イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

文字の大きさ
15 / 40
第一章

対武王

しおりを挟む
 武王。本名不詳。

 十五歳の頃大会に初出場ながら優勝。フラッシュ相手に戦闘時間僅か三十秒でのKO勝ちをして、圧勝した逸話は大会屈指の一戦として語り継がれている。

 その翌年も出場、そして圧勝。同時にダンジョンにも進出し、初挑戦ながらもダンジョン制覇目前まで辿り着いた。

 そんな圧倒的な力を見せつけ続けた後、いつしかついたあだ名こそが『武王』。

 だがそんな圧倒的な武王は常に飢えていた。自分と対等に渡り合える存在を欲していた。

 そしてついに武王は見つけた。自分と対等もしくはそれ以上の存在に。

「この姿を見せるのは、お前が二人目だ。」

 剛化。武王最大の奥義。圧縮された筋肉を解放することで武王の体は、兵器と化す。並の武器やら魔法では武王の体を傷つけることは不可能。

 まさに難攻不落の要塞。

「なんだ、筋肉が増えただけじゃないか。」

「フッ、痩せ我慢もいい加減にしたらどうだ?」

「生憎子供が見てるんでね。」

 武王がメイスを振りかぶる。武王の『剛化』によって強化されるのは硬度だけではない。速度、パワーなど様々なステータスが軒並み強化される。

 更に速くなった武王の攻撃を必死で受け流す。刀がメイスと接触するたび、青い火花が散る。

 くっ、痛ぇ。メイスの力に徐々に押されている。手も痺れてきたし、一度距離を取らないと。

 一度連撃の間を見て距離を取る。メイスの射程圏内から外れたはずーかと思いきや。武王の腕が伸縮し、俺の腹に直撃した。

 流石のクリーンヒットに蹲ってしまう。

「おっと?これで終わりか?」

「な訳あるか……」

 腹を抱えながら、やっとの思いで立ち上がる。しかし今なぜ攻撃が俺に届いた?十分な距離をとったはずなんだが。

「なぜ当たった、と言いたげな顔だな。」

「んっ……なんで当たったんだ?」

「この腕を見れば分かるだろ?」

 武王の腕を凝視する。ん?なんか伸びてないか?

「勘の悪い野郎だな。外したんだよ、わざと。」

「何を?」

 武王が本当にそこまでいわせる気かと言わんばかりの素振りを見せる。呆れられたみたいだな。

「肩をわざと脱臼させて距離を伸ばしたんだよ。」

 げっ、肩をわざと外した?そんなことしたら威力が出ないだろ。

『おい馬鹿者。お主はどこまで阿呆なんだ。』

 神威からも喝が飛んでくる。そんなこと言われても、戦闘なんて転移するまでまともにしたことないんですよね。

『まあいい。あいつは今剛化してるだろ?剛化の影響で肩を外しても威力が落ちないのだよ。』

 なるほど、ようやく分かったよ。で、これにどうやったら勝てるの?

 さっきまでは見栄張って豪語してたけど、本当は緊張やら不安でちびりそうなんだよな。

『まあ案ずるな。我に策がある。とりあえず刀を握れ。』

 俺は神威に言われるがまま刀を握る。で?次はどうすればいいのかな。

『じゃあ、突っ込め。』

 はっ?

『突っ込め。』

 意味分かんねぇ。でも俺に策がある訳でもないし、騙されたと思って乗ってやるよ!俺は全速力で武王へと突っ込む。

『じゃあ次は刀を鞘にしまえ。』

 え?

『いいから。』

 くそっ、失敗したら恨むぞ!刀を鞘へと仕舞う。

『俺が合図したら刀を鞘から出せ。』

 合図って、いつ!

『いいから突っ込め!』

 こんな念話をしてる間も、武王との距離は着実に縮まっている。もう二、三メートルしか離れてない。いよいよメイスの射程圏内に入る。

 もうどうすればいいの!

