【完結】探偵屋の恋女房〜ヤクザのお抱え探偵と下町娘の、昭和チックな幼なじみLOVE

桐乃乱

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第四章

【一】テツ―探偵屋の恋女房 ③

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「龍さん……瑠衣君だってフランスの三つ星シェフ仕込みでしょ。とぼけないでください」

 琥珀色の瞳に栗色の巻き毛の美青年は、料理と介護の必殺技を持っている。編み物も得意で、会長のカシミヤセーターは瑠衣君の手編みだ。

「龍といい、真田といい、プロ級の料理人を伴侶にしたかと思えば、テツまで……。わしは羨ましくて仕方がないな」
 会長が拗ねてるぞ。
「わかりました。小春に出張を頼んでみます」
「絶品親子丼でよろしくな」
「あっ、ずるいぞ会長。わしも食べに来るぞ」
 高橋理事長もちゃっかり便乗した。
「二人とも、ずるいっす。俺も駆けつけますよ!」
「明彦、お前は墨でも彫ってろ」
「龍さん、酷い!」
「おい、おふざけはそこまでだ。テツ、佐倉社長が所有していた別荘が教団名義になった件について、星刑事は何だって?」
「名義変更を依頼された司法書士を任意で調べたら、佐倉社長は自らの意志で寄付をしたそうです。例の金髪女性も同席していました。納得できない佐倉夫人は詐欺だと訴えてます」
「社長の足取りは?」
「泉岳や地下鉄駅周辺のパチンコ屋、ホテルを調べていますが、防犯カメラにそれらしき人物は見つかっていません」
「相沢の潜入待ちか……」
「今回、相沢は三十代の独身女性に扮してます」
 俺は持参したノートパソコンを操作し、部下が撮った写真を見せた。
「ほお……十は若く見えるな」
「男好きする顔だな」
 幹部連中はまんまと魅了されている。
「山本先生の若返り整形か?」
「いいえ。茂山晃成が東北大学のプロジェクトチームと開発したばかりの『マスカレード=スキンマスク』とメイクです。人工皮膚は二十四時間装着しても、肌や骨格にダメージがありません。マスクの型は山本先生がアドバイスしてます」
「手軽な変装アイテムだな。スパイ用なのか?」
「いまのところ、CIAや各国の政府限定での取引です」
「相場は?」
「顔サイズで一千万円です。全身ならゼロが二つほど追加されます」
「いやはや。アニメでスパイが変装マスクをひん剥いて逃げるシーンが現実になるとはな」

 理事長の世代からして、ルパン三世を指しているのか?

「整形は時間と経費、そして身体への負担がネックでしたから、画期的な技術だな」
「既にブルーレングループの純利益は半年で前年比を突破しましたよ」
 加藤弁護士の報告に、幹部から感嘆の声があがる。
「天才の警備を強化しないとな」
「晃成君の短期留学期間が終われば、アマンダはアメリカに帰国します。代わりの護衛を用意しましょうか?」
 東京の有名国立大に在籍する天才は二年で全課程を習得、学校公認で姉妹校に短期留学して研究の日々を送っている。超一流の工科大学と共同開発した商品『浄化ローション』は世界中でヒットし、莫大な利益を龍青会にもたらした。海外の工場を十カ所に増やしても、出荷が追いつかない状況だ。

「タワマンの二十七階に客用の部屋があるだろ。それを使わせればいい」
「組長は随分と気前がいいな」

 龍兄貴のからかいに、蓮さんはニヒルに笑った。

「錬金術師は大事にしないと。そうだろ、加藤弁護士」
「はい。彼の資産は既に、カリブ諸島を買えるほどになりましたからね。本人は興味がないようですが」
「あいつさ、会社にひょっこり顔を出して俺のパソコンで小一時間遊んだわけ。そしたら、一千万が十億になっちまったよ」
 組長はご満悦だ。
「天才って、すごいっすね!」

 明彦はのほほんとしてるが、普通の若者なら嫉妬する所だ。分町の天才彫り師もまた、世界中のアーティストから指名が入る存在になった。アイドル級の美人妻を速攻で孕ませた彼に、嫉妬など無用か。
「教団内の報告が入ったら、すぐに動けるように部下に待機させます」
 相沢の手引きで佐倉社長を連れ戻す計画だ。
「テツ、よろしく頼むよ」
「はい」

 会長宅から自宅ビルへ舞い戻ると、駐車場から一番街商店街の花屋へ寄った。若頭が毎日花を買っている『フラワーショップ八乙女』に大きな縫いぐるみやジュエリー、菓子まで売ってるのは、歓楽街の酔っ払いのついで買いを狙っている。俺の親父は屋台のタコ焼きが入った袋を千鳥足で俺の部屋に置いてったもんだ。戦隊ヒーローの変身ベルトをもらったのは、確か十五歳だった。俺は五歳で卒業してるけどな……。

「あらテツさん。いらっしゃい」
 結婚式のブーケを作ってくれたのは店主の奥さんだ。

「女将さん、そいつをくれ」
 小春の好みが分からないので、目についた花束を指さした。

「小春ちゃんにぴったりですね」
「……あと、これも」
 チョコレートの詰め合わせも追加した。新妻が好き嫌いなく何でも食べるのは、職人としての苦労や努力を知っているからだ。


 自宅のチャイムを押して、ゆっくりとドアを開けた。長い廊下にスリッパのせわしげな音が響いてくる。

「おかえりなさい!」
 助走を付けて飛びつかれる前に、妻へ花束を差し出した。

「わあ、きれい。テッちゃん、ありがとう!」
 愛に満ちた笑顔に、仕事の疲労が癒やされていく。やっぱり抱きつかれて、勢いよく頬に吸いつかれた。

「料理教室は明日か?」
「それがね、ちょっと困ってて……」
 夏休みが終わり、高校に通う生徒に合わせて土曜日に設定した件で問題があるようだ。

「何かトラブルか?」
「その……。土曜日は蓮さんの会社がお休みでしょ? で、ペントハウスのキッチンで私と初果ちゃんが料理を作ってると、蓮さんがキッチンカウンターに座り込んで、ガン見……見守るの。初果ちゃんは『女の子同士の話ができないでしょ!』って、プンスカしちゃって……。マンスリーマンションでも借りて教えた方がいいのかな」
「小春は蘭ママが提案した仕事を本業にしたいか?」
「テッちゃんは、私に専業主婦をして欲しいの?」
「俺は小春が幸せだと思う結婚生活をして欲しいだけだ」
「出張だと、複数人を教えるには都合が悪い場合もあるよね。ここには呼べないしなぁ……」
「複数人?」
「リエママの講義を受けた人たちで、グループ指導してくれないかって頼まれたの」

 グループラインの画面を開いて、テッちゃんにみせた。

【初果: 小春先生、来週もご指導よろしくお願いします!】
【七緒: 私も小春ちゃんの『絶品親子丼』のレシピを伝授されたい~】
【英子: 私も料理教室に参加したいのですが、小春さんに申し込めばいいですか?】
【綾奈: えー? 綾奈も参加したいよ~!】

「……と、こんな感じなんだけど」
「ふむ。恋女房の悩みを解決するのが探偵屋の役目だ。さあ、おいで」
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