異世界転移した俺の、美味しい異世界生活

yahagi

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クレープとブラックタイガー

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 アラブレヒトは王都でオセロも売るそうだ。
 今、小間物屋は必死に石を削っているのだろう。
 オセロ人気は王都でも通用するのだろうか。
 
「王家に献上しておくと、後々楽なんだ。献上用は、しっかり台に彫り物も入れて、高級感が出るように頼んである」

 アラブレヒトはやり手の商人だ。
 色々考えているのだろう。
 俺はリカルドに聞いたカードゲームについて、聞いてみた。

「ああ、確かに数字が描いてあるよ。同じ数字のカードを当てたり、特定の並び方をさせたり、色々な遊び方がある。ただ、裏面が全く一緒ではないから、あんまり人気はないね」

「そうなんだね。似たようなカードを作って遊んでいたら怒られてしまうかな?」

「大丈夫さ。似たようなカードは今までだって、いくらでもあったんだよ。そうだな、俺の商会用にも1セット作ってくれるかい?」

「勿論さ。いつもありがとう、アラブレヒト。出来上がりは先になっちゃうけど、メリッサさんに預けておくから」

 アラブレヒトは笑顔で頷いてくれた。
 俺は支店を出て、魔道具屋サンラクへやってきた。

「サンラクさん~。いませんか~」

「おう、ハヤト。出来とるぞ。これでどうじゃ!」

 サンラクさんは一台の移動車を引いてきた。
 クレープを焼く丸いホットプレートがあり、火元もある。
 クレープを包む場所もあり、完璧だ。

「サンラクさん、最高です。ありがとうございました!」

 俺はサンラクさんに報酬を支払い、伝言屋に頼んで店主を支店に呼び出した。

「オーナー。それが移動車ですか?」

「そうだ。一度引いてみてくれ」

 店主の女性は、問題なく移動車を引いた。

「必要なものは積んでおいた。まずはこのあたりで販売してみよう。歌を歌うから、真似て歌ってくれ」

「はいっ!」

「おいしい~クレープ~。クレープはいかがですか~。おいしいクレープ~」

「おいしい~クレープ~。クレープはいかがですか~。おいしいクレープ~」

 拡声器で俺と店主の歌は、このあたりに響き渡る。
 釣られて来た子供連れの主婦が、おそるおそる近付いてきた。

「クレープって何ですか?」

「卵と乳の甘いクリームをくるくる包んだおやつですよ。木イチゴとチョコの味があります」

「まあ。一つずつちょうだい」

「毎度あり。銅貨4枚です」

 俺は仕込んでおいたカスタードクリームとホイップクリーム、木イチゴのジャムを乗せてくるくる巻いた。

「まずは木イチゴです」

 次にカスタードクリームとホイップクリーム、チョコソースを塗って、くるくる巻いた。

「これがチョコだよ~」

 受け取った女の子は、ぱくりと食べて、ニッコリ笑った。

「おいしい~」

 母親もニッコリしつつ、子供と遠ざかっていく。

「まずは商品の味を知らなきゃな。店主は木イチゴとチョコ、どっちが良い?」

「両方食べます! まずは木イチゴから!」

「あいよ!」

 俺はクレープ台でクレープを焼き、カスタードクリームとホイップクリーム、木イチゴのジャムを乗せてくるくる巻いた。

「わあ! 甘いクリームに木イチゴの酸味が合わさって、すっごく美味しいです」

 俺は次のクレープを焼き、カスタードクリームとホイップクリーム、チョコソースを塗って、くるくる巻いた。

「うわあ、チョコソースが合わさって、すっごく甘いけど、めちゃくちゃ美味しいです!」

「口に合って良かったよ。じゃあ、カスタードクリームから作り方を教えるね」

「はいっ!」

 お客さんが来ないうちに、俺はクレープの生地やカスタードクリーム、ホイップクリームの作り方、チョコソースの作り方を教えた。

「次は焼いてみようか。俺にチョコ味を一つ頼むよ」

「はいっ!」

 店主は元気いっぱい、チョコ味のクレープを作り、くるくる巻いた。

「うん、美味しいね。後は経験を積もう。歌を歌ってくれ」

「おいしい~クレープはいかがですか~。おいしい~クレープ~。あま~いお菓子です~。いかがですか~」

 おっ、アレンジして歌ってる。
