OCEAN LINE 〜あの空を我が手に〜

ハーミット

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オーストラリア奪還計画

第十話「最高の艦」

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 本田綾乃を送迎した後神崎定進は急ぎ港へ向かった。生身で高速に達するのは想像以上にに大変であるので、戻る時にはなるべくゆっくりと落ち着いた速度で飛行したかったのだが、予定よりも多く時間を割いた為に港に到着したのは出航の二時間前の十六時になった。

 「おっ神崎定進が戻ってきたでぇっ!」

上空から飛来した神崎定進を発見したのは松山楽人だった。

 「けど松山、あれって明らかに止まるスピードで降りて来てないような気がする」

 ダルそうな様子で多田充が呟く。神崎定進は右足を突き出し、左膝は折りたたみながら降下してきている。松山楽人に飛び蹴りをしようとしていた。

 「めんどいなぁもぉホンマに」

 松山楽人は持っている神楽社のロゴが描かれたアタッシュケースから棒状の小さな機械を一つ取り出し、神崎定進の方に掲げてその電源を入れる。

 その機械は気体の仕組みを解明して空気を固める装置。それにより装置の前方の空気を固める事ができる。神崎定進も本気で攻撃する訳ではなかった為、蹴りが空気壁に防がれた時点で攻撃を止めて地面へ着地した。 

 「また、そんな道具ばかりに頼っているのか、俺は神楽社の道具になんて一切頼らなくても大丈夫だけどなっ」

 松山兄弟の特徴はその異能力を使い作成された道具であり、その道具で戦う。神崎定進それを完全否定する様にそんな事を言った。

 「ほう?じゃあ、神楽社の製品は一切使ったらアカンで?もちろんこの艦もな?」 

 神崎定進は忘れていたが、この瑠璃るりと言う艦は日本海洋希望の会が夜明けへ向かう為の艦として、夜明け前の空の色に因んで名付けた。そしてその設計は松山楽斗の異能力によって成され、松山楽人の異能力によって組み立てられた。

 「この艦すっげぇいい艦なんやで?まず、とてつもない嵐に遭ったとしても沈まんし、搭載されてる武装はどんだけ艦が傾いても水平を保てるんやで?」

 如何なる海上でも安定して戦闘できるのが、この戦艦瑠璃の第一の特徴である。

 「ここまでは戦闘に関しての特徴やけどなぁ、それぞれの部屋も水平を保つし、レジャー施設も完備。オーストラリアに行くまでに気力体力を消費せんように考えられてるんやで?」

 各部屋は球状になっており、床が回転して常に水平になる様設計されている。その為各部屋に分断された小隊の荷物がバラける事もない。

 「あぁ、もうわかった。神楽社の製品は凄い。有難く利用させていただにます」

 この艦は確かに乗る人の事を、護るための装備は揃っている。過去のどの艦を探しても一番の性能だろう。 

 「神崎。俺ら兄弟はオーストラリアには行かれへん。けど、けど俺達の代わりにこの艦を託す!だから神崎定進!アンタは絶対オーストラリア大陸を奪い返して来い!」

 松山楽人は神崎定進の肩に手を置き、真っ直ぐにその目を見て語りかけた。そして神崎定進は乗せられているその手を振り払った。

 「言われるまでもない。そんな事は当然だ」

 戦いではどんな事があるか分からない。確かに幻想の能力は強力であり、祖父を含む防衛戦の生存者から教わった戦闘術と合わせれば勝てない事はないだろう。しかし生命は進化するものであり、人類の知る範囲、人類に対処出来る所から出てしまえば神崎定進とて勝てるかは分からない。例え勝ち目がないと悟った時でも、勝てると自信満々に言い放つだろう。それは仲間の士気を下げない為に必要な事。

 「まっ、この艦の凄さを他国に知らしめたら、神楽社にこの艦の製造依頼が来るやろ?そしたらぼろ儲けってわけやんな?」楽斗が兄の楽人にそう問いかける。

 「せやで?そしてら俺らおお金持ちやぁ!」相変わらず二人のテンションでやり取りを交わす。

 「ハッハッハー!おもろ!」

そしていつもの笑いでその一連の流れは締めくくられる。しかし、その時二人は真剣な顔で時計を確認する。

 「じゃあ、そろそろ艦ん中行かなアカンやろ?もう四時過ぎてるしなぁ、俺らも瑠璃の最終確認は終わってるしそろそろ大阪戻るわ。まぁ行ってらっしゃい」

 松山兄弟はそう言って二人揃って艦に背を向けて歩き始めた。
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