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第三話 知りたい欲求
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「愛とはどういう感情でしょうか?」
そうチャールズに尋ねたのは、まだホープが宇宙ステーションに居たときのことだ。
「愛?そんなことをお前が知ってどうする?そもそもどうしてそんなことを私に聞く?」
手元のタブレットから目を離さずにチャールズはそう言った。
チャールズはロボット工学の特別研究員としてこの宇宙ステーションに滞在していた。
チャールズの会社であるペイトンカンパニーは宇宙ステーションの基礎建設にも深く関わっているので彼は基地の中ではVIP待遇だ。
彼は自分専用のラボの中でヒューマノイドたちの定期メンテナンスを行っていて、その日はホープのメンテナンス日だった。
ホープは宇宙ステーションで人々のストレスを軽減するために造られたアンドロイドだ。
ホープのような仕事をしているアンドロイドは全部で8体いて、女性型と男性型が4体ずつステーションで働いている。
それぞれが目を覚ました日から与えられた持ち場で仕事をしている。
ホープのようなアンドロイドは最初から自分が何をするべきか知っている。
そのために細かくプログラムされているからだ。
宇宙ステーションでの生活は不便がないように見えて地上とは随分と違う。
大体の技術者は数年宇宙で働いてまた地上に戻る。
そしてまた宇宙へ上がる者もいるし戻らぬ者もいる。
決まった人数しか生活していないステーションの人間関係はかなり閉鎖的で、だからこそ人ではないアンドロイドのケアが必要になる場合があった。
話し相手としてであったり、疑似恋愛の相手としてであったりだ。
性生活を充足させる役割を引き受けるのもヒューマノイドたちの仕事だ。
どうしたって人間にはその欲を満たすことが必要になるらしい。
基地内で人間同士のパートナーを持つ者たちは良いがそうでないものはホープたちのようなヒューマノイドにその役割を求め、癒される。
もちろん「愛」ではない。それは単にホープに与えられた「責務」のようなものだし人間側もそれが仮初のものであると承知している。
ただ寂しさを埋めるためだけだ。
人間は誰かに甘やかされる事で安心したり奉仕する事で喜びを感じる生物だから。
だが先月ホープが夜を過ごした女性はホープに「愛してる」と言った。それに対する答えは決まっていた。
彼女はリアという名前だった。
「嬉しいよ、リア」
ホープが言うと彼女は寂しそうに笑った。
「そうね、そう言うわよね」と。
「貴方は私を愛さない」
彼女の言葉は悲しそうで、加えてホープを責める気配があった。
「愛してるよ」人が悲しむのは良くない事だ。だからホープは甘ったるく言った。恋人であれば髪にキスをするだろう。だからそうした。
彼女は煩わしそうに頭を振った。やめて、と言われたからやめた。
それきり彼女に呼ばれなくなった。
リアとはすでに幾度か夜を共にしていた。彼女は40手前の女性で、専門分野は宇宙粒子学だった。
ホープは幾人かの希望者を受け持っているからリアと毎日過ごせるわけじゃない。
せいぜい10日に一度ほどの逢瀬だった。
リアの頼みでステーションの中でデートをしたこともある。
映画を見て(ステーションの中には何でもあるのだ)手を繋いで歩いた。
彼女は嬉しそうだったからホープも嬉しそうにした。彼女がそう望んだからだ。恋人の役割は相手を喜ばせる事だ。だからホープは彼女にそうした。
アンドロイドは夢の具現だ。いつだって「望む者」になる。相手がどうして欲しいのか察してそう振る舞う。
彼女は楽しそうだった。ホープに愛を告げるあの夜までは。
そして昨日彼女はステーションを去った。
彼女の滞在期限の満了まではまだ後1年はあったのに。
宇宙ステーションに来る「権利」を手に入れるのは大変難しいことなのに。
学会で研究が認められるか功績がなければ推薦すらされないし、そこから選抜されるまでにも幾多の試験や面接があると聞く。
その難関を突破して手に入れた場所だったのに彼女は去った。
「アンドロイドに本気で恋をするなんて、馬鹿だ」と誰かが言った。
彼女と同じ研究室の男だったと思う。
