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第一章
悪夢
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「はぁ?隣国に行くって急にどうしたんだよ?」アグラは怒り心頭だった。
れいちゃんもどうやらアストレア王国に少し愛着を覚え始めていたようで、少し切なそうば顔を見せていた。
コユキちゃんは通常運行で、どうでも良さそうに朝食にありついていた。
「それがさ、隣国のアルガルド共和国の方が稼ぎがいいんだよ。しかも福利厚生がよくて親子に優しいとかね。」
「でも金には困ってないんだろ?なんでなんだよ!なんかおかしいぜ。なんか絶対に隠してる。」
「何も隠してないって、単純にアルガルドのほうがいいかなーって思っただけだよ。ほら、思い立ったが吉っていうじゃん!」
「でもユウマはつい先日、この街を守ってやるって意気込んでたじゃないか!おかしいぜ、やっぱり。仲間だろ、話してくれよ!」
「……」
「なんとか言えよ!」
「分かんないんだよ!急に昨日バンさんに隣国に行けって頼み込まれて、説明もなんにもなくて!俺だってこの国を守りたいよ!でも、それはできない……」
「なら無理矢理残ってー『辞めといた方がいいよ』」
コユキちゃんが口をもぐもぐさせながら話す。
「明日、災厄がくるよ。このまま残ったら、みんな死ぬよ。」
「そんなことどうやってー」
「龍は勘がいいんだよね。龍って往年災害や災厄を感知して王に伝えるーっていう伝説があるじゃん。」
「でもそれはたかが伝説だろ?」
「なら明日まで待って死ぬか試してみる?」
「……」
「悪い事は言わない。コユキはユウマに賛成だわ。おかわり。」
俺は深い溜息を吐きながらコユキちゃんに二杯目のシリアルを渡す。
理解不能、そしてあまりにも理不尽。だがどうすることもできない。残された選択は退国のみ。
「悪いが、これは決定事項だ。俺だって訳が分からない。もはや隣国へ逃げるという選択肢しか残ってないんだ。」
「わかったよ……」
アグラは下唇を強く噛み締めそう頷いた。そう。それが正しいんだ。どれだけ理不尽に思えても、それが俺たちに残された唯一の道なんだ。
「じゃあ朝食も済んだことだし、早速出発するか。」
アルガルド共和国までの道のりは決して優しいものではない。バンさんに渡された地図を見てみると、エリエ山脈という巨大な山脈が国境沿いに連なっている。アルガルドに辿り着くには、その大山脈を越える必要がある。
まあその山脈を越えてしまえば楽なんだがな。
まずは馬車でエリエ山脈の山麓まで行き、そこからが山登り。まあたかが登山。富士山を登り切った俺なら余裕ーかと思っていた。
「おいなんだよこの山!」
「ん?エリエ山脈だが?」
「それは知ってるけどさ……」
エリエ山脈は俺が見てきた山とは別次元だった。もはや断崖と呼ぶべきものだった。下手したらヒマラヤ並、いや、それ以上かも知れない。
とにかく、登るしかないか……
れいちゃんを腕に抱き抱えつつ、山頂を目指す。一度エリエを踏破したことのあるアグラを先頭に登山を進めた。
中々きついかと思っていたけど、意外とそうでもなく、順調に登山を進めた。勇者ステータスのおかげで、なんと小走りペースかつ休憩なしでエリエの頂まで進めた。元々頂上まで一日か二日程度かかるだろうと思っていたが、なんと日が沈む少し前に頂上に辿り着いたのだ。
「うわぁ、結構高いなー。」当たり前のことを思わず口にしてしまう。100m近くあるアストレア王国の城壁もここから見ると数十センチ程度にしか見えない。
こんな高いのに高山病とかにならないのも結構不思議な感覚だな。山独特の空気の薄さを感じない。ステータスが上がると、肺活量の上昇とか気圧変化への耐性とか得られるのかな。力のステータスが上がってもムキムキになる訳ではないし、目に見えない何かが向上してるのだろうな。
ステータスって面白い。
「さて、日も沈んだし、今日はここで休んでくか。」
「賛成だな。夜の山は危険だし、急ぐこともないもんな。」アグラの賛成も得られたことで、俺たちは野宿の準備を進めた。
奴隷市のような目に合わないように、事前に寝袋は用意したし、薪とかも一応持ってきた。いくらレベルが上がっても、寒いものは寒いからな。山頂は中々冷えるし。
さて、俺は事前に作っといたおにぎりと干し肉、そして野菜類を皿に盛っていく。インベントリー内では時間経過がないみたいだから作りたてホヤホヤでうまそうだ。今度は干し肉じゃなくて、焼きたての肉を持っていきたいな。
「おーい、ご飯できたぞ!」
「飯!」
「あぅあぅ!!!」
「お腹空いたぁ!!!」
