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悪役令嬢は子羊のようだった(サムロは思う)
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「ゼハンプリュ嬢。」
「ゼハンプリュと言って・・・。コリアンダー公爵。」
と彼女は、弱弱しく言った。汗と涎で濡れた顔は実に妖艶でかつ守ってやりたいと思った。
「じゃあ、私のこともサムロと呼んで下さい。ゼ、ゼハンプリュ。」
「さ・・・サム、サムロ・・・。何を言おうとしたのですか?」
俺は、大きく息を吸ってはいて落ち着くことにした。彼女は不安と期待を込めた目を向けてきた。
「ゼハンプリュ・・・。私の妻となってくれないか、結婚してくれないか?」
あ~、つい言ってしまった~。
「はい。あなたの妻となります。」
彼女は即答だった。思わず彼女を抱きしめてしまった。彼女も抱きしめ返してきた。それまでと同じ抱擁なのに、全く異なったものに、もっと温かく、柔らかい、気持ちのよいものだった。
もう一度、二人は唇を重ね、舌を絡ませあっているうちに彼女は、またもじもじと腰を動かし、俺もまた熱くなってきた・・・が・・・、
「お、お嬢~様~。だ、大丈夫ですか?」
これは、カーキ公爵家の侍女だ。
「公爵閣下。奥様とのお楽しみはそのくらいに・・・。もうすぐ、夜が明けますから。」
こちらは、俺の侍女だ。なんか、やっぱりカーキ公爵家の侍女とは違うな、うんうん、さすがに我がコリアンダー家の侍女、話が分かる、偉いぞ。その上、にやにや笑っている男女は、我が護衛達・・・。
「ひゃー!」
「お、お嬢様。」
自分がほぼ全裸と気が付いたゼハンプリュが、悲鳴を上げて俺にさらにぴったりと抱きついて、彼女の替えの衣服を持った彼女の侍女が、それを早く着せようにも着せられずにウロウロし始めた。
一時間後、
「どういうつもりですか?コリアンダー公爵閣下。我がカーキ公爵家のゼハンプリュ様に、このような・・・黒パンどころか、粗末な雑穀パンをお出しになるとは!このようなもの、お嬢様のお口にあいません。」
と俺の館の食堂でがなり立てているのはカーキ公爵家のゼハンプリュ付き侍女長だった。
「我がコリアンダー公爵家では、常時戦場と心得ての食事をしております。まあ、王都の軟弱な貴族の総帥のカーキ公爵家の方々にはお分りになりませんでしょうが。」
と俺の子供の頃からの俺付きの侍女長が反論した。
「全く田舎者が。」
と舌打ちすれば、
「ひ弱よりはましですわ。」
とそっぽを向く。
俺が間に入ろうとすると、必死に、固さに閉口しながも、苦戦しながらも、その粗末な、田舎のパンにかぶりつきながら、
「わ、私はコリアンダー公爵家の嫁ですから、こ、このくらい、すぐになれます。そ、それに、こ、このハムもスープも美味しいですよ。」
とにっこり微笑むゼハンプリュは健気そのものだった。
「我が家自慢のイノシシ肉と鹿肉のハムとソーセージですわ。」
と得意がる我が家の侍女の言葉に、ゼハンプリュと彼女の侍女は少し顔色が悪くなった。それでも、彼女は簡単な我が家の朝食を食べきった。この後、やっぱり我が家自慢のお茶をすすっていると、これにはホットした顔の彼女、荒々しくドアが開く音がした。
「サムロ。」
「お兄様!」
と俺の叔母達と妹達が乱入してきた。
「え~と、カーキ公爵家ご長女、ゼハンプリュ嬢・・・ですね。」
と事前に俺は家臣を送って連絡させておいたのだから知っていたものの、いざ、俺にしっかり寄り添う彼女を見て戸惑った顔をしていた。
「コリアンダー公爵サムロ様の嫁となりましたゼハンプリュです。どうかよろしくお願いします。」
と頭を下げる彼女に、
「サムロが選んだのですから、異論はありませんが、コリアンダー公爵家の嫁にふさわしいかどうか試させていただきます。」
まあ、これは食事を食べきれるかよりは安心できた。不安そうな彼女に、
「君なら、大丈夫だよ。」
と言ったが、実際そのようになった。ガマリアから、彼女の剣などの鍛錬の様子を聞いていたからだ。