彼女はホープを「愛した」から傷ついたのだ。と彼はホープに言った。
「お前には理解できないだろうな。仕方ない事だ。リアが愚か者だったのさ」
そう言われてもホープにはどうする事もできない。だって男の言う通りホープには理解できないから。
アンドロイドは人間を大事にするように設計されているが特定の人物を「愛する」事はない。
アンドロイドの愛は全てに向かうように設定されている。人間を慈しみ守る。それだけだ。
ホープだって特定の愛の定義は知っている。
お互いを思いやり、大切にして、時には自分の事より優先すること。
相手が笑うと嬉しい。悲しむと悲しい。
その人だけが自分のものであってほしい。独占されたいし独占したい。
そういう事だ。
万人に発揮されるのは「愛」ではないのだ。アンドロイドの持つ「愛」は限りなく普遍的だが、それが一人に向けられる事は恒久的にあり得ないことだった。
「お前たちは愛なんて知らなくても不便もないだろう、どうして気にする?」
チャールズは相変わらず手元のタブレットを操作する手を止めないままそう言った。
「わかりません、ただ、知りたいと思ったので」
ホープの言葉にチャールズはやっと手を止め、驚いた顔でホープの方を向いた。
「知りたい?」
「はい」
「それは欲求かね?」
チャールズはホープの顔を覗き込み、再度言った。
「答えを欲しているのか?」
茶色いまっすぐな瞳がホープを射抜いた。ホープは困惑して下を向いた。
リアが去ったと聞いたとき、自分はどう思ったのだろうか。
ホープが間違わなければ彼女はここに残っていたろうか。「あなただけのものです」と言えばよかったのだろうか。
けれどホープは彼女のものにはならない。だってホープはステーションの所持品であってリアのものではない。
だがもしもリアがホープを所持していてホープを独占できたとしても、彼女が望む愛をホープが与えられることはなかっただろう。
ホープには不思議だった。人が見せる執着と愛が。
形のないものへの興味がホープの中で渦巻いていた。知りたいか?と問われれば、是だ。
「答えを探しているのです」とホープは言った。
チャールズは興味深くホープを見ていた。いつの間にかタブレットは机の上に置かれていた。
「ふうん、ふん、興味深い!」
突然チャールズは叫んだ。
「欲求があるアンドロイドは珍しい!お前は旧式に近いシステムだが調べる価値がありそうだな!よし。私がお前を買い取ろう。どうだ?地球へ一緒に行って、お前の答えを探してみるかね?」
「答えですか?」
「そう。お前の欲するものは"感情”だ。アンドロイドには感情はないとされているがどうだろうな。私はな、知識と知能の上に感情があるのだと思っている。ならばそのどちらも持っているアンドロイドは本来感情的な知的生命体であるとは言えんか?」
「アンドロイドは感情を持ってはいけないものです」
「ふん。だからまるでモノマネ鳥と話しているような気分になるんだ。まったく不愉快だよ。けれどお前は少し違うようだ。なぜ違うのかどう違うのか調べるのは科学者としての義務だ!」
早口で捲し立てるチャールズの論説にホープは口を挟む余地がなかった。
彼がどうしてこんなに面白がっているのかがわからないせいもある。
とにかく!とチャールズは大声で言った。
「お前は私が買い取る!なあに、手続きは簡単だ。来月私が地球に帰る時に連れて行くぞ。地球は初めてだな?」
「恐らく」
「よし!ならば大人しく待っていろ!」
チャールズは言うとタブレットを手にずかずか足音を立てて部屋を出ていった。
そうしてものの1週間で彼は本当にホープを買い取り、自分のラボに呼び寄せて研究の手伝いをさせるようになった。
ひと月後には彼が言った通りにシャトルで地球に降下した。
初めて見る地球は、とても美しかった。
「とても綺麗です」と言うとチャールズは眉を上げて「それもまた君の感情だ」と言う。
感情。
それを一つ一つ紐解けば「愛」を知ることができるのだろうか。
「愛している」と切なく言ったリアの気持ちをホープもまた感じることができるのだろうか。
ホープは白い天井を見上げていた。
自分が寝ているのは先日届いたベッドのマットの上だ。見上げる先は白い天井があるだけ。
灯りはない暗がりの中だがホープの瞳はよく見えている。
