人形と呼ばれた僕は、黒狼殿下に溺愛される

yahagi

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バザーと視察

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 冒険の書の冒険から2週間経ち、僕は王子妃教育が始まった。
 まずは座学で、獣人の歴史を学ぶ。
 それから、社交界デビューの為に、豪華なドレススーツが作られるという事だった。
 勉強の合間に採寸をして、バザーのお菓子を作る。
 バザーの日付は明日に迫っており、冒険の書の写本も完了している。
 販売予定の教会に僕も行くとあって、騎士団の護衛も気合いが入っているそうだ。
 僕は勉強が得意な方なので、暗記は問題ない。
 王子妃教育も知らないことが知れるので、とても楽しかった。

 さて、バザーの開催日がやってきた。
 今日はザイルも一緒ということで、おそろいの青い礼服を見にまとう。
 僕の胸にはルビーの兎のネックレスが輝いている。
 王宮を馬車で出発し、町に出る。
 大通りを抜けて、教会にやってきた。
 出迎えたのは、老女のシスターだ。

 僕が作ったクッキーやパウンドケーキが、綺麗にラッピングされて、並べられる。
 冒険の書も並べられて、販売の準備は完了だ。

「シェラヘザード様、本日はお越しくださり、誠にありがとうございます。民もシェラヘザード様に興味津々で、あちらに待機しております」

 シスターに言われて入り口を見ると、沢山の町人が並んでいる。
 騎士団によって列が作られ、待機列は右手の方に伸びている。

「今日はどうぞ宜しくお願い致します」

 シスターは深く頭を下げた。
 販売開始の鐘が鳴り、ダンティスとハロルドが前に出る。
 クッキーを手にした町人のお会計をする二人の横で、僕は握手に応じる。

「本当に紫色と橙色のオッドアイだぁ。黒狼殿下と末永くお幸せに」

「ありがとう」

 ザイルも僕の横で握手に応じている。
 
「黒狼殿下、綺麗な嫁さん貰ったなぁ」

「ああ。良いだろう。俺のシェラヘザードは世界一別嬪だ」

「押さないで下さい、クッキーはまだまだあります!」

 冒険の書は、あっと言う間に売り切れ。
 クッキーとパウンドケーキを箱から取り出すハロルド。
 クッキーをこんなに焼いてどうするんだろうと、思っていたけれど、これじゃあクッキーもなくなりそうだ。

「シェラヘザード様、黒狼殿下を宜しくな」

「うん、任せて下さい」

「シェラヘザード様、握手お願いしますっ」

「ありがとう」

「シェラヘザード様、万歳っ」

「ありがとう」

 その後も町人や冒険者など、あらゆる人がやってきた。
 僕はずっと握手しっぱなしで、そろそろ腕が痛い。

「クッキーとパウンドケーキが完売しました! どうもありがとうございました!」

 ダンティスがバザー終了のお知らせを告知して、民も解散だ。

「黒狼殿下とシェラヘザード様がお帰りになる! 道を開けよ!」

 騎士団が道を開けさせると、すぐに馬車がやってきた。

「シスター、本日の稼ぎをお受け取りください。今日はありがとうございました」

「こちらこそ、どうもありがとう。シェラヘザード様、黒狼殿下を宜しく頼みます」

 シスターは深く頭を下げた。
 シスターに売上を寄付して、馬車に乗り込む。
 馬車は町人をかき分けて進み、やがて王宮に入った。

「すごい人だったね、ザイル。まだまだ列が伸びていたよ」

「シェラヘザードと触れ合える良い機会だからな。次はクッキーを2倍焼くと良い」

「うんっ、僕頑張るよ」

 僕は粉をふるったり、型を抜いただけだから、大変なのは料理長だ。
 2倍焼くとなると、一日中キッチンにこもらないといけないな。

「その意気だ。明後日の海辺の町の視察も大丈夫そうか?」

「勿論だよ。海辺の町、ずーっと楽しみにしてるんだ。やっぱりお魚を食べるのかな?」

「ああ。新鮮な魚介類を腹一杯食えるぞ。視察は海岸をぐるっと回る。俺はホタテを貝殻ごと焼いて、バターと醤油を落とした奴が食いたいな」

「お昼ご飯は町で食べるの?」

「いや、警備が甘くなるからタウンハウスだ。料理長が腕をふるってくれるから、心配いらないぞ」

「僕は蟹を食べてみたいな。本で読んだことがあるんだ。美味しくてお酒にも合うって書いてあった」

「間違いなくうまいぜ。料理長にリクエストしといてやる。腹一杯蟹を食えば満足出来るだろう」

 じゅるり。
 僕はまだ見ぬ海の幸を思い浮かべ、ごくりと唾を飲み込んだ。

 王宮に着いたら、すぐに昼食。
 午後からはお勉強だ。
 一日が終わるスピードが凄く早い。
 僕は教科書を読みながら、講師の説明に集中した。




 今日は海辺の町に視察に行く日だ。
 待ちに待った旅行に、僕は楽しみな気持ちを抑えきれない。
 荷物はダンティスとハロルドが持ってくれたので、僕はザイルと身軽な格好だ。
 僕達は馬車に乗って、海辺の町へ出発した。

