人形と呼ばれた僕は、黒狼殿下に溺愛される

yahagi

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溺愛

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「おはよう、シェラヘザード」

「おはよう、ザイル」

 おはようのキスをして、身を起こす。
 ザイルの胸から顔を上げると、ダンティスが入ってきた所だった。

「シェラヘザード様、おはようございます」

「おはよう、ダンティス」

 僕は姿見の前に立ち、着替えをした。
 
「本日の収穫祭はシェラヘザード様が嫁いで来られて10年目の節目ということで、パレードが予定されております。パレードの後は昼食を挟んで、教会でバザーを行います」

「うん。昨日は一日中クッキーとパウンドケーキを焼いていたからね。ウェインの冒険の書は間に合った?」

「はい。ウェイン様の書かれた冒険の書も3冊ご用意出来ております。冒険の書は毎年大変な人気ですから、今回もすぐに売り切れてしまうでしょう」

 僕が嫁いできてから10年が経った。
 僕は相変わらずザイルに溺愛されている。
 僕もザイルを心から愛している。
 10年は目まぐるしく過ぎ去っていき、色々な出来事があった。

 まずは、ミレトリア様の出産である。
 9年前に王子様が誕生し、母子ともに健康で喜ばしい知らせに町がお祭り騒ぎになった。
 その後も、王子様、王子様、姫様の順で出産されて、ミレトリア様は6児の母である。
 第一王子殿下はもう17歳。
 戴冠も視野に入れる頃合であるが、本人は冒険が大好き。
 ダンジョン巡りが大好きで、エメラルドダンジョンの上のルビーダンジョンへよく足を運ぶのだとか。

 それと、特筆すべきは、結婚式や海辺の町で僕等を襲った賊の一味、首領はパンサーと見られている件である。
 パンサーとは、その後6回対峙している。
 いずれも本になり、歌劇になっている位、どれも有名な事件だ。
 何度も煙玉を投げつけられて、そのたびに火に巻かれた僕だったけれど、へこたれなかった。
 問題は、僕が煙玉では怯えないとわかったパンサーが、僕の抹殺を企てた事だった。
 僕はギリギリ護身用の短剣で難を逃れたが、怖くて動けなくなってしまった。
 怒ったのはザイルだった。
 鬼神のような強さで有象無象を切り捨てて、パンサーに迫ったザイルは、僕でさえ怖かった。
 パンサーに致命傷を与えたザイルだったが、遺体は賊が持ち去ってしまった。
 それから、賊にもパンサーにも会っていない。
 本当は生きているかもしれないし、また来るかもしれない。
 その時は、次こそとどめを刺すと、ザイルは決意している。

「シェラヘザード様、パレードのお時間です」

 ダンティスに促され、屋根のない馬車に乗る。
 勿論、隣にはザイルがいる。
 頼れる僕の旦那様、最愛の人だ。
 馬車が進み、町へと入っていく。
 今日は収穫祭。
 町はお祭り騒ぎで、人出も多い。

「シェラヘザード様、万歳!」

「黒狼夫妻に幸あれ!」

「黒狼夫妻、万歳!」

 民の声に、笑顔で手を振って応える。
 僕のことは歌劇になっていることもあり、だいぶ黒狼夫妻と呼ばれることが増えてきた。
 ザイルと夫婦として認識されていることが、とても嬉しい。
 僕のおかげで人族の愛に対する偏見が減ったらしく、獣人の国エイザーでは人族のお嫁さんを募集中だ。
 この10年で数えるほどしか、人族が嫁いできたことはない。
 獣人は思った以上に偏見で見られており、特にザイルへの畏怖が強い。
 社交界に出て思い知った、自国の令嬢でさえザイルに怯える現状は、いかんともしがたいものがあった。
 
「放っておけ。俺はシェラヘザードがいれば、それで良い」

 ザイルはそんな調子で気にしていない。
 僕にさえ怯えてくる令嬢に、僕はかける言葉が見つからなかった。

 獣人は愛情表現が豊かで、一途な一族だ。
 耳と尻尾がある点は違うけれど、ほとんど人族と変わりない。
 僕はもっともっと、獣人の良さが各国に伝われば良いなぁと思っている。

「シェラヘザード、あそこにパンダ獣人がいるぞ。子供連れだ。見てみたいと言っていただろう」

 そこには、白地に黒い丸い耳の、特徴的なカラーリングのパンダ獣人がいた。
 大人と同じで、子供もパンダ獣人だ。
 僕は笑顔で手を振った。

「パンダ獣人って初めて見たよ。特徴的なカラーリングで可愛いね」

「色んな種族がパレードを見にきてくれて嬉しいな。シェラヘザードのお陰で俺も人気が上がったからな」

 ザイルはご機嫌で手を振っている。
 
「黒狼殿下、万歳!」

「シェラヘザード様、万歳!」

「黒狼夫妻に幸あれ!」

 民の声が優しく温かい。
 僕はふわりと微笑みつつ、手を振り続けた。

 パレードが終わり、王宮に戻って昼食だ。
 僕達は食堂に入り、席に着いた。

 まず前菜が届き、フォークで刺して食べる。
 僕はカナッペが結構好きで、夜食に頼んだりする。

 次はスープだ。
 今日はアスパラガスのポタージュ。
 とっても美味しくて、味わって飲んだ。

 メインは、子羊のステーキ。
 分厚いお肉がすごく美味しい。
 赤ワインと玉ねぎのステーキソースが秀逸だった。

 デザートはプティング。
 優しい甘さで、とても美味しかった。

 食事が終わり、すぐにバザーの準備に入る。
 昨日、一日中焼き続けたクッキーも箱に詰められ、運ばれていく。
 クッキーの他には、パウンドケーキとブラウニーを焼いた。
 どれも大量に焼いた為、バザーは三時間強を予定している。