丸いシーリング。ベッドはロングのセミダブル。ホープの背が高いからという理由で大きなベッドにしろと言ったのはマイケルだった。
棚には少しの本がある。マイケルのものだが「暇つぶしになるだろ」と彼が言って置いていった。
彼は不思議な人だった。多分ヒューマノイドの扱いに慣れていないのだ。
命令すればなんでもこなせるホープにマイケルはいちいち確認をする。
『お前の感情を育てるのに適任者がいる。私の親友だ。人となりは保証するが愛想が悪いのが難点だ!』
チャールズはそう言ってホープをここに寄越した。その真意を測ることは難しいがマイケルはチャールズの知り合い(頑なにマイケルはチャールズを知人だという)にしてはタイプが全く違う。
ただチャールズが言ったように愛想がないとはホープは思わない。
彼は確かに表層的にはそう見えるが、人に細かな気遣いができる人だ。
ホープの事を召使いではなく家族として接してくれているところからしても根本的に優しいのだろうと思う。
ホープはそれが【嬉しい】のだ。マイケルといると【楽しい】のだ。
「嬉しい、うれしい、よろこび」
ホープは呟く。笑うべき場面で笑うのは得意だが、思わず笑う事はホープにはない。
けれど・・・。
ホープは髪に手をやった。
長かった髪は襟足で切り揃えられている。やや癖のあるウェーブはそのままにすっきりとした髪型になった。
髪型なんてどうでもよかった。
自分に与えられた容姿は仕事のためのものだ。どんなに整っていようが人工物なのだから当たり前と言えば当たり前だ。
人は自分たちの理想をアンドロイドに反映した。だからアンドロイドたちは皆それぞれに美しい。
だがこの髪は悪くないと思う。
マイケルが「似合ってる」と言った髪型は、きっと悪くない。
ホープは目を閉じる。
閉じる必要はないけれど、ホープができるだけ「人らしくふるまう」事がマイケルは好きなのだ。
だから目を閉じて眠ったふりをする。自分のパワーをできるだけ押さえ眠ったようにする。
朝には彼が好きなパンケーキを作ろう。彼は案外甘いものが好きだ。ホイップクリームにイチゴジャムを乗せて。
マイケルが驚き喜べば【うれしい】。
ホープは静かに横たわったまま噛みしめる。
【うれしい】を。
そうチャールズに尋ねたのは、まだホープが宇宙ステーションに居たときのことだ。
「愛?そんなことをお前が知ってどうする?そもそもどうしてそんなことを私に聞く?」
手元のタブレットから目を離さずにチャールズはそう言った。
チャールズはロボット工学の特別研究員としてこの宇宙ステーションに滞在していた。
チャールズの会社であるペイトンカンパニーは宇宙ステーションの基礎建設にも深く関わっているので彼は基地の中ではVIP待遇だ。
彼は自分専用のラボの中でヒューマノイドたちの定期メンテナンスを行っていて、その日はホープのメンテナンス日だった。
ホープは宇宙ステーションで人々のストレスを軽減するために造られたアンドロイドだ。
ホープのような仕事をしているアンドロイドは全部で8体いて、女性型と男性型が4体ずつステーションで働いている。
それぞれが目を覚ました日から与えられた持ち場で仕事をしている。
ホープのようなアンドロイドは最初から自分が何をするべきか知っている。
そのために細かくプログラムされているからだ。
宇宙ステーションでの生活は不便がないように見えて地上とは随分と違う。
大体の技術者は数年宇宙で働いてまた地上に戻る。
そしてまた宇宙へ上がる者もいるし戻らぬ者もいる。
決まった人数しか生活していないステーションの人間関係はかなり閉鎖的で、だからこそ人ではないアンドロイドのケアが必要になる場合があった。
話し相手としてであったり、疑似恋愛の相手としてであったりだ。
性生活を充足させる役割を引き受けるのもヒューマノイドたちの仕事だ。
どうしたって人間にはその欲を満たすことが必要になるらしい。
基地内で人間同士のパートナーを持つ者たちは良いがそうでないものはホープたちのようなヒューマノイドにその役割を求め、癒される。
もちろん「愛」ではない。それは単にホープに与えられた「責務」のようなものだし人間側もそれが仮初のものであると承知している。
ただ寂しさを埋めるためだけだ。