どうやら皆んなお腹がぺこぺこのようだな。皆焚き火を囲むように座り、ガツガツとご飯にありつく。
れいちゃんもプレミアム離乳食ながら中々の食いっぷりだ。さて、俺も負けずにおにぎりを頬張る。
うん。流石自分。中々うまいな。
その後も皆は物凄いペースでご飯を食べ進め、10分も経たずに飯を平らげてしまった。
アグラなんて幸せそうにお腹をさすりながらゴロンと寝転がっている。そしてれいちゃんもアグラを真似て、ゴロンと転がる。
尊い。
さて、夜も更け、睡魔が襲って来る時間帯に突入してきたな。あくびの頻度も中々多くなってきたし、今日は万事をとって寝るとするか。
「よし、明日は早いからそろそろ寝るぞー」
「えー?もう寝るの?コユキはまだ眠くないのに……」
「コユキ、そうわがまま言うなよ。さっさと寝た方が身長も伸びるぜ。」
「う、おばさんがそう言うなら……」
「誰がおばさんだい!」
「あぅ!」
アグラはコユキと口論を始め、れいちゃんはその様子を見て楽しそうに笑っている。どうやらこれはまだまだ寝れそうにないな。
スキル『心情創造者』で一杯のコーヒーを生成し、アルテミスの街並みを眺めながらコップを啜る。こんな時間にカフェインとって、これじゃ寝れないな。
アルテミス王国はこんな時間でも賑やかそうにチカチカと灯火が点灯していた。ああ、あの街並みが既に懐かしいな。
もう一口コーヒーを啜ろうとしたその時、アルテミスの王都が眩い光を放ち、爆ぜた。その爆風は木々を揺らし、王都を炎で包んだ。先ほどまでの静寂は爆音と燦々と燃え盛る炎によって切り裂かれた。
「な、何が起きてるんだ……」
「あっ、あり得ない……なぜ……」
「あ、あっ、あぅ……」
警報鐘の音が程なくして鳴り響き、緊急事態を知らせる。アストレア王国は一瞬にして地獄と化した。
俺たちはその光景を唖然と見ることしかできなかった。バンさん、フォルフェウスさん、シルさん。アストレアで出会った数々の友や好敵手の顔が頭をよぎる。
「あぁ、やっと見つけた。皆そんなに口開けて、お腹空いてるの?」
背後から歪な声がした。聞いたことのない不思議な声。ただ、確実に禍々しいオーラ、覇気と言うべき圧を感じる。恐る恐る、後ろを振り向くと、異形の存在がそこに居た。
顔は女性とも男性とも取れる不気味な顔だが、その頭には一対の角が生えていた。そして腕があるべき場所には不気味な触手が。腹にはもう一つ口がついていて、クトゥルフを彷彿とさせる姿だ。
「君だよね?勇者って?」
長い長い悪夢はまだ始まったばかりだったのだ。
れいちゃんもどうやらアストレア王国に少し愛着を覚え始めていたようで、少し切なそうば顔を見せていた。
コユキちゃんは通常運行で、どうでも良さそうに朝食にありついていた。
「それがさ、隣国のアルガルド共和国の方が稼ぎがいいんだよ。しかも福利厚生がよくて親子に優しいとかね。」
「でも金には困ってないんだろ?なんでなんだよ!なんかおかしいぜ。なんか絶対に隠してる。」
「何も隠してないって、単純にアルガルドのほうがいいかなーって思っただけだよ。ほら、思い立ったが吉っていうじゃん!」
「でもユウマはつい先日、この街を守ってやるって意気込んでたじゃないか!おかしいぜ、やっぱり。仲間だろ、話してくれよ!」
「……」
「なんとか言えよ!」
「分かんないんだよ!急に昨日バンさんに隣国に行けって頼み込まれて、説明もなんにもなくて!俺だってこの国を守りたいよ!でも、それはできない……」
「なら無理矢理残ってー『辞めといた方がいいよ』」
コユキちゃんが口をもぐもぐさせながら話す。
「明日、災厄がくるよ。このまま残ったら、みんな死ぬよ。」
「そんなことどうやってー」
「龍は勘がいいんだよね。龍って往年災害や災厄を感知して王に伝えるーっていう伝説があるじゃん。」
「でもそれはたかが伝説だろ?」
「なら明日まで待って死ぬか試してみる?」
「……」
「悪い事は言わない。コユキはユウマに賛成だわ。おかわり。」
俺は深い溜息を吐きながらコユキちゃんに二杯目のシリアルを渡す。
理解不能、そしてあまりにも理不尽。だがどうすることもできない。残された選択は退国のみ。
「悪いが、これは決定事項だ。俺だって訳が分からない。もはや隣国へ逃げるという選択肢しか残ってないんだ。」
「わかったよ……」
アグラは下唇を強く噛み締めそう頷いた。そう。それが正しいんだ。どれだけ理不尽に思えても、それが俺たちに残された唯一の道なんだ。
「じゃあ朝食も済んだことだし、早速出発するか。」
アルガルド共和国までの道のりは決して優しいものではない。バンさんに渡された地図を見てみると、エリエ山脈という巨大な山脈が国境沿いに連なっている。アルガルドに辿り着くには、その大山脈を越える必要がある。
まあその山脈を越えてしまえば楽なんだがな。