 ザイルと一緒に馬車に乗り、教会へ出発した。
 収穫祭の真っ只中なので、市場は物凄い盛り上がりようだ。
 屋台の数もいつもより多く、人出も多い。
 
 教会に到着し、出迎えてくれたのは、若いシスターだった。
 
「ようこそお越しくださいました。黒狼夫妻を歓迎致します。早速ですが、こちらへどうぞ」

 僕達はシスターに案内され、バザーの場所にやってきた。
 たくさんのクッキーの箱が積み上げられ、ダンティスとハロルドが品物を並べていく。
 騎士団が民の行列の案内をしていて、民は綺麗に並んでいる。

「それでは、黒狼殿下とシェラヘザード様によるバザーを開催致します! 押さない、騒がない、ゆっくり進め!」

 大きな鐘が鳴らされて、民が押し寄せてくる。
 ダンティスとハロルドは慣れた様子でお会計をして、クッキーを渡す。

「シェラヘザード様、握手して下さい」

「シェラヘザード様、私も是非握手を」

「シェラヘザード様、応援しています」

 僕は握手を頑張った。
 ザイルも同じ様に握手に応じている。

「やったぁ、冒険の書が買えたぞぉっ」

 若い青年が大喜びで飛び跳ねている。
 冒険の書は、早くも残り1冊だ。

「冒険、頑張って下さいね」

 僕が声をかけると、青年は弾ける笑顔で頷いた。

「これからすぐ、冒険を始めます! よし、エイラ、ミック、行くぞっ」

「待ってくれよ、兄ちゃん。クッキーも買うからもう少し待って」

 クッキーを買って、三人は足早に町に消えた。

 その後も民の勢いは途絶える事なく、続々とやってきた。
 残りはクッキーのみになり、僕は頑張って握手を続ける。

「シェラヘザード様、今、お幸せですか?」

「うん。すっごく幸せだよ。愛する旦那様もいるし、この国がとても好きなんだ」

「歌劇で見ましたけれど、大変な奴等に目を付けられているじゃないですか。何度も火に巻かれて、苦しかったでしょう」

「そうだね。でも、僕が今元気でいられるのはザイルの助けがあったからなんだよね。ザイルを愛しているから、この程度でへこたれないぞって思うんだ」

「シェラヘザード様の深い愛に感謝を。黒狼殿下はお幸せでしょうね。いつまでも仲良くお過ごし下さい」

 歌劇を見て、応援してくれる民が結構多かった。
 最後は僕もクッキーを渡して、民と握手をした。
 
「バザーは終了だ! 速やかに解散せよ!」

 騎士団の声が大きく響く。
 僕達は売上をまとめて、シスターに渡した。

「今日もありがとうございました。黒狼殿下も人気はありますが、シェラヘザード様の人気が特に高いんです。民も満足した事でしょう」

 僕達はシスターに見送られて、教会を出発した。
 王宮に着いた頃には、夕食だ。
 僕達は食堂で夕食を食べて、バザーの成功を喜んだ。

「またバザーはやりたいね。ウェインに、また冒険の書を依頼しなくちゃ」

「そういえば、3年ごとにアメジストダンジョンに視察に行っているだろう。それを本にしたいと言っていたぞ。黒狼夫妻の冒険シリーズも人気があるからな」

「僕、スライムとボーンナイトしか倒せないよ……。小説の中だと、麻痺花も倒せちゃうのかもしれないね」

 僕達は笑い合って、食事を口に運んだ。
 
 お風呂に入った後、ザイルとベッドに入る。
 ザイルは僕にキスをして、抱き締めた。

「今日のバザーが終わって、しばらく大きな仕事はないだろう。今夜は抱き潰して良いか?」

「うん、良いよ。ザイル、愛してる。これからもずっと僕だけを愛してね」

「シェラヘザードだけを一生愛すると誓うよ。シェラヘザード、愛してる。一生、俺にはシェラヘザードだけだ」

 ザイルは10年前より、より深く愛してくれる。
 これは溺愛といっていいだろう。
 僕は獣人の愛の深さを毎年思い知らされている。
 ミレトリア様もファーゼス様も、夫に深く愛されて本当にお幸せそうだ。
 かくいう僕も心から幸せで、身も心もトロトロに溶かされている。
 たまに抱き潰されるのも、愛されている気がして良い気分だ。

 人形のようで薄気味悪いと婚約破棄された僕が、こんなに愛して貰えるだなんて、夢みたいだ。
 この国に来て何度も夢を叶えてきた。
 ザイルはいつも側にいてくれた。
 きっと、これから何年経っても、変わらず側にいてくれるんだろう。

 僕はザイルの首に抱きついて、キスをねだった。
 ザイルからキスをしてくれて、寝間着を脱がされる。
 今夜は徹夜でセックスだ。
 僕は目を閉じてキスをして、ザイルと抱き締め合った。
 
「ああ……。シェラヘザード、可愛いよ……」

 夜はゆっくりと更けていき、闇が二人を覆い隠す。
 こんな夜が、また来ると良い。
 僕はザイルと朝食の時間まで、愛し合うのだった。
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みんなの感想(1件)

みつばち
2025.10.31 みつばち

すごい読みやすいです✨凝った世界観と、シェラへザードの可愛さがたまりませんでした💕のんびり、おっかけます!

解除

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