イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

強奪

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 王都付近の森にて、俺たちは準備を着々と進めていた。偵察には双子のキルとキラが向かった。敵の動向を随時こちらに報告してくれている。

 その一方で俺らは罠を準備していた。まずは「魔種」が積まれている馬車を取り上げ、その後に護衛を狩っていく算段だ。

 だがそれにしても、なんで王都にこれほど接近した時に依頼をしたのだろうか?もっと早い段階、動き出した時点で潰した方が楽だっただろうに。

「それはですね、王都内に内通者がいるかもしれないからですよ。」

「うわっ!シルさん!って、なんでそれを!」

「うふふ、私は人の考えてることがちょっとだけ分かるんですよ。」

 えっ、それってシルさんに見惚れてたこともー

「見惚れてるなんて、少し恥ずかしいですね……」

 は、恥ずっ……

「と、というか!内通者ってどう言うことですか?」

「当たり前の話ですが、『魔種』という違法物質を運ぶのですから、堂々と王都正門を潜る訳には行きません。しかも王都の警備は厳重で、そう簡単に王都内に違法物質を密輸することはできません。ただそれは内通者なしではの話ですがね。都内に内通者が居れば、衛兵の巡回ルートなど、機密情報が手に入る。そうすれば、密輸の成功確率は跳ね上がりますからね。都内に密輸する時は内通者を用意するのが定石。内通者が事前になんらかの手段を用意しているのは間違いないと思います。そして内通者が居るとすると、何日も前に動いてしまうと内通者に勘づかれてしまうので直前に動くんですよ。」

 確かに、王都壁付近は隈なく重武装の兵士たちが巡回してたし、初見かつ少人数での攻略は難しそうだ。だとしたら確かに内通者がいる確率の方が高そうだし、納得できる。

「なるほど、確かにそうかもしれませんね……」

「まあ、あくまでも私の憶測ですけどね。」

「おい!雑談してねえで位置につけ!そろそろ来るぞ!」フォルフェウスがキレ気味に喝を入れる。

「じゃあユウマさん、そろそろ位置につきますか。」

「そうですね。」

 俺たちは隠密効果があるフードを被り、罠の側に待機した。自身の気配を悟られないよう、息遣いも意識する。さっきまで騒がしかった森の中は、いつの間にか静まり返っていた。

 数分すると、シルさんが俺の肩に2回触れる。敵がもう来るという合図である。それを理解した俺はれいちゃんやアグラなどにも目配せし、敵が到着することを知らせる。皆コクリと頷くと、各々武器に手を伸ばす。暴れそうで心配だったコユキちゃんもちゃんと指示に従っている。

 さあ、いつ来る。馬車は見えないものの、確かに馬車のカタカタと揺れる音が聞こえる。同時に足音と話し声も。その音はどんどん明瞭に聞こえてくる。そしてついにー

 罠が発動し、馬車が重力魔法で地面にめり込む。同時に、ダメージを受けた馬車、並びに敵の隠密魔法が解除される。ついに露見した馬車には大量の「魔種」が積まれていた。

「ゲッ!」と隠密が解除された敵の一人が嫌そうに呟く。だがその表情にはまだ余裕があるように見える。他の5人もそうだ。異常に落ち着いている。

 そんな違和感を感じながらも、俺たちは敵を殲滅しに動く。フォルフェウスは神速のステップで敵に近づき、厄介そうな魔導士を一人、大剣で両断する。大剣は2メートルをゆうに越える大きさにも関わらず、重さを感じさせない軽快な剣捌きをフォルフェウスは見せる。

 一方でシルパーティーは連携攻撃で、確実に敵を仕留めていく。聖騎士ローレルがタンク役として敵を引きつけ、そこにシルが拘束系の魔法を打ち込む。動けない敵をキルとキラが即死攻撃で仕留める。華麗な連携に為す術なく、二人の戦士が瞬く間に倒れる。