 武王はメイスを振りかぶる。万事休すかぁ……

『今だ!飛べ!』

「くそっ!」

 俺は地面を蹴り、宙に浮く。武王のメイスが俺のすぐ下の空気を切り裂く。

『ここだ!鞘から出せ!』

 鞘から刀を勢いよく出すと、見えない斬撃が鎧もろとも武王の体を切り裂く。

「ぐっ!」
 
 武王の口から苦しそうな吐息が漏れる。予想外のダメージに怯んだ武王は一度メイスを振って牽制を行う。

「やるじゃないか!」

 武王が愉しそうに叫ぶ。ついに現れた好敵手に興奮している。

 てか、一体どうやって『剛化』したあいつにダメージを与えたんだ?

『俺の不可視の斬撃の威力は何に影響されると思う?』

 そりゃ溜めの時間じゃないの?

『大正解だ。じゃあ一番早い斬撃を放てるのは?』

 抜刀時ってことか?

『その通り。あの鞘の中で威力を溜めて、最速の不可視の斬撃を放ったんだ。』

 じゃあわざわざ仁王立ちして斬撃を溜める必要は?

『ない。』

 …………

『ほら、追撃だ。戦闘に集中しろ!』

 はいはい!いまいち状況を理解していない武王を仕留めに攻める。再び鞘に刀をしまい、威力を溜める。

「負けてたまるかぁ!」

 武王も割り切って攻めへと切り替える。

 いよいよ武王が斬撃の射程圏内に入った。ついに抜刀をしようとしたその瞬間ー

 ドガァ。

 武王のメイスが俺の顔に直撃した。

 くそっ、意識が朦朧とする。どうにか致命傷は避けられたけど、ダメージは依然デカい。どうやら、武王はメイスを俺に投げつけたみたいだ。

 まさに捨て身の攻撃。

 その攻撃が功を成し、互いに失神一歩前というところ。お互い、次の衝突で全てが決まると理解していた。

「さて、そろそろフィナーレかな。」

「うむ。お前と戦えたこと、誠に光栄だった。」

 俺は刀、武王は拳を構える。メイスを捨てたことによって身軽になった武王のスピードは最高潮を迎えていた。

 一方で俺は満身創痍ながらも、一撃分の余力を残していた。どちらが勝ってもおかしくない勝負。

 刀を鞘に仕舞い、俺は蛇行しながら武王の元へと向かう。武王はカウンター狙いか、不動だ。

 ついにお互いがお互いの射程距離に入った。俺は刀を強く握り、可能な限りの速度で抜刀する。そして同時に武王も拳を握りしめ、腕を大きく振る。

 ついに俺は刀を抜いたがー不可視の斬撃は放たれなかった。呆気に取られた武王の拳を刀で受け流す。

 その衝突の威力で刀が吹き飛ぶ。

「もらった!」

 刀を手放した俺にトドメを刺そうと武王がもう片方の拳を振りかぶる。武王はこの時、油断していた。刀を手放した剣士など怖くない。

 その驕りが動きを一瞬鈍らせていた。

「それはこっちの台詞だー『心情創造者』ッ!」

 武王は無意識のうちに、ユウマのことを剣士だと決めつけていた。刀以外に武器はないと思っていたーそれ故に武王は致命的な過ちを犯す。

 スキルを発動させ、俺は小さなナイフ(税込362円)を生成する。そして、既に負傷している肩を狙って不可視の斬撃を放つ。

 その斬撃は隙だらけの武王を捉える。

 ブシュッー

 武王の肩から鮮血が滝のように噴き出す。己の肩が真紅に染まる様子を見て、武王は自身の負けを悟る。

 初めての敗北は彼にとって、もはや清々しい物であった。

「くっ、一本取られた……どうやら俺の負けのよう……だー」

 そう言い残すと、武王は力無く地面に倒れた。武王の肉体は壮絶な戦いからか、蒸気を纏っていた。

 それほどまでに紙一重な戦い。

『しょ、勝者!ユウマァ!!!』

 実況がそう宣言すると、会場が爆発する。

「うぉぉぉぉぉぉ!」
「すごいぞぉ!!」

 歓声が会場を埋め尽した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...