異世界転移した俺の、美味しい異世界生活

yahagi

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異世界人とボウリング

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 女性建築士と一緒に店の下見に行った。
 外見も手を加えてくれると言う。
 俺は女性建築士と別れ、商業ギルドに求人を依頼しに来ていた。

「募集は、ショコラティエ。チョコレートを作る料理人を三名と、カウンターが三名。チョコレートは新規レシピの菓子、という事で宜しいですね」

「はい。甘い香りの職場になるかと思います。宜しくお願いします」

「かしこまりました」

 俺は支店に戻って自室に下がった。
 ベッドでゴロゴロしていると、鐘4つが鳴った。
 チョコレートを味見してみようかな。

 俺は一階に降りて、ドライフルーツチョコレートを割ってみた。
 ひとかけら食べてみると、ドライフルーツとチョコレートがばっちり合っていて、申し分ない。
 俺はチョコを適切な大きさに割ると、お茶を入れてアラブレヒトに持って行った。

「やあ、一息つかないかい?」

「ああ、ありがとう。チョコレートがいっぱいだ。ドライフルーツが乗っているんだね。見た目も華やかだ……休憩するよ。ハヤトも一緒にどうだい?」

「ありがとう。所で、夏祭りが近いだろう? 何か特別な事はするのかい?」

「ああ、夏祭りは明日だからね。実は、ペペロンチーノの屋台を出すのさ。乾燥パスタも、工場が出来上がり次第稼働する。その御披露目みたいなものだね」

「うわぁ、それはいいね。お祭りは華やかそうだし、売上も良さそうだ」

「だろう。……ハヤトは何か相談事があるんじゃないのかい?」

「実は……結婚しようと思うんだ!」

「へえ、おめでたい事じゃないか。結婚すると魔法がかけられて、不貞がバレるようになるんだ。双剣のリカルドが相手だろう。何か不安かい?」

「俺で本当に良いのか、ずっと悩んでいたんだ。でも、凄く愛されて、自信がついた。離れるのは寂しいけれど、俺、待てるよ」

「そうか。それなら大丈夫さ。ハヤトが幸せそうなのは、見ていてわかるからね。心から祝福を捧げるよ」

「ありがとう。すっごく嬉しい。夏祭りの日に返事を言う約束なんだ。やっと言うべき言葉が見つかって、ほっとしたよ。……じゃあ、お邪魔しました。またね」

 俺は手を振ってアラブレヒトの部屋を出た。
 そろそろ良い時間だ。
 俺はナッツチョコレートを紙に包んで、鞄に詰めた。

 鐘5つが鳴り響く。
 俺は支店の前でリカルドを待った。

「おう、お待たせ。会いたかったよ、ハヤト」

「俺も会いたかった、リカルド」

 俺はリカルドに抱きつき、胸いっぱいリカルドの匂いを吸い込んだ。
 ああ、安心する。
 ギュッと抱き締められて、ちゅっとキスをした。

「今日は、トンカツが食いてえんだ。ハヤトのレストランでいいか?」

 俺達は手を繋いで歩き出す。

「勿論だよ。後、これ。チョコレートって言う菓子だよ。ナッツ入り。良かったら食べて」

「新規レシピだな。頂くよ」

 リカルドは目をキラキラさせて、チョコを頬張った。
 板チョコがバリンと割れる。

「ふむふむ……甘くて苦い。口どけが滑らかだ。香ばしいナッツとも相性抜群で、実に美味い」

「口に合って良かったよ」

「ハヤト、俺が旅立つ前に、チョコとキャラメルを作ってくれねえか?」

「勿論いいよ。旅立つのはいつ?」

「明日が夏祭りだろ。夏祭りから三日後だ。準備があるからな」

「うん、わかった。しっかり作って渡すよ」

 俺達はレストラン ミトレーチェに到着した。
 店内は混んでいるようだが、俺達もすんなり入れた。
 早速メニューを見ながら検討する。
 よし、これに決めた!

「ご注文はお決まりですか?」

 まずお酒は赤ワインを注文した。
 カウンター担当が素早く赤ワインを持ってくる。

「俺はトンカツ定食と、単品でメンチカツとコロッケ。肉まんとあんまんと団子二種」

「俺は鳥唐揚げ定食と、ぜんざいを頼むよ」

「かしこまりました」

 俺達は赤ワインで乾杯した。

「今夜の俺達に。乾杯」

「乾杯」

 ぐっと赤ワインを飲む。
 うん、フルーティで美味しい。

「俺が旅立つのももう少しだが、明日は夏祭りだろ。ハヤトは俺にプロポーズの返事をしてくれよ」

「うん。勿論覚えているよ。しっかり返事も考えてる。それでね、聞いて欲しい話があるんだ」

「……お前の故郷の話か? ここじゃない方がいいだろうな」

「うん、二人きりになったら話すね」

 俺はリカルドに隠し事をしたくなかった。
 俺は異世界から来たってことを、告白する。
 我知らず震えていたら、リカルドがニコッと笑った。

「どんな話でも受け止めてやる。ハヤトはドンと構えてりゃいい」

「うん……本当に突拍子もない話なんだけれど、勇気を出して、話すよ」

 リカルドは優しい瞳で俺を見つめている。
 リカルドを、信じてる。
 俺は拳をギュッと握り締め、心の準備をした。

「お待たせ致しました」

 続々と料理が届いた。

「まずは食おうか。頂きます!」

「うん。頂きます」

 鳥唐揚げを口に運ぶと、じゅわっと肉汁が溢れてくる。
 うん、すっごく美味しい。
 俺はご飯を食べながら、鳥唐揚げを堪能した。

 食後のデザートのぜんざいを食べながら、団子を食べているリカルドを見る。
 リカルドは俺と目が合うと、ニッコリと笑ってくれた。
 たれ目が更にたれ目になる、俺の好きな顔。
 俺が何か言おうとしてるのはわかっているのに、いつも通りだ。
 俺は異世界からきたって言って、驚いて欲しいのだろうか?
 案外なんてことはないのかもしれない。
 後はリカルドに任せよう。
 俺はぜんざいの団子を噛みちぎりながら、今夜どう切り出そうか考えていた。