「合格ですわ。サムロは良い嫁をもらいました。よろしくお願いしますわ、甥を。」
「必死の気迫には負けましたわ。あの・・・・は動きは良かったのですか、この気迫がありませんでした。」
とのお墨付けがでた。目を輝かせて、俺を見上げる彼女は意地らしかった、本当に。
「お兄様。あの方、本当にゼハンプリュ嬢?なんか印象が違う・・・。」
妹たちも学園時代が彼女と交わっているから、その時知っていた彼女との落差に気が付いて、少なからず驚いていた。何を隠そう、俺が一番驚いている。
それは、彼女付きの侍女達ですら、ずっと子供のころから、彼女の世話をし、仕えていた侍女ですら、彼女の変化には驚いた。幼児退行とか、気弱になったとかではなく、芯はとおり、毅然としたところはあるし、しっかりしている・・・しかし、可愛い、子羊のような、守りたいと思わせる彼女は、誰も知らなかった。どちらが本当の彼女なのだろうか?と思ってしまった。パパイ大公は、こんな彼女を知ることはないのだろうな、と何故か思ってしまった。
その後、お互いがこすりつけた体臭がそのまま残る中、俺達はカーキ公爵家に向った。彼女の両親に結婚の報告をしにいくのだ、許可などは求めない。求めたら、いらぬ騒ぎをもたらすだけだ。案の定、彼女の両親であるカーキ公爵家夫妻は、恰幅が出始めているがゼハンプリュに似た見事な金髪の整った顔立ちの二人だった、怒ったこと怒ったこと。夫婦して怒鳴りまくり、罵りまくった、俺を。格下の家に、田舎者に娘はやれない、国王陛下に訴え出るとまで言ったのである。それに終止符を打ったのは、ゼハンプリュが泣いて俺にしがみついて、
「私はコリアンダー公爵様と、サムロ様と一緒にいたいのです。」
と訴えたからである。二人は、その彼女の姿にあっけにとられて、しばらく沈黙して、俺に娘を頼むと言うこととなった。
そして、二人の婚約破棄の元凶の曽祖父、ブルべエリ男爵はもっと驚いた。曾孫のやらかしたことの犠牲者二人が夫婦として来たのであるから、賠償金をもぎ取りに。賠償金というよりも、実際はそれだが、本来の我が家への資金援助に代わる金の支払いだが、を求めに来訪したのだ。かなりの金を二人の結婚式の際にだすということで妥協、かつ以前約束した我が家領内の商業権の認定も反故にしないことの約束に加え、ゼハンプリュが、
「我が領内でも。」
と必死の形相で言ったのには、さすがの海千山千の爺さんも白旗を上げた。
出がけに耳元で、
「あのゼハンプリュ嬢をここまで・・・。コリアンダー公爵閣下、流石ですな。全力で応援させてもらいますよ。」
とブルペエリ男爵は囁いた。爺さんは、この時、俺より先を見ていたのだ。
その後、王宮に参内して国王陛下に結婚の報告を。本来なら、認められないかもしれない組み合わせだが、王太子の所業の被害者2人であるから、認めざるを得なかった。
そして、再洗礼派教会で簡単な結婚式。俺の両親は、すぐに彼女を気に入ってくれたから、問題は全くなかった。運命論教会派の信徒の彼女だったが、その場で再洗礼派に鞍替えするとして、その場で結婚式を挙げたのである。
祝福を受けての誓の口付けで、俺達は結ばれてめでたし、めでたしと安心することは・・・いかなかったし、できなかった。
「ゼハンプリュと言って・・・。コリアンダー公爵。」
と彼女は、弱弱しく言った。汗と涎で濡れた顔は実に妖艶でかつ守ってやりたいと思った。
「じゃあ、私のこともサムロと呼んで下さい。ゼ、ゼハンプリュ。」
「さ・・・サム、サムロ・・・。何を言おうとしたのですか?」
俺は、大きく息を吸ってはいて落ち着くことにした。彼女は不安と期待を込めた目を向けてきた。
「ゼハンプリュ・・・。私の妻となってくれないか、結婚してくれないか?」
あ~、つい言ってしまった~。
「はい。あなたの妻となります。」
彼女は即答だった。思わず彼女を抱きしめてしまった。彼女も抱きしめ返してきた。それまでと同じ抱擁なのに、全く異なったものに、もっと温かく、柔らかい、気持ちのよいものだった。
もう一度、二人は唇を重ね、舌を絡ませあっているうちに彼女は、またもじもじと腰を動かし、俺もまた熱くなってきた・・・が・・・、
