イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第二章

就職

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 ルッツフェル高等魔法学院。毎年大量の宮廷魔術師を輩出する名門学校。魔法の教育はもちろん、体術や薬学など、多方面の教育を受けられるアルガルド一、二を争うらしい。

 生徒達の学習環境を最大限管理、向上させるために、学校は全寮制。全生徒が寮で暮らし、毎日切磋琢磨してるそうだ。れいちゃんももちろん寮に編入するそうだ。

 そんな学校で俺は教師をやることになった訳だが……

 でかい。とにかく校舎がでかい、そして美しい。ヴェルサイユ宮殿ばりの豪華さに圧倒されてしまう。

「こちらが本校舎ですね。」

「え!まだあるんですか?」

「ええ。他にも体育棟や、宿舎など、様々な設備が揃ってますよ。」

 流石名門学校。資金が違うな。基本的に貴族が入学する学校らしいし、結構巻き上げてんだろうなー。

 日本で言う名門私立大学みたいなイメージ。そんな学校で理事長を務めるクロノンさん、やはり只者じゃないな。変に敵対するのはよしといた方が得策だな。大人しくしとこ。

「やっぱり広いですよね。僕も最初の二週間は迷子で毎回授業に遅れてましたね。」

「うう、僕に務まるのでしょうか……」

「大丈夫ですよ!基本的にユウマくんは移動教室ないですから。」
 
 だとしても教師経験皆無なんだけど、移動教室無くても安心できないよ!まぁ、れいちゃんのため覚悟を決めるしかないな。もうどうにでもなれーっていう感じのメンタルで行かないと。

「さて、教室に着きましたね。」

「ん?クロノンさん?ここ教室?」

「はい!教室です。」

「いやいやクロノンさん?目の前に広がってるのって草原ー」

「うん!そうだね!」

 クロノンさんが教室と言い張っていたのは草原、いや大草原だった。辛うじて机と椅子が置いてあるけど、それ以外は本当に大草原だ。クロノンさんが言ってた移動教室ないってそういうことかよ!騙された!

「まぁ父さん。父さんは冒険者科だからさ、教室で戦闘を教える訳にはいけないでしょ。」

 まぁ確かにそうだけどさ、せめて室内というか、運動場かなんかじゃ駄目なのかね。

「まあまあ、どうにかなると思うんで!」

 クロノンさんが眩しすぎる笑顔をこちらに向けてくる。ああ、これにはどう足掻いても勝てないな。うん、大人しく現実を受け入れよう。

「で、実は明日から勤務してもらおうかと思ってたんだけど、早く教師という仕事に慣れてもらいたいと思ってー」

 え、この流れってもしかしてー

「今日から!いきなりだけど教えて欲しいな!」

「ま、まじですか……」

「大マジ!」

「でも時間割とか分かんないですし!流石に明日からの方がー」

「机の中に学校のマニュアルを入れといたから多分大丈夫だよ。それに僕は、レイ君が絶賛していた君という存在に物凄く期待をしてるんだ。という訳で、よろしくお願いするよ。じゃあ、僕は朝礼があるからお先に!」

 そう言い残すと、クロノンさんは本校舎内へと吸い込まれるように消えていった。大草原にポツンと自分だけが残る。とても虚しいな。

 しかも助手のアグラも、今日は説明だけだと思って連れてきてないし。カリキュラムとかはある程度考えてきたけど、クロノンさん曰く教える内容は任せるって言ってたし。

 うう、放任主義って色々不安になる。とりあえず、机の中のマニュアルを読んで少し状況を整理するか。

 木製の机の中を漁ると、一枚の紙切れを発見した。裏紙かなんかかと思ってたら、なんと見出し部分に『マニュアル』と大きく書かれていた。ああ、とても悪い予感がしてきた。

 マニュアルを読んでみると、やはり、俺の悪い予感は的中した。なんと言っても、この学校に時間割という概念はなく、俺が冒険科の生徒の一部を一日中預かるという一から六限まで全て俺が担当する方式らしい。

 しかも唯一お願いされてるのが、強くしろってことだけ。これは思ったよりも俺の手腕が意味を成しそうだな。

 そうやって俺が葛藤していると、生徒の話し声がまばらに校舎から聞こえてくる。どうやら朝礼が終わったようだ。ってつまり、もう俺の出番だ。

 やばいよ、やばいよ!心の準備もできてないし、自己紹介でなんて言おうかも考えてないし。てか何歳くらいの子が来るんだ?やばい!それによって接し方が大きく変わるだろ!不味い、もう既に大ピンチ。


「てか俺たち新しい先生ってどういうことよ。」

「それな!しかも、新人らしいぜ。」

「うわー、最悪じゃん。ハズレ引いたわー。」

「美人ならいーなー」

「それはどうでもいいでしょ!変態!」

「男だからしょーがない!」

 やばい、心の準備が出来ていないのに早速生徒が向かってきてる。しかも散々な言われよう。ハズレとかって、まあ確かにハズレだけど!もう少し優しくしてくれよ!あー、もう逃げよっかな。でも逃げられないんだよな。くそ!どうにもならないじゃないかよ!