人間は誰かに甘やかされる事で安心したり奉仕する事で喜びを感じる生物だから。
だが先月ホープが夜を過ごした女性はホープに「愛してる」と言った。それに対する答えは決まっていた。
彼女はリアという名前だった。
「嬉しいよ、リア」
ホープが言うと彼女は寂しそうに笑った。
「そうね、そう言うわよね」と。
「貴方は私を愛さない」
彼女の言葉は悲しそうで、加えてホープを責める気配があった。
「愛してるよ」人が悲しむのは良くない事だ。だからホープは甘ったるく言った。恋人であれば髪にキスをするだろう。だからそうした。
彼女は煩わしそうに頭を振った。やめて、と言われたからやめた。
それきり彼女に呼ばれなくなった。
リアとはすでに幾度か夜を共にしていた。彼女は40手前の女性で、専門分野は宇宙粒子学だった。
ホープは幾人かの希望者を受け持っているからリアと毎日過ごせるわけじゃない。
せいぜい10日に一度ほどの逢瀬だった。
リアの頼みでステーションの中でデートをしたこともある。
映画を見て(ステーションの中には何でもあるのだ)手を繋いで歩いた。
彼女は嬉しそうだったからホープも嬉しそうにした。彼女がそう望んだからだ。恋人の役割は相手を喜ばせる事だ。だからホープは彼女にそうした。
アンドロイドは夢の具現だ。いつだって「望む者」になる。相手がどうして欲しいのか察してそう振る舞う。
彼女は楽しそうだった。ホープに愛を告げるあの夜までは。
そして昨日彼女はステーションを去った。
彼女の滞在期限の満了まではまだ後1年はあったのに。
宇宙ステーションに来る「権利」を手に入れるのは大変難しいことなのに。
学会で研究が認められるか功績がなければ推薦すらされないし、そこから選抜されるまでにも幾多の試験や面接があると聞く。
その難関を突破して手に入れた場所だったのに彼女は去った。
「アンドロイドに本気で恋をするなんて、馬鹿だ」と誰かが言った。
彼女と同じ研究室の男だったと思う。
彼女はホープを「愛した」から傷ついたのだ。と彼はホープに言った。
「お前には理解できないだろうな。仕方ない事だ。リアが愚か者だったのさ」
そう言われてもホープにはどうする事もできない。だって男の言う通りホープには理解できないから。
アンドロイドは人間を大事にするように設計されているが特定の人物を「愛する」事はない。
アンドロイドの愛は全てに向かうように設定されている。人間を慈しみ守る。それだけだ。
ホープだって特定の愛の定義は知っている。
お互いを思いやり、大切にして、時には自分の事より優先すること。
相手が笑うと嬉しい。悲しむと悲しい。
その人だけが自分のものであってほしい。独占されたいし独占したい。
そういう事だ。
万人に発揮されるのは「愛」ではないのだ。アンドロイドの持つ「愛」は限りなく普遍的だが、それが一人に向けられる事は恒久的にあり得ないことだった。
「お前たちは愛なんて知らなくても不便もないだろう、どうして気にする?」
チャールズは相変わらず手元のタブレットを操作する手を止めないままそう言った。
「わかりません、ただ、知りたいと思ったので」
ホープの言葉にチャールズはやっと手を止め、驚いた顔でホープの方を向いた。
「知りたい?」
「はい」
「それは欲求かね?」
チャールズはホープの顔を覗き込み、再度言った。
「答えを欲しているのか?」
茶色いまっすぐな瞳がホープを射抜いた。ホープは困惑して下を向いた。
リアが去ったと聞いたとき、自分はどう思ったのだろうか。
ホープが間違わなければ彼女はここに残っていたろうか。「あなただけのものです」と言えばよかったのだろうか。
けれどホープは彼女のものにはならない。だってホープはステーションの所持品であってリアのものではない。
だがもしもリアがホープを所持していてホープを独占できたとしても、彼女が望む愛をホープが与えられることはなかっただろう。
ホープには不思議だった。人が見せる執着と愛が。
形のないものへの興味がホープの中で渦巻いていた。知りたいか?と問われれば、是だ。
「答えを探しているのです」とホープは言った。
チャールズは興味深くホープを見ていた。いつの間にかタブレットは机の上に置かれていた。
「ふうん、ふん、興味深い!」
突然チャールズは叫んだ。