 二度歌っていたら、女性が数名近付いてきた。

「これはクレープという、甘いクリームをくるくる巻いたお菓子です。木イチゴとチョコ味が選べます」

「木イチゴとチョコを一つずつ」

「はい、銅貨4枚です。少々お待ちください」

 店主は丁寧にクレープを作った。

「はい、お待たせしました。木イチゴとチョコです」

「私はチョコを三つお願い」

「あいよっ! 銅貨6枚になります」

 店主は三つのクレープを作り、女性に手渡した。

「木イチゴとチョコ2つずつ」

「はい、銅貨8枚です。少々お待ちください」

 木イチゴを2つ先に作り、手渡す。
 次にチョコを2つ作り、女性に手渡した。

「ありがとうございました!」

 お客さんが遠のいてから、俺は店主に話し掛けた。

「問題なさそうだね」

「はい。今日はこのまま住宅街を回ります。生地もクリームもたっぷりあるし、道なら熟知してますから!」

「それは頼もしいね。同じような移動車で、石焼き芋を売ってる青年がいたら、君の先輩だ。話してみると良いかもしれない」

「わかりました!」

「休憩は適当に取ってくれ。屋台は家まで持ち帰って欲しい。売上は一ヶ月に一度、支店まで持ってきてくれ」

 店主は快諾して、移動車を引いていった。
 俺は商業ギルドで移動車の場所代を支払い、支店に戻ろうとした所で、異様な雰囲気の冒険者ギルドに足を止めた。

「誰かが行かなきゃならねえ……」

「しかし、ブラックタイガーの群れだろう。一匹ならリカルドさんがいるが、群れじゃなあ」

 リカルドの名前が出た。
 どくんと心臓が鳴る。

「あっ、ギルド長。この騒ぎはどうしたんですか?」

 俺は小難しい顔をして、冒険者ギルドから出て来たギルド長を捕まえた。

「ハヤトか。今、リカルドを呼びに人をやっている。……ハヤトはリカルドの妻だったな。関係のある話だ。一緒に聞いてくれ」

 俺はこくりと頷いた。
 やがてリカルドが冒険者ギルドに到着した。

「ギルド長と……ハヤト! 心配させたか? 俺が行くから大丈夫だ」

「でも、ブラックタイガーは群れだって聞いたよ」

「こほん。改めて説明する。ここから三日ほど進んだ場所でブラックタイガーの群れが確認された。見つけたのは商人の護衛をしていたBランク冒険者だ。戦闘せず速やかに離脱後、ここまでたどり着いたのがついさっきだ。ブラックタイガーは一匹でAランク冒険者と渡り合うと言われている。道は商人が必ず通る場所だ。排除が必要だ」

「補助にBランク冒険者を数名つけて貰えると聞いた。魔術師と治癒師は必ず欲しい」

「勿論だとも。よりすぐりの冒険者を補助につける。ただ、危ないときはリカルド、お前がまず戻ってこい。お前はこの町のヒーローだ。お前がいれば何度でも戦える」

 重たい言葉だ。
 補助の冒険者を捨てても、リカルドは生き残らなきゃいけないんだ。
 リカルドはいつもの、俺が大好きな笑顔で頷いた。

「いつもの事だ。俺が行けば、俺がいれば皆が安心する。俺はその信頼に応え続けてここにいる。今回もそうさ。ハヤト、アラブレヒトに出立の準備をさせておけよ。俺が帰り次第出立する事になるだろうからな」

「うん……うん……!」

 どうしてだろう。
 俺は涙が止まらなかった。
 リカルドがいれば大丈夫だって思ってるのに、涙が零れる。
 リカルドは俺を抱き締めて、ぽんと頭を撫でた。

「ハヤトは大討伐も初めてだろう。不安にさせるが、俺の妻だ。お前のいる場所に帰ってくるから、笑顔で待っていてくれよ」

「うん、わかった……」

 俺は不格好な笑みを浮かべて、頷いた。
 それから大討伐チームが組まれて、慌ただしく時間が過ぎていく。
 鐘2つ、リカルドは6人の冒険者を連れて、旅立った。
 俺はチョコの差し入れをしたくらいで、役に立っていない。
 でも、リカルドは俺の所に帰ってくるのだ。
 俺はリカルドを信じる。

「ハヤト、悪いな。リカルドには無理をさせちまう」

「いいんです。止めても行っちゃうだろうし、こういうことは、初めてではないんでしょう。俺はリカルドを信じます」

「ああ。俺もリカルドを信じてるよ」

 ギルド長はリカルド達の消えていった方角を眺めて、そう言った。
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