イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

邂逅と衝突

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 アストレア王国では奴隷売買は違法だ。奴隷市の摘発や取り締まりも、しょっちゅう行われるそうだ。しかも、奴隷売買を犯した罪人には問答無用で死刑が言い渡される。そんなハイリスクを取ってまで奴隷市へと人々が通いつめる理由、それは奴隷売買が儲かるからである。

 奴隷を売る側は高額で売れる。買う方は半永久的に働くマンパワーが手に入る。リスクよりも圧倒的に利益の方が大きいのである。

 ただそんな奴隷市も法からは逃れられない。奴隷売買が違法である以上、奴隷市が存在しているという事実を隠さなければならない。

 そのためか、紹介された奴隷市はアストレア王国郊外の辺境の地にポツンとあった。広大な草原の中心に鎮座する漆黒の建物は場違いで物々しい雰囲気を放っていた。

 まるで刑務所のような造りをしている奴隷市は、奴隷の脱獄を防ぐためか大量の警備員が辺りを絶えず巡回していた。

 覚悟はしていたものの、やっぱり奴隷市って怖いところだな。少しビクビクしながらも、二人の強面の警備員が守る正門へと足を進める。

 奴隷市場の建物内に入ろうとしたその時、一人の警備員に呼び止められる。

「そこの二人、紹介状を見せろ!」

 突然声をかけられたから一瞬ビクッとしたけど、紹介状を見せたらすんなり通して貰えた。建物の中はサッカーコート2個分くらいの大きさで、随分広かった。刑務所のような独房が規則正しく並べられていて、その独房内では奴隷が「私を買ってくれ」と言わんばかりにアピールしてくる。

 売り物の奴隷達は本当に多種多様だった。幼い子供から高齢者まで、さまざまな年齢層、種族の奴隷がショーケースされていた。

 かなり酷いな。

 れいちゃんには少し刺激が強すぎるので、本日分の『心情創造者』で生成したアイマスクと耳栓をさせてる。正直言って俺にも刺激が強すぎて早くここから出たいから、さっさと本題に移ろう。

 今日の目的はれいちゃんの子守を見つけることだ。子守としての最低条件は強いこと、そしてれいちゃんをちゃんと守ってくれることだな。あとできれば女性がいいな。

 さて、この条件に合う奴隷がいるかどうかが問題なんだけどな。一人一人鑑定してくわけにはいかないし、一度店員さんに聞いてみよう。

 近くにいた暇そうな若い店員さんに話しかけてみる。

「すみません」

「はい」

「実は、強い女性の奴隷を探してまして。」

「強い、女性の奴隷ですか……」

「はい。」

 少し考える素振りを見せると、店員さんは「ついてきてください」と一つの独房の元へと案内してくれた。

「こちらはどうでしょう?戦闘民族クルシュ族の唯一の生き残りです。」

 店員さんが案内してくれた独房内には、俯いたまま何かをぶつぶつと口ずさんでいる赤髪の女性が壁に寄りかかるようにして座っていた。

 また、この女性は鑑定せずとも分かるような強者の体つきをしていた。

「この人と話して見てもいいですか?」

「話す……ですか。クルシュ族が話すクルシュ語を喋れる者はここにはいなくてですね、意思疎通が不可能なんですよ。」

「意思疎通ができないってことは、ずっとこんな状態なんですか?」

「そうなんですよ。奴隷になってからかれこれ2週間ですけど、何にも食べないし飲まないし。クルシュ族だから一ヶ月くらいは飲食しなくても大丈夫ですけど、このまま売れ残る様子だと殺処分ですかね。」

 殺処分か。そんなことを飄々と口にできる辺り、やはり奴隷市は恐ろしいところだ。ここの店員は全員裏社会の人間。どんなことをされるか分からない以上、油断は禁物だ。

『殺す……』

「ッー!?」

 物思いに耽っていると、微かに独房から声がした。一度疑ったが、確かにその声は独房内から発せられたものだった。

 なぜクルシュ語が分かる?そして「殺す」って何!恐る恐る独房内に目を向けるとクルシュ族の女性が物凄い殺気を放っていた。

『おいユウマ!』

 神威が驚いている俺を見かねてか、脳内に話しかけてきた。

 なんだよ神威。こっちはお前のしょうもない話に付き合ってる場合じゃないんだよ!