まずは馬車でエリエ山脈の山麓まで行き、そこからが山登り。まあたかが登山。富士山を登り切った俺なら余裕ーかと思っていた。
「おいなんだよこの山!」
「ん?エリエ山脈だが?」
「それは知ってるけどさ……」
エリエ山脈は俺が見てきた山とは別次元だった。もはや断崖と呼ぶべきものだった。下手したらヒマラヤ並、いや、それ以上かも知れない。
とにかく、登るしかないか……
れいちゃんを腕に抱き抱えつつ、山頂を目指す。一度エリエを踏破したことのあるアグラを先頭に登山を進めた。
中々きついかと思っていたけど、意外とそうでもなく、順調に登山を進めた。勇者ステータスのおかげで、なんと小走りペースかつ休憩なしでエリエの頂まで進めた。元々頂上まで一日か二日程度かかるだろうと思っていたが、なんと日が沈む少し前に頂上に辿り着いたのだ。
「うわぁ、結構高いなー。」当たり前のことを思わず口にしてしまう。100m近くあるアストレア王国の城壁もここから見ると数十センチ程度にしか見えない。
こんな高いのに高山病とかにならないのも結構不思議な感覚だな。山独特の空気の薄さを感じない。ステータスが上がると、肺活量の上昇とか気圧変化への耐性とか得られるのかな。力のステータスが上がってもムキムキになる訳ではないし、目に見えない何かが向上してるのだろうな。
ステータスって面白い。
「さて、日も沈んだし、今日はここで休んでくか。」
「賛成だな。夜の山は危険だし、急ぐこともないもんな。」アグラの賛成も得られたことで、俺たちは野宿の準備を進めた。
奴隷市のような目に合わないように、事前に寝袋は用意したし、薪とかも一応持ってきた。いくらレベルが上がっても、寒いものは寒いからな。山頂は中々冷えるし。
さて、俺は事前に作っといたおにぎりと干し肉、そして野菜類を皿に盛っていく。インベントリー内では時間経過がないみたいだから作りたてホヤホヤでうまそうだ。今度は干し肉じゃなくて、焼きたての肉を持っていきたいな。
「おーい、ご飯できたぞ!」
「飯!」
「あぅあぅ!!!」
「お腹空いたぁ!!!」
どうやら皆んなお腹がぺこぺこのようだな。皆焚き火を囲むように座り、ガツガツとご飯にありつく。
れいちゃんもプレミアム離乳食ながら中々の食いっぷりだ。さて、俺も負けずにおにぎりを頬張る。
うん。流石自分。中々うまいな。
その後も皆は物凄いペースでご飯を食べ進め、10分も経たずに飯を平らげてしまった。
アグラなんて幸せそうにお腹をさすりながらゴロンと寝転がっている。そしてれいちゃんもアグラを真似て、ゴロンと転がる。
尊い。
さて、夜も更け、睡魔が襲って来る時間帯に突入してきたな。あくびの頻度も中々多くなってきたし、今日は万事をとって寝るとするか。
「よし、明日は早いからそろそろ寝るぞー」
「えー?もう寝るの?コユキはまだ眠くないのに……」
「コユキ、そうわがまま言うなよ。さっさと寝た方が身長も伸びるぜ。」
「う、おばさんがそう言うなら……」
「誰がおばさんだい!」
「あぅ!」
アグラはコユキと口論を始め、れいちゃんはその様子を見て楽しそうに笑っている。どうやらこれはまだまだ寝れそうにないな。
スキル『心情創造者』で一杯のコーヒーを生成し、アルテミスの街並みを眺めながらコップを啜る。こんな時間にカフェインとって、これじゃ寝れないな。
アルテミス王国はこんな時間でも賑やかそうにチカチカと灯火が点灯していた。ああ、あの街並みが既に懐かしいな。
もう一口コーヒーを啜ろうとしたその時、アルテミスの王都が眩い光を放ち、爆ぜた。その爆風は木々を揺らし、王都を炎で包んだ。先ほどまでの静寂は爆音と燦々と燃え盛る炎によって切り裂かれた。
「な、何が起きてるんだ……」
「あっ、あり得ない……なぜ……」
「あ、あっ、あぅ……」
警報鐘の音が程なくして鳴り響き、緊急事態を知らせる。アストレア王国は一瞬にして地獄と化した。
俺たちはその光景を唖然と見ることしかできなかった。バンさん、フォルフェウスさん、シルさん。アストレアで出会った数々の友や好敵手の顔が頭をよぎる。
「あぁ、やっと見つけた。皆そんなに口開けて、お腹空いてるの?」
背後から歪な声がした。聞いたことのない不思議な声。ただ、確実に禍々しいオーラ、覇気と言うべき圧を感じる。恐る恐る、後ろを振り向くと、異形の存在がそこに居た。
顔は女性とも男性とも取れる不気味な顔だが、その頭には一対の角が生えていた。そして腕があるべき場所には不気味な触手が。腹にはもう一つ口がついていて、クトゥルフを彷彿とさせる姿だ。
「君だよね?勇者って?」
長い長い悪夢はまだ始まったばかりだったのだ。
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