イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

文字の大きさ
30 / 40
第一章

ギルド飯

しおりを挟む
 不幸中の幸いというべきか、襲撃された地点は王都からあまり離れていなかったので、徒歩でも数時間で着いた。ただそれでも王都に着いた頃には空は真っ暗だった。

 10キロくらい歩いたから、もう足がクタクタだ。どれだけレベルアップしても、疲労からは逃れられないようだ。

 だがまあ、野宿にならずに済んだから万事オッケーだ。

「いやぁもう真っ暗ですね。」

 日が沈みきった空を見つめながらダニェさんが呟く。

「そうですね。あれだけ歩いたら流石にお腹が空きますね。」

 そう言うと同時にれいちゃんのお腹がグルグルと鳴る。どうやられいちゃんも同じ旨のようだな。

「確かにお腹が空きましたね。なら、一緒にギルドの酒場で飲みませんか?」

 ギルドの酒場か。行ったことはないけど、確か安くて美味いってよく耳にしたな。何なら、ギルドの飯目当てで冒険者になるひとも居るとか。

 ギルド飯、気になる。

 それに、ついでに報酬金も受け取れるしな。せっかくだし、お誘いに応じさせてもらう事にしよう。

「いいですね。一度行ってみたかったんですよ。」

「本当ですか!なら早速行きましょう!」

 ダニェさんはそう言うと、足早にギルドへと向かう。よほど夕飯が楽しみなのだろうか、ダニェさんはまるで子供のような無邪気な笑顔を見せていた。

***

 朝や昼では閑散としていたギルドの酒場は、大勢の冒険者で賑わっていた。各々はしゃぎまくり、まるで宴会のような雰囲気を醸し出していた。後に聞いた話によると、酒は夜にならないと出ないため、朝昼は空いているらしい。

 俺たちが端の方のテーブル席に着席すると、女性の店員さんがメニューとお冷やを持ってきた。驚くことにその店員さんは胸元が大きく開いた衣装、ドイツのディアンドルによく似た服装を纏っていた。

 そもそもの話、異世界の女性は美女、それに巨乳の方がほとんどだ。そんな巨乳美女がディアンドルなどという胸元を際立たせる衣装を着ていたら……

 男なら耐えられないよ。その証拠に、ダニェさんの視線はちょこちょこ店員さんの胸元へとシフトしていた。

 あのダニェさんでも、胸の誘惑には耐えられないようだ……

 俺も見たくない訳ではない。だが、俺には恵という美しい妻が居る。妻のことを裏切る行為は出来ない。その一心で視線を渡されたメニューへと必死にずらしていた。

 落ち着け、俺。胸のことはまず忘れよう。そのためにはまずメニューに集中しよう。

 メニューの中でまず驚いたのは、その値段だ。銅貨二枚以内でほとんどの料理が食べられる。そして次に驚いたのは、その品数だ。ざっと数えただけで200品。こりゃ悩んじゃうな。しかもメニューには、離乳食までもがあった。

 ギルド飯、偉大なり……

 れいちゃんにはほろほろ野菜のシチューを、自分にはビッグピッグのステーキとエール一杯を。アグラは、「肉と酒なら何でもいい」と言ってたので俺と同じにしといた。

 ダニェさんはレッドバードの照り焼きとワインを頼んでいた。

 注文内容を店員さんに伝えると、「かしこまりました!」と元気良く返事して、足早に去って行った。この賑わいようだと、やっぱり忙しいのだろうな。

 俺は店員さんを後ろ目にお冷やを一口飲み、息を整える。さて、まずずっと気になっていたことから聞こうか。

「ダニェさん、なんでコユキちゃんがここに居るんですか?」

 ダニェさんを襲撃した張本人がのこのこと食事を一緒に取ろうとしている状況に、俺は混乱していた。

「ああ、お腹が減ったって言ってたのでつい。」

 「つい」じゃないんだよおい。流石に襲撃した張本人を同じ空間に置くのは警戒心なさすぎるだろ。

「コユキはこのステーキがいい。」

「ならこれも頼もうか。すみませんー」

 ダニェさんは当たり前のようにコユキちゃんの分のステーキを頼む。店員さんに注文を告げると、満足した様子で隣のコユキちゃんへと微笑みかけた。

 器が広いのか、単なる馬鹿なのか……バンさんといい、ガーレンさんといい、異世界のおじさんは個性が強すぎるだろ。

「あぅあぅ……」

 どんまいと言わんばかりに、れいちゃんは俺の背中をさする。この大変さが分かるか、れいちゃんよぉ。

 そうやって悩んでいる内に、さっきの店員さんが料理を運んできた。

「お待たせしました!ビッグピッグのステーキです!」

 熱々の鉄板の上でジュージューと音を立て、肉汁をあふれさせるステーキはまさに絶品だった。ステーキを一切れ口に運ぶと、肉の旨味が口の中で広がる。やはり焼きたての肉は最高だ。

 アグラも美味しさのあまり、プルプルと震えて悶絶していた。

「あぅあぅ!」

 おっと、れいちゃんも食べたいよな。ただ、このステーキはちょっとダメだから、野菜シチューで我慢してくれ。

 俺は野菜シチューを一口分スプーンで掬い、れいちゃんに食べさせる。するとれいちゃんは「あぃ!」と嬉しそうに声をあげ、おかわりをくれと言わんばかりに大口を開ける。

「はい、もう一口。あーんしてねー」

 もう一口分のシチューをれいちゃんに食べさせると、れいちゃんはまたもや「あぃ!」と返事をして大口を開けた。

 なんだろう、この小動物みたいな可愛さは……

 その後は淡々と食事をし、あっという間に各々完食していた。ダニェさんも、大きな笑顔でワインを啜りながら腹を撫でている。相当美味かったみたいだな。

 さて、後は会計。元々は各々の分を払うつもりでいたんだけど、ダニェさんが「命を救って下さったのですから、これくらいは私が」と言って奢ってくれた。ダニェさん本当に様様だ。

「ダニェさん、ありがとうございました。」

「いえいえ!これくらいお安い御用ですよ!いつかまた依頼があったら、その時もまたよろしくお願いします。」

「はい!何か困ったことがあれば何なりと依頼してください!すぐ駆けつけますので。」

「ハハッ、それは頼もしい。是非ともその時お願いしますね。では、またいつか。」

 ダニェさんはそう言い残すと、手を振りながらギルドを去っていった。ダニェさんの背中が見えなくなるまで見送った後、俺たちは依頼の報酬金を受け取りに、ギルドの受付に戻った。

 依頼達成確認は既に取れているらしく、依頼の報酬金はすぐに支払われた。その金額金貨百枚。一気に大富豪になった気分だ。

 ざっと金貨を数えると……うん、支払われた金額に間違いはない。金貨が入った麻袋を持ってギルドを去ろうとしたその瞬間ー

「ユウマ様、ガーレンさんからの手紙を預かっております。」

 と受付嬢が一枚の手紙を俺に渡してくる。封紙には、確かに「ユウマ殿へ」と几帳面な字で書かれている。

 俺はその場で封紙を破き、中の手紙本文を読み上げる。

『ユウマ殿へ。三日後の明け方にギルドへ立ち寄ってください。機密事項なので、当日説明させて頂きます。P.S.武器やポーションなどの装備は携帯してください。』

 三日後の明け方?機密事項?一体どういうことなんだ?不気味だな。機密事項という言葉が引っかかっていたが、一旦そのもどかしさを捨て、まずは宿を探すことにした。俺は手紙を四つ折りにしてポケットに仕舞うと、早足でギルドを出た。

 今日はもう遅いし、また明日考えればいいっか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...