『いいから聞け!お前には『言語理解』というスキルがあるってことを忘れるな!』

 あ、そうだった。『言語理解』というスキルのおかげでクルシュ語が分かったのか。だとしたら、話すこともできるのかな。一度試してみよう。

「そこの君、名前は?」

 そう女性に声をかけてみると、驚いた様子で固まってしまった。真紅の目を大きく見開いて俺を一心に見つめてくる。

「ッ!なぜその言葉を……」

「クルシュ族の友達がいるだけだよ。」

 『言語理解』のスキルはあまり人に知られたくないから、伏せておくことにした。さて、信用してくれればいいんだけどな……

「そうか。なら私をここから出せ。」

 ……は?

「どうしてそんな驚いた表情をしてるんだ?クルシュ族の友達から聞いてないのか?」

 えっ、どういうこと?

「クルシュ族の仇を討つために、力を貸せと言ってるのだ。」

「ちょっと待ってくれ!話がー」

「話などもう十分。さっさと出せ。」

 なんだこの破茶滅茶な女。さっきからすごく自分勝手で俺の言ってることを全く聞いてくれない。こんな人にれいちゃんの子守は任せられない。どれだけ強くても、れいちゃんを守る気がないなら要らない。

「すみません店員さん、やっぱり違うのにします。」

「そうですか。まあこんなイカれ女無理ですよね!ではもうちょっとちゃんとした商品をご案内しますね!」

 店員さんはそう言って違う独房へと案内しようとしたその瞬間。

「お前待てよ!」

 その場から立ち去ろうとしたその瞬間、クルシュ族の女が俺に向かって発狂してきた。

「お前ここから出せ!何帰ろうとしてるんだよ!」

 その様子を見て、店員は、
「あのイカれ女、何か吠えてますね!放っておきましょう!」

 と笑顔ながらに言い放った。

「おい!お前逃げるな!」

 店員に連れられながらも、クルシュ族の女は吠え続ける。

「殺してやる……お前も、そ、その子も殺してやる!」

 その呪詛のような叫びに、俺は少し怖気付いた。こんな奴にれいちゃんは任せられない。そう決心してその場から離れようとしたその時、れいちゃんがアイマスクと耳栓を外して何かを訴えかけてきた。

「あぅ!あぅあぅ!」

「れいちゃん!耳栓とアイマスクを外しちゃダメだって言ったでしょ!」

 そう注意してもれいちゃんは聞き入れる素振りも見せずに、さらに大きな声で何かを訴える。

「あぅあぅ!」

 なになに?あの人の手?

 どうやられいちゃんは女の右手に握られている古びた布切れのような物が気になってしょうがないようだ。

 まあ、れいちゃんがそんなに言うなら……

「すみません、店員さん、あの人ともうちょっと話してもいいですか?」

「えっ?」

 店員さんは驚きを隠せずにいた。こんなギャーギャー叫んでる相手ともう一度話すなんて狂ってると言わんばかりに目を見開いてる。

 そんな店員さんの視線を無視して、俺は再びクルシュ族の女の独房に近づく。

「ねぇ、その握ってる布切れは何?」

「ッー」

 女は虚を突かれたようで、一瞬驚いた表情を見せると、唇を悔しそうに噛み締めた。そして苦しそうに、

「子供……のものだ」

 と呟いた。さっきまで名前すら教えてくれなかったのに急にお喋りになったな。しかし、子供のもの?

「それって君のお子さんってこと?」

 そう聞いてみると、女は小さく頭を縦に振った。

「えっと、その子供さんはどうしたの?」

「……殺された……私の目の前で」
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