 そう葛藤してる間、生徒たちは確実に近づいてくる。話し声は段々鮮明になり、俺はどんどん落ち着きを失っていく。

 そしてついに朝礼終わりの生徒たちの姿が肉眼で見えた。あの子たちが俺が受け持つ生徒たちか。七人組の男女、年齢は15?16歳?高校1、2年生くらいかな?がこちらに向かってくる。

「うわ、おじさんじゃん。」

「本当だ。もうアルノー先生が恋しくなってきた。」

 早速一組の男女が感嘆の声をあげている。既に俺に不満が溜まってるようだな。

 『愛してる』という言葉は薄っぺらい。友達にノリでその言葉を発話することもあるだろうし、本当に愛されているのかは分からない。でも『大嫌い』は別だ。その言葉には憎しみが籠っている。本当に嫌われていると分かる言葉なんだ。

 ああ、さっきまで最初の印象をあれほど気にしてたのが馬鹿馬鹿しいな。でも、既にヘイトが溜まっていた方が俺もやりやすい。何より、気を遣う必要がないからな。

 まあ、とりあえず挨拶でもするか。少し口が悪いだけかもしれないし、まだ希望は持てるよね?

「こんにちは、僕が君たちの新しい教師のユウマだ。よろしく頼む。」

「はいはい先生、ね。こんなジジイが何を教えられるんだよ?」気性が明らかに荒そうな赤髪の大男が軽蔑の目をこちらに向ける。

「それなー。一応私たち、あ、の、アルノー先生の教え子だからね。」さっきからダルそうにしていた金髪ギャルが赤髪に賛同する。

「という訳であんた辞表書いて。あんたみたいな無能はこの高貴な学校には要らない。何より、あんた努力もクソもしたことなさそうだしね。」リーダー格らしき黒髪ショートの女子が最後に言い放つと大きな笑い、というより嘲笑が巻き起こる。

 やっぱりこうなるのか。見下されてるという意識はあった。それも最初から。それでも希望を捨てずに、「良い生徒たち」と信じて接したのに、何という無様。

 はっ、何をしょぼんとしてるんだよ?そもそも分かっていたことなのに?でも、もう遠慮はいらないじゃないか?

 自分で言うのもなんだが、俺は多分温厚な方だ。れいちゃんに対する敵意には容赦ないが、俺自身への敵意ならまだ寛容だと思う。

 でも俺も人間なんだ。聖徳太子でもないし、イラつくこともある。初対面の坊に、これほどまでに罵倒されるとは思わなかった。

 無能?品がない?知らねえよ。コユキちゃんやアグラ、れいちゃんに助けられっぱなしだけどよ、自国すら守れない奴だけどよ、頑張って我が子育てとんねん!何も成し得てない親の七光りの小僧に俺の何が分かるんだよ。

 無能だと思っても、どんだけ自分が世界でちっぽけな存在だと思っても、こっちは父親やってるんだよ!努力してない?無能なりに息子の幸せ考えて育ててるのに、努力してないだと?

 俺の生き方を否定する奴は、絶対に許さない。

「いいよ。」

「え?」

「辞表書いてあげる。」

「はっ、怖気付いたかジジイ!」赤髪が更に爆笑する。

「ただし、お前らが俺に勝てたらだ。」

「ついに気が狂ったか?おじさん?」隅っこで本を読んでいた青髪の青年が初めて本を閉じ、声をあげる。その額には血管が浮き上がってる。苛ついているのは明瞭だ。

「あれ?『教わることがない』『無能』な弱々しいおじさんに勝つ自信ないの?君たちって口だけその偉大なアルノー先生に鍛えてもらった感じかな?」

「あんた、ついに超えちゃいけない一線超えたわね。もう二度とそんな口きけないよう躾けてあげる。」黒髪の女子は腰から短刀を取り出し、刃先をこちらに向ける。安い脅しだな。

「ああ、黒髪ちゃんだけじゃあ物足りないから、他の六人も同時に来な?」他の生徒にちょいちょいと手招きし更に相手を煽る。きっとあの馬鹿っぽい赤髪ゴリラならすぐキレてくるだろうよ。

「ジジイ!お前を殺してやる!いや足りねえ、八つ裂きにしてから屍ごと犯してやる!」と予想通り激昂する赤髪。やっぱり脳筋タイプか、見た目と性格って一致するもんだな。

 まあ、これ以上の話し合いは意味ないし、早速このゴミ達に人生の厳しさを教えてやろうか。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

teradon
2024.09.29 teradon

バンさんって本当に何者!?魔剣を持ってたり、オーウェンを手刀で倒したり、一番強いのは実はバンさんだったりして。今後の展開で明らかになることを楽しみにしてます。

解除
TW  nabe
2024.09.28 TW nabe

れいちゃんがいきなりHP1:00ならばパパさんは、れいちゃんを抱っこしているだけでレベルが上がりそうです。まだ2話目冒頭ですが、このあとの展開が楽しみです。

2024.09.28 或真

TW nabeさん、感想ありがとうございます!とても励みになります。

確かに、今後パパが強くなったらある意味れいちゃんのおかげなのかもしれませんね。子供の力、恐るべし。

今後も本作を楽しんで頂ければ幸いです。

解除
yu-hi
2024.09.27 yu-hi
ネタバレ含む
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