 俺たちはというと、アグラとコユキの好戦的ペアが猪突猛進に敵へと突っ込んで行った。コユキは魔法陣を展開させ、敵の魔導士と戦士に重力魔法を打ち込み動きを止める。そこでアグラが燃える拳で敵の頭を貫く。いつもは仲が悪いくせに完璧なコンビネーションだ。れいちゃんも魔法陣を展開させてたけど、出番なし。さっさと片付けてしまった。

 残る二人の戦士のうち片方はバンさんが瞬殺して、残るは一人のみ。任務完了を確信したその時、最後の戦士はポケットから「魔種」を取り出し、一思いに食した。その様子を見たバンさんとフォルフェウスは体が変化する前に始末しようと動くものの、時既に遅し。護衛の戦士は完全に魔族化していた。

「なるほど、こりゃひどいね……」フォルフェウスは苦笑いを浮かべた。

 戦士の身体は二倍程度伸び、紫色に変色していた。どうやら魔力量も増えているようで、禍々しい魔力波を放っていた。

「みなさん、一度立て直しましょう!相手の戦闘力が未知の状態ではリスクが大き過ぎます!慎重に戦いましょう!」

「ちぇ、今はシルの言う通りにした方が良さそうだな。」

 フォルフェウスも一度退き、シルさんを囲むような陣形を作る。前衛はバンさんとフォルフェウス、ローレルとパルデル、それにアグラ。中衛には俺とキル・キラさん、後衛はシルさん、エランダさん、コユキにれいちゃんだ。

「みなさんに強化魔法をかけます!」シルさんが強化魔法を付与すると同時に、前衛は戦士へと突進する。ローレルとパルデルが肉壁としてヘイトを集め、その間にフォルフェウス、アグラとバンさんがダメージを入れる戦法だ。

「来い!化け物!」ローレルはそう叫びながら、戦士の拳を盾で受け止める。ただ、魔族化した戦士の身体能力は桁違いで、ローレルが押され始める。

「ローレル殿!助太刀しますぞ!」パルデルもローレルに加勢し、どうにか拳を止める。

「フォルフェウス!保って二分だ!早く決めるのじゃ!」

「言われなくても分かってるよ、パルデル!」そう怒鳴ったフォルフェウスは、怒りのまま戦士の腕を両断する。緑色の不気味な血が吹き出し、地面が徐々に染まっていく。

「ガァアアアアアア!」腕を失くした戦士は痛みのあまり絶叫する。

「よし、隙だらけだ!終わりにするぞ!」

 フォルフェウスの呼びかけと同時に後衛の魔術師たちが一斉に魔法を発動させる。エランダさん、れいちゃんは氷魔法、シルさんは風魔法を放ったが、コユキちゃんはというと……

「核撃魔法!ニュークリア・バレット!」

 最上級の魔法で、物凄い火力を誇る、核撃魔法を打ち込んでいた。ただ、今回は一国を滅ぼすほどの威力を持つ「ニュークリア・エクスプロージョン」などではなく、核撃魔法内で最も威力が低い「ニュークリア・バレット」であった。

 しかし威力が低いとはいっても、それは「核撃魔法内」の話である。「ニュークリア・バレット」が魔族化した戦士に当たると、被弾部は轟音と共に切り取られた。空間ごと、消し去られたのだ。

 エランダさん、シルさん、そしてれいちゃんの魔法も被弾し、戦士はまさに瀕死の状態ーかと思われた。

「おい!あいつ再生してるぞ!」フォルフェウスの視線の先には、斬られた腕が生えてきている戦士の姿が。ただ、コユキの核撃魔法を受けた箇所は治る素振りすら見えない。つまり再生できるダメージの上限があるってことだ。

 なら……

 俺は神威を握り、威力を溜める。核撃魔法ほどの威力は出ないだろうけど、武王を倒した時くらいの火力があれば十分だと思う。

 刀に十分な力を溜めた俺は、敵の首を目掛けて不可視の斬撃を放った。音速を越えるその斬撃は、敵に反応する間も与えず首を落とした。そして突然首が撥ねられたことに対して、フォルフェウスは驚きを隠せなかった。

「おい、今誰が……まさかユウマ、お前がやったのか?」

「そ、そうです」フォルフェウスの気迫に怖気付き、細々しい声でしか答えられなかった。

 フォルフェウスは俺が握っている刀と戦士の撥ねられた首を交互に眺める。そしてー
「見直したぜユウマ!」と一言、俺の肩を叩いた。

 え、意外にいい奴?