 道中はザイルの冒険の話や、乳兄弟のウェインの恋物語を聞いた。
 特にウェインの話は面白くて、僕は夢中で聞いていた。

「獣人は一人を生涯愛するって言うがな、冒険者やってると、一夜の恋もアリだ。ウェインは酔った勢いで牛人の女と寝た。どうなったと思う?」

「セックスしたなら、求婚したんじゃないの?」

「正解だ。巨乳が気に入ってプロポーズするも、断られて撃沈。三日ぐれえやけ酒飲んでたが、次からは遊びと割り切って色んな奴と寝てた。そんな生活を半年ぐれえ続けてたな」

「ウェインは遊び人になっちゃったんだね」

「ウェインが遊び人だっていう噂が回って、本気の奴はウェインに近寄らない。そんな中で、ウェインに本気で惚れた若い薬師がいたんだ。顔もプロポーションも抜群で、巨乳に弱いウェインはすぐに惚れた」

「それじゃあ、一夜の恋は卒業だね」

 ザイルは頷いて、続きを話した。

「俺も紹介されたが、優しそうなたれ目で、ぶち模様の耳をしていたよ。とにかくセックスに夢中で、連れ込み部屋から一週間出てこなかった事があった。出てきた瞬間、結婚するって言い出した」

「ウェインって情熱的。じゃあ、その薬師と結婚したんだね」

「ウェインはひっそりと式を挙げて結婚した。今は2人の子供がいる。嫁さんは子供の世話があって、結婚式には出てなかったな」

「冒険者って格好良いもんねえ。ザイルも凄くモテたでしょう。一夜の恋は、どれくらいあった?」

「そりゃあモテたぞ。俺の初体験は、女の冒険者だった。上に乗って腰を振ってよ、獣みてえに叫ぶもんだから、滅茶苦茶驚いたよ。それからたくさんの女と寝たけど、一夜の恋以上にはならなかった」

「そうなんだ。男とも寝たの?」

 僕はごくりと唾を飲み込んだ。

「次にハマったのが、男の冒険者を口説いて雌にすることだ。時には3人同時に相手することもあって、随分楽しんだよ。屈強な男の尻にぶち込んで、よがらせるのが楽しくてな」

「恋した相手はいなかったの?」

「いねえな。一夜の恋としては燃えたぜ。だが、それ以上の相手は現れなかった。それから少しして、戦争が始まった。娼婦には随分世話になったよ」

「ふうん。そうなんだ」

「シェラヘザードが嫉妬するような事はないぜ。俺が本気で惚れたのは、シェラヘザードが初めてだ」

「僕が冒険者をやってたら、抱いてくれた?」

「抱いて抱いて、二度と離さねえよ。シェラヘザードは本当に俺の好みだからな。可愛くてたまらねえ」

「えへへ。そう言ってくれるのはザイルだけだよ。僕はザイルが大好きだから、凄く嬉しい」

 それから、元婚約者のカイリー様の話になった。
 カイリー様には、愛想を身に付けろと、よく叱られていた。
 辛くてみじめだった日々を思い出す。
 僕にはカイリー様の婚約者はつとまらないんじゃないかと、よく悩んでいた。

「シェラヘザード様は悪くありません。カイリー様の理想とかけ離れていただけです」

 ダンティスがそう宣言し、ハロルドが頷く。
 
「じゃあ、シェラヘザードは元婚約者に恋してなかったのか」

「恋なんて無理だったよ。僕は嫌われていたし、叱られてばかりだった」

「シェラヘザードは王子妃教育の成績も良いし、上品で慎み深い。どこに叱る要素があるってんだ?」

「そこは僕もわからないよ。好みが違ったんだと思う。でも、僕は婚約破棄されたおかげでこの国に来れた。今はとても幸せだよ」

 いつまでも話は尽きず、僕達は隣町に着くまで喋り続けた。
 そしてようやく着いた海辺の町を、馬車が通っていく。
 騎士団員24名と馬車が通り過ぎるのを、町民達が歓声を上げて、迎え入れてくれた。

「シェラヘザード様、万歳!」

「シェラヘザード様、ようこそ!」

「黒狼夫妻を歓迎致します!」

 僕は窓から手を振って応えた。
 海辺の町のタウンハウスに到着し、客室に通される。
 すぐにお昼ご飯との事で、食堂に行った。
 出て来たのは、海の幸たっぷりの海鮮丼。

「夜は蟹のフルコースをお出ししますよ。黒狼殿下のお好きなホタテのバター醤油焼きも、ご用意致します」

「魚のアラの味噌汁も飲みてえな」

「ご用意いたします」

 料理長はにっこり笑って、貝の味噌汁を配膳した。

 僕は初めて食べるお刺身に大興奮。
 とっても美味しくて、感動した。
 特に海老が甘くて美味しい!

「おかわり、海老多めで!」

 僕はたっぷり海鮮を食べて大満足。
 食後、部屋に戻って身支度を整える。
 すぐに視察だ。
 馬車に乗り込み、出発する。
 今日は天気も良くて、視察日和だ。
 僕は窓から外を見て、海辺の町を眺めた。
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