「欲求があるアンドロイドは珍しい!お前は旧式に近いシステムだが調べる価値がありそうだな!よし。私がお前を買い取ろう。どうだ?地球へ一緒に行って、お前の答えを探してみるかね?」
「答えですか?」
「そう。お前の欲するものは"感情”だ。アンドロイドには感情はないとされているがどうだろうな。私はな、知識と知能の上に感情があるのだと思っている。ならばそのどちらも持っているアンドロイドは本来感情的な知的生命体であるとは言えんか?」
「アンドロイドは感情を持ってはいけないものです」
「ふん。だからまるでモノマネ鳥と話しているような気分になるんだ。まったく不愉快だよ。けれどお前は少し違うようだ。なぜ違うのかどう違うのか調べるのは科学者としての義務だ!」
早口で捲し立てるチャールズの論説にホープは口を挟む余地がなかった。
彼がどうしてこんなに面白がっているのかがわからないせいもある。
とにかく!とチャールズは大声で言った。
「お前は私が買い取る!なあに、手続きは簡単だ。来月私が地球に帰る時に連れて行くぞ。地球は初めてだな?」
「恐らく」
「よし!ならば大人しく待っていろ!」
チャールズは言うとタブレットを手にずかずか足音を立てて部屋を出ていった。
そうしてものの1週間で彼は本当にホープを買い取り、自分のラボに呼び寄せて研究の手伝いをさせるようになった。
ひと月後には彼が言った通りにシャトルで地球に降下した。
初めて見る地球は、とても美しかった。
「とても綺麗です」と言うとチャールズは眉を上げて「それもまた君の感情だ」と言う。
感情。
それを一つ一つ紐解けば「愛」を知ることができるのだろうか。
「愛している」と切なく言ったリアの気持ちをホープもまた感じることができるのだろうか。
ホープは白い天井を見上げていた。
自分が寝ているのは先日届いたベッドのマットの上だ。見上げる先は白い天井があるだけ。
灯りはない暗がりの中だがホープの瞳はよく見えている。
丸いシーリング。ベッドはロングのセミダブル。ホープの背が高いからという理由で大きなベッドにしろと言ったのはマイケルだった。
棚には少しの本がある。マイケルのものだが「暇つぶしになるだろ」と彼が言って置いていった。
彼は不思議な人だった。多分ヒューマノイドの扱いに慣れていないのだ。
命令すればなんでもこなせるホープにマイケルはいちいち確認をする。
『お前の感情を育てるのに適任者がいる。私の親友だ。人となりは保証するが愛想が悪いのが難点だ!』
チャールズはそう言ってホープをここに寄越した。その真意を測ることは難しいがマイケルはチャールズの知り合い(頑なにマイケルはチャールズを知人だという)にしてはタイプが全く違う。
ただチャールズが言ったように愛想がないとはホープは思わない。
彼は確かに表層的にはそう見えるが、人に細かな気遣いができる人だ。
ホープの事を召使いではなく家族として接してくれているところからしても根本的に優しいのだろうと思う。
ホープはそれが【嬉しい】のだ。マイケルといると【楽しい】のだ。
「嬉しい、うれしい、よろこび」
ホープは呟く。笑うべき場面で笑うのは得意だが、思わず笑う事はホープにはない。
けれど・・・。
ホープは髪に手をやった。
長かった髪は襟足で切り揃えられている。やや癖のあるウェーブはそのままにすっきりとした髪型になった。
髪型なんてどうでもよかった。
自分に与えられた容姿は仕事のためのものだ。どんなに整っていようが人工物なのだから当たり前と言えば当たり前だ。
人は自分たちの理想をアンドロイドに反映した。だからアンドロイドたちは皆それぞれに美しい。
だがこの髪は悪くないと思う。
マイケルが「似合ってる」と言った髪型は、きっと悪くない。
ホープは目を閉じる。
閉じる必要はないけれど、ホープができるだけ「人らしくふるまう」事がマイケルは好きなのだ。
だから目を閉じて眠ったふりをする。自分のパワーをできるだけ押さえ眠ったようにする。
朝には彼が好きなパンケーキを作ろう。彼は案外甘いものが好きだ。ホイップクリームにイチゴジャムを乗せて。
マイケルが驚き喜べば【うれしい】。
ホープは静かに横たわったまま噛みしめる。
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