 食事が終わり、店を出た。
 手を繋いで歩きながら、俺は話を始めた。

「ねえリカルド。月は二つあるのが普通だよね?」

「当たり前だな」

「それがさ、俺の故郷には一つの月しかなかった。逆に魔法はなかったな。あと魔獣もいなかった」

「ハヤトの危機管理能力が低いのはそれが理由か」

「うん。流通が発達した場所だったよ。そこで俺は、裏方の事務をして暮らしてた。36歳だった。電車って乗り物に乗って帰宅途中に、恐らく転移したんだと思う。気付いたら平原にいて、右往左往してた」

「36歳? ハヤトは16歳だろう」

「それがさ、俺にもわからないんだけど……20年若返ってるんだ。おかしな事なんだけど、本当なんだよ」

「信じるよ。……というか、じゃあハヤトは年上なんだな。所謂異世界から転移してやってきたんだろう。妙にものを知らないのも、それじゃあ仕方がないな」

「こんな話を、信じてくれるかい?」

「ハヤトが嘘をつく理由がない。問題は年上だったハヤトに態度を改めるかどうかだ。でも、若返ってるんだし、16歳扱いでいいよな?」

「リカルド……俺のこと、気持ち悪いって思わない?」

「思わない。ダンジョンも不思議な事だらけだし、見も知らない場所から転移する事だってあるだろうよ。ハヤトが生活に困っていないならそれでいい」

 俺はリカルドの手を強く握り締め、精一杯明るく言った。

「俺はリカルドが大好きだ。リカルドにだけは嘘をつきたくなくて、告白しておきたかった。受け入れてくれて、ありがとう」

「元々ハヤトの故郷って怪しいんだよな。栄えてそうなのに、ハヌーンがいないとか、冒険者に馴染みがないとか。隠れ里っぽいな、と思っていたんだ」

「あはは……。故郷に関してはないものが多くて上手く説明出来ないけれど、凄く栄えていたよ。でも、俺はこの町が好きだな。リカルドに会えて良かった」

「俺もハヤトに会えて良かった。若返った事は内密にしよう。権力者に捕まると人体実験されかねない。気を付けような」

「ひええ。わかったよ、リカルド」

 俺達は裏路地を通り、二階に入った。
 一昨日約束したボウリングの見学に来たのだ。

「ようこそ、紳士の遊び場へ。お待ちしておりました、リカルド様、ハヤト様」

「やあ、支配人。ボウリングはどうだい?」

「準備出来ております。こちらへどうぞ」

 ビリヤードの奥に、1レーンだけボウリング場が出来ていた。

「こちらから鉄球をお選びください。それぞれ重さが違います」

「おっ、じゃあ俺は重めにするわ」

 リカルドはとても楽しそうだ。
 俺は軽めの鉄球を選んだ。

 ピンが並べられて、ピッと笛が鳴った。
 リカルドは助走をつけて、滑らかなフォームで鉄球を投げた。

 ガコンガコーン!
 若干重そうな音を立てて、10本のピンがなぎ倒された。

「ストライク!」

「リカルドすごい! フォームも完璧だったし、初めてでストライクなんて本当にすごい!」

「まあな。運動神経は良い方だ。さあ、ハヤトもやってみろ」

 ピンが並び直され、ピッと笛が鳴る。
 俺は精一杯真っ直ぐになるように、鉄球を投げた。

 狙いは良かったのに、真ん中に当たったけど6本しか倒れなかった。
 もう一度鉄球を持って、強めに投げる。
 今度は二本残った。

 ピンが並び直され、ピッと笛が鳴る。

「次は俺だな。せいっ!」

 リカルドは一本だけ残った。

 もう一度投げて、スペアを取った。

「リカルドって柔軟性も優れてるんだね。ボウリングは柔軟性が大事って聞いたことあるよ」

「今のはちょっと左にずれちまったんだ。悔しいな。ハヤト、ボウリングって楽しいな。さあ、ハヤトの番だぞ」

「う、うん」

 俺は強めに投げた結果、ガター。
 リカルドはぽかんとしている。

「ガターも珍しい事じゃないから!」

「そうなんだな。支配人もやってみたか?」

「ええ。うちの中では、下働きのザックが一番ストライクを出していました」

「そりゃあいい。連れてきてくれ。勝負してえ」

「かしこまりました」

 それから、ザックが連れて来られてしっかり1ゲームやりました。
 結果、リカルドの勝ち。
 それからギャラリーが集まってきて、俺もやりたいと大騒ぎ。
 一人ずつ投げて貰って、ストライクを出した人とリカルドが勝負した。
 これもまた、リカルドの勝ち。
 そしたら、見ていたギャラリーがやりたいと大騒ぎ。
 また一人ずつ投げて、スペアを取った人とリカルドが勝負した。
 結果、リカルドの勝ち。
 リカルドが強すぎる。
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