「いやあ、本当に強いのか半信半疑だったんだよ!でも見直したぜ!これならオーウェンを討っててもおかしくねえや!」

 雑魚だと思われていたのは癪だけど、認めてもらえたなら万事オッケーなのかな?まあ軋轢が解けたのは事実だし、プラスだと思っておこう。

 さて、敵も全滅させたし、荷台を回収して任務完了するか。

 重力魔法を解き、半壊した馬車の荷台をシルさんは確認する。

「ッー!なぜ……」シルさんは顔を青くしたまま硬直していた。

「おいシル、大丈夫か?」フォルフェウスが問うと、シルは静かに荷台の中を指差す。フォルフェウスは硬直したシルさんを横切り、荷台の中を確認すると、「馬鹿なッ!」と驚愕する。

 一体何事だ、俺たちも荷台の中を覗き込む。するとそこには、積まれているはずの魔種がなかった。荷台は全くの空の状態だったのだ。

「魔種がない……」

 俺たちは皆驚きを隠せずにいた。確かにあったのだ。戦闘開始時には魔種は確かに積まれていた。みんな確認している。なのになぜなくなっているんだ。

「どういうことなんだよ……」

「「あの、」」キルとキラが同時に挙手する。

「どうした?」

「「私たち、実は索敵魔法を使用したら七名の反応が確認できたんです。」」

「七名?一人潜伏していたということか?」

「「それは分からないです……」」

「どういうことだよ!?もう一人反応が出てたならどっかに隠れてたってことか?」

「「それが、反応が微弱だったんです。」」

「反応が微弱?なんだそれ?お前らのせいで取り逃したんだぞ!」フォルフェウスが双子に迫る。その額には大量のシワがよっている。

「まあ、フォルフェウス、最後まで話を聞こうじゃないか。」シルが冷静にフォルフェウスを宥める。だが、表情は険しく、焦っているのは明明白白だった。

「「続きですが、その反応はあまりにも微弱で、蝿と変わらないレベルだったのです。だからきっと気のせいだと思って伝えてなかったんです。」」

 キル、キラが使用する上級索敵魔法は、あらゆる生物に反応する。そのためどれほど上手く敵が潜伏していても必ず見つけられる。だがこれには難点があるー生物ならなんでも反応するがために蝿や蚊などにも微弱ながら反応してしまい、経験を積まなければそれが潜伏中の敵なのか単なる蝿なのか区別がつかないのだ。

 歴戦の猛者であるキル、キラでも区別に失敗したなんて一体どういう隠れ方をしてたんだ?

「子供だ。」

「え?」

「子供だよ。」フォルフェウスが唇を噛み締める。

「フォルフェウスさん、それはどういう?」

「子供に潜伏魔法をつけると、小動物並の生物反応しか出ないんだ。」

「でも子供なら、どうやって大量の魔種を運び出したんですか?」

「多分インベントリースキルだ。しかも大量の魔種を収納できる程大きなインベントリーの持ち主だ。」

「子供がインベントリースキル?そんなの前代未聞ですわ……」シルさんが頭を抱えて絶句する。

「じゃあその子供を今からでも追いかけましょうよ!早く食い止めないと!」

「ユウマ殿落ち着いてください。これほど時間が経ってしまってるのです、追跡も不可能ですし、既に王都内に到着してるでしょう。」バンさんはこの異常事態に全く動じず、冷静に対応を考えている。

「とりあえずギルドに戻りましょう。ここに居ても何も始まりませんし、ガーレンさんに相談して対応を考えましょう。」

 バンさんの一言でこの場は収まり、俺たちはギルドに戻ることになった。
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