれるならまた今度続きをしましょう」
「~っ!ア、アラン!」
甘い囁きの余韻を残しつつ、今度こそ珠奈から身体を離した。
すると、あろうことか珠奈に見せつけるようにして蜜に濡れた指をぺろりと舐め上げるではないか。
そのあまりにも倒錯的な光景に言葉を失う珠奈を尻目に、アランは恍惚とした表情で綺麗にその蜜を舐めとり、そしてコクリと嚥下した。
(ちょ、なんでわざわざ目の前でそういう事をするの!?いや、その前にそんなモノ舐めないで……)
晴れて自由の身となった珠奈だが動く事など出来るはずもなく、珠奈はベッドに寝転がったまま必死に弁明の言葉を探しながら視線を彷徨わせた。
穴があったら入りたい事この上ないが、今は一刻でも早くこの状況をどうにかせねばならないのだ。
「……ル、ルイ?えーっと、あのですね……?こ、これは、その……」
(やばい。笑えるほど言い訳が見つからない)
それも当然のことである。
珠奈ははだけた服装のままベッドへと押し倒されていて、アランの手はスカートでギリギリ隠されたどこかへと伸びていた。
そして、先ほどのアランの行動だ。
アランの濡れた指先がどこをまさぐっていたかなど、年端もいかない子供でもない限り誰でも分かってしまう。
甘く蕩けた表情の珠奈と熱の篭った目をしたアランを加味しなくとも、おのずと答えは出てくるというものだろう。
(あぁ、何も思いつかない。もうこれどうすればいいの……。私に本当にマジカルな力があるのなら、今こそその力でこの場の全員の記憶を綺麗さっぱり消し去りたい……)
そんな詮無いことを考えながら、己の痴態をルイにまで大公開してしまった珠奈は遠い目をした。
今現在、言い訳のしようもないこの状況を上手く誤魔化すことも出来ず、珠奈にとって大変気まずい空気が流れている。
アランはどうなのかとそちらを見てみれば、うっとりとした表情で、先程までどこかをまさぐっていた己の指先に唇を寄せているではないか。
何がそんなに嬉しいのか、フリフリと尻尾までご機嫌な様子だ。
(アランッ!この状況で何してるの!あぁもうアランの方見なければよかった……)
珠奈が小さな後悔をしていると、壁際にいるルイからため息が聞こえてきた。
「はぁ、まったく。……珠奈?狼だろうと犬だろうと、きちんと躾をしなくてはいけないよ?」
ルイは軽く寄り掛かっていた壁から身を離すと、珠奈のいるベッドの方までやって来る。
アランが座っているベッドサイドとは反対側へと回り込み、寝転がったままの珠奈の身体にそっと腕を回して優しく抱き起こした。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。さぁ、そこのオオカミもどき君はさっさとここから出て行ったらどうかな」
「出て行くのは貴様だろう」
「ふーん?」
ルイはアランの態度を軽く鼻で笑うと、珠奈をしっかりと抱き寄せたままアランの方へと目を向ける。
もっと言えば、アランの下腹部にある膨らみへと視線を投げつけていた。
「君はそんなだらしのない状態のままで、珠奈の前に居座るつもりなのかな?」
「うっ……」
珠奈の柔らかな身体に触れた時から、アランの下腹部にはむくむくと珠奈を求める欲が湧き上がっていたのだ。
それが今はもうすっかり立派になってしまっていたことは、もちろんアランも自覚している。
時間を置いて昂った熱を落ち着かせるよりも、ルイに珠奈を任せる事には抵抗はあるが、さっさと自分で処理した方が早いだろう。
「……珠奈、俺は少し外します。何かされそうになったらすぐに声を上げてください」
少しだけ不服そうな顔でそう言うと、アランはベッドサイドから立ち上がった。
ズボン越しに存在を主張するそれに思わず目がいってしまった珠奈は、慌てて目線をそこから外す。
「あー、うん!私は大丈夫だから気にしないで!ついでに買っておいたシャツ着てきてね。冷えて風邪引くといけないから。……えっと、その………ご、ごゆっくりどうぞ……?」
「珠奈、すみません。すぐに戻ります」
これからアランが行うであろう事を想像し、珠奈は妙な気恥ずかしさを覚えた。
(これからお風呂場でアレをするんだよね?駄目だ……。アランをお風呂に入れた時のことを思い出してしまう……)
しかし、当のアランは特に気にする素振りもなく、シャツを手にすると浴室へと続く扉に手を掛けた。
アランは扉を少し開けたところでくるりと振り向くと、珠奈に腕を回したままのルイをキッと鋭く睨み付ける。
「絶対に、珠奈に変なことをするなよ」
「おや。まさかそのセリフを君の口から聞くとは思わなかったよ」
(私もそう思います…)
珠奈は心の中でルイの意見に強く同意した。
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