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第二十六話 ユートピア
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家の窓から光が燦燦と差し込んでいた。
マイケルは「ううん」と唸って目を覚ました。
どうやら昨夜は久しぶりに【眠ってしまった】らしい。
まったくホープが無茶をするからだ。と隣で丸くなっているホープを睨みつける。
時々眠るマイケルと違いホープは眠ったりはしない。
だから今も目を閉じていても眠ってはいないのだ、だって口元に笑みが浮かんでいる。
「おい。ホープ」
「ん?何?」
ホープは呼ばれて目を開く、美しい緑色の瞳が優しくマイケルを見つめていた。
「今日の予定は?」
「今日はボビーの家を建てるのを手伝う日」
あぁ、とマイケルは頷いた。
ボビーはつい1週間前にここに来た新参者だ。
黒い褐色の肌に厳めしい容姿をしている彼は、元はボディーガードの仕事をしていたアンドロイドで使っていた人間が「飽きた」から廃棄されるところだったらしい。
彼は今ジョシュアの家に居候している。別にそれで困ったりはしないけれど、よほどの事がない限りここでは一人に一つの家を提供するのだ。
もしもシェアしたい、もしくは何人かで住みたいのならそれはそれで構わないのだが。
だが家で自分を囲う事も案外大事だとマイケルは思う。だから1人に1つの家を建てる。
ここはペイトンの私有地で表向きは会社の施設の一部となっている。
今ここにいるアンドロイドは全部で20体。
彼らはペイトンのエネルギープロジェクトなどを手伝いながらここで生活をしている。
アンドロイドは基本的に眠らないし疲れないから生産率はすこぶる良い。よく働くし、物覚えも抜群だ。
チャールズは「とても助かる」と言ってくれていてそれはまんざら嘘でもないようだ。
子供型のアンドロイドも少ないがいる。今はエミとビリー。どちらも子守の為に作られ子供が成長したから捨てられた。
ここにはそういうアンドロイドたちが集っている。
マイケルとホープは数年前から様々な情報を集めて、仲間を集めだした。
彼らは自分の存在に疑問を持ち、そして何かを見つけたがっている者たちだった。
やりがいを求める者もいれば愛を求める者もいる。悩みながら何かを見つけようとする者も。
ボビーの家はもうすぐできあがる。
彼は絵を描きたいと言ったから家の中にはイーゼルやキャンパスが詰め込まれていた。
ロッキングチェアはアリソンが創ったものだ。彼は手先が器用だから。
家が完成するとボビーは皆に礼を言った。「ありがとう、夢がかなったよ」と言った彼は幸福そうだった。
ほどなくしてアリソンとボビーが一緒に住み始めた。ボビーがデザインしたものをアリソンが作るようになった。
彼らが愛し合っているのか、ただの友情なのかマイケルは知らない。けれどそれでいいと思う。
マイケルとホープの家は村の高い丘の上にあって、だからみんなの家の屋根がぽつりぽつりと見えていた。
統一性のない家たち。屋根の色もみんな違う。皆が自由に建てた家はバラバラで、だけれどそれが面白い。
それを見てマイケルは満足そうにうなずく。
「ずっと生きるなら、ずっと生きるだけの価値のあるものを探さなきゃな」
マイケルは笑って言った。
このコミュニティは、今はまだ小さいけれど、もしかしたらここが街のように、国のようになるかもしれない。
「ここがそう?マイケルの生きがい?」
「ちょっと違うな」
マイケルはホープを振り仰いだ。
「俺の生きがいはお前だから」
真顔で言ってまた前を向く。
ホープはたまらなくなってマイケルを後ろから抱き込んだ。
「好きだよ、マイケル」
「おお」
「ずっと、好きだよ」
「何年言ってるんだよ。お前」
「ずっと言うよ」
「そうか」
後ろを振り仰いだマイケルにホープは熱烈なキスをする。
「あ~!またマイケルとホープがいちゃついてる!」
遊びに来たエミが指を指して言った。
ホープはキスを止めて、それでもマイケルを抱き込んだまま「いいだろ?」と自慢げに言った。
「やだやだ!大人って!あ!私ね、チャールズに大人のボディを作ってもらう約束しちゃった」
「子供はいやなの?」
「だってもう私20年もこのままなんだもん、いい加減大きくなりたいわ」
「そっか、そう自分で決めたんだね」
「そう、私が決めたの」
エミは嬉しそうに言ってから「チャールズんとこ行ってくる!」と駆け出して行った。
「決めたか・・・」
マイケルが眩しそうにその後ろ姿を見てそう呟いた。
どんなものにも自分で選ぶ権利がある。
だからここでは誰もが自分で「決める」のだ。
機能を停止したければ、それはそれでいいのだろう。生きたければ生きればいい。
愛したければ愛するべきだ。
かつてマイケルとホープが選択したように。
「ねぇマイケル、今度はどこに行く?」
「そうだなぁ、南の方に行くか?何年も北ばかりだったから」
マイケルとホープは手を繋いで家に入っていく。
自分たちの家に。マイケルが伸びあがってホープの頬にキスをした。
それはいつもの光景。
いつもの二人の姿だった。
Fin
マイケルは「ううん」と唸って目を覚ました。
どうやら昨夜は久しぶりに【眠ってしまった】らしい。
まったくホープが無茶をするからだ。と隣で丸くなっているホープを睨みつける。
時々眠るマイケルと違いホープは眠ったりはしない。
だから今も目を閉じていても眠ってはいないのだ、だって口元に笑みが浮かんでいる。
「おい。ホープ」
「ん?何?」
ホープは呼ばれて目を開く、美しい緑色の瞳が優しくマイケルを見つめていた。
「今日の予定は?」
「今日はボビーの家を建てるのを手伝う日」
あぁ、とマイケルは頷いた。
ボビーはつい1週間前にここに来た新参者だ。
黒い褐色の肌に厳めしい容姿をしている彼は、元はボディーガードの仕事をしていたアンドロイドで使っていた人間が「飽きた」から廃棄されるところだったらしい。
彼は今ジョシュアの家に居候している。別にそれで困ったりはしないけれど、よほどの事がない限りここでは一人に一つの家を提供するのだ。
もしもシェアしたい、もしくは何人かで住みたいのならそれはそれで構わないのだが。
だが家で自分を囲う事も案外大事だとマイケルは思う。だから1人に1つの家を建てる。
ここはペイトンの私有地で表向きは会社の施設の一部となっている。
今ここにいるアンドロイドは全部で20体。
彼らはペイトンのエネルギープロジェクトなどを手伝いながらここで生活をしている。
アンドロイドは基本的に眠らないし疲れないから生産率はすこぶる良い。よく働くし、物覚えも抜群だ。
チャールズは「とても助かる」と言ってくれていてそれはまんざら嘘でもないようだ。
子供型のアンドロイドも少ないがいる。今はエミとビリー。どちらも子守の為に作られ子供が成長したから捨てられた。
ここにはそういうアンドロイドたちが集っている。
マイケルとホープは数年前から様々な情報を集めて、仲間を集めだした。
彼らは自分の存在に疑問を持ち、そして何かを見つけたがっている者たちだった。
やりがいを求める者もいれば愛を求める者もいる。悩みながら何かを見つけようとする者も。
ボビーの家はもうすぐできあがる。
彼は絵を描きたいと言ったから家の中にはイーゼルやキャンパスが詰め込まれていた。
ロッキングチェアはアリソンが創ったものだ。彼は手先が器用だから。
家が完成するとボビーは皆に礼を言った。「ありがとう、夢がかなったよ」と言った彼は幸福そうだった。
ほどなくしてアリソンとボビーが一緒に住み始めた。ボビーがデザインしたものをアリソンが作るようになった。
彼らが愛し合っているのか、ただの友情なのかマイケルは知らない。けれどそれでいいと思う。
マイケルとホープの家は村の高い丘の上にあって、だからみんなの家の屋根がぽつりぽつりと見えていた。
統一性のない家たち。屋根の色もみんな違う。皆が自由に建てた家はバラバラで、だけれどそれが面白い。
それを見てマイケルは満足そうにうなずく。
「ずっと生きるなら、ずっと生きるだけの価値のあるものを探さなきゃな」
マイケルは笑って言った。
このコミュニティは、今はまだ小さいけれど、もしかしたらここが街のように、国のようになるかもしれない。
「ここがそう?マイケルの生きがい?」
「ちょっと違うな」
マイケルはホープを振り仰いだ。
「俺の生きがいはお前だから」
真顔で言ってまた前を向く。
ホープはたまらなくなってマイケルを後ろから抱き込んだ。
「好きだよ、マイケル」
「おお」
「ずっと、好きだよ」
「何年言ってるんだよ。お前」
「ずっと言うよ」
「そうか」
後ろを振り仰いだマイケルにホープは熱烈なキスをする。
「あ~!またマイケルとホープがいちゃついてる!」
遊びに来たエミが指を指して言った。
ホープはキスを止めて、それでもマイケルを抱き込んだまま「いいだろ?」と自慢げに言った。
「やだやだ!大人って!あ!私ね、チャールズに大人のボディを作ってもらう約束しちゃった」
「子供はいやなの?」
「だってもう私20年もこのままなんだもん、いい加減大きくなりたいわ」
「そっか、そう自分で決めたんだね」
「そう、私が決めたの」
エミは嬉しそうに言ってから「チャールズんとこ行ってくる!」と駆け出して行った。
「決めたか・・・」
マイケルが眩しそうにその後ろ姿を見てそう呟いた。
どんなものにも自分で選ぶ権利がある。
だからここでは誰もが自分で「決める」のだ。
機能を停止したければ、それはそれでいいのだろう。生きたければ生きればいい。
愛したければ愛するべきだ。
かつてマイケルとホープが選択したように。
「ねぇマイケル、今度はどこに行く?」
「そうだなぁ、南の方に行くか?何年も北ばかりだったから」
マイケルとホープは手を繋いで家に入っていく。
自分たちの家に。マイケルが伸びあがってホープの頬にキスをした。
それはいつもの光景。
いつもの二人の姿だった。
Fin
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