「お、お嬢~様~。だ、大丈夫ですか?」
これは、カーキ公爵家の侍女だ。
「公爵閣下。奥様とのお楽しみはそのくらいに・・・。もうすぐ、夜が明けますから。」
こちらは、俺の侍女だ。なんか、やっぱりカーキ公爵家の侍女とは違うな、うんうん、さすがに我がコリアンダー家の侍女、話が分かる、偉いぞ。その上、にやにや笑っている男女は、我が護衛達・・・。
「ひゃー!」
「お、お嬢様。」
自分がほぼ全裸と気が付いたゼハンプリュが、悲鳴を上げて俺にさらにぴったりと抱きついて、彼女の替えの衣服を持った彼女の侍女が、それを早く着せようにも着せられずにウロウロし始めた。
一時間後、
「どういうつもりですか?コリアンダー公爵閣下。我がカーキ公爵家のゼハンプリュ様に、このような・・・黒パンどころか、粗末な雑穀パンをお出しになるとは!このようなもの、お嬢様のお口にあいません。」
と俺の館の食堂でがなり立てているのはカーキ公爵家のゼハンプリュ付き侍女長だった。
「我がコリアンダー公爵家では、常時戦場と心得ての食事をしております。まあ、王都の軟弱な貴族の総帥のカーキ公爵家の方々にはお分りになりませんでしょうが。」
と俺の子供の頃からの俺付きの侍女長が反論した。
「全く田舎者が。」
と舌打ちすれば、
「ひ弱よりはましですわ。」
とそっぽを向く。
俺が間に入ろうとすると、必死に、固さに閉口しながも、苦戦しながらも、その粗末な、田舎のパンにかぶりつきながら、
「わ、私はコリアンダー公爵家の嫁ですから、こ、このくらい、すぐになれます。そ、それに、こ、このハムもスープも美味しいですよ。」
とにっこり微笑むゼハンプリュは健気そのものだった。
「我が家自慢のイノシシ肉と鹿肉のハムとソーセージですわ。」
と得意がる我が家の侍女の言葉に、ゼハンプリュと彼女の侍女は少し顔色が悪くなった。それでも、彼女は簡単な我が家の朝食を食べきった。この後、やっぱり我が家自慢のお茶をすすっていると、これにはホットした顔の彼女、荒々しくドアが開く音がした。
「サムロ。」
「お兄様!」
と俺の叔母達と妹達が乱入してきた。
「え~と、カーキ公爵家ご長女、ゼハンプリュ嬢・・・ですね。」
と事前に俺は家臣を送って連絡させておいたのだから知っていたものの、いざ、俺にしっかり寄り添う彼女を見て戸惑った顔をしていた。
「コリアンダー公爵サムロ様の嫁となりましたゼハンプリュです。どうかよろしくお願いします。」
と頭を下げる彼女に、
「サムロが選んだのですから、異論はありませんが、コリアンダー公爵家の嫁にふさわしいかどうか試させていただきます。」
まあ、これは食事を食べきれるかよりは安心できた。不安そうな彼女に、
「君なら、大丈夫だよ。」
と言ったが、実際そのようになった。ガマリアから、彼女の剣などの鍛錬の様子を聞いていたからだ。
「合格ですわ。サムロは良い嫁をもらいました。よろしくお願いしますわ、甥を。」
「必死の気迫には負けましたわ。あの・・・・は動きは良かったのですか、この気迫がありませんでした。」
とのお墨付けがでた。目を輝かせて、俺を見上げる彼女は意地らしかった、本当に。
「お兄様。あの方、本当にゼハンプリュ嬢?なんか印象が違う・・・。」
妹たちも学園時代が彼女と交わっているから、その時知っていた彼女との落差に気が付いて、少なからず驚いていた。何を隠そう、俺が一番驚いている。
それは、彼女付きの侍女達ですら、ずっと子供のころから、彼女の世話をし、仕えていた侍女ですら、彼女の変化には驚いた。幼児退行とか、気弱になったとかではなく、芯はとおり、毅然としたところはあるし、しっかりしている・・・しかし、可愛い、子羊のような、守りたいと思わせる彼女は、誰も知らなかった。どちらが本当の彼女なのだろうか?と思ってしまった。パパイ大公は、こんな彼女を知ることはないのだろうな、と何故か思ってしまった。
その後、お互いがこすりつけた体臭がそのまま残る中、俺達はカーキ公爵家に向った。彼女の両親に結婚の報告をしにいくのだ、許可などは求めない。求めたら、いらぬ騒ぎをもたらすだけだ。案の定、彼女の両親であるカーキ公爵家夫妻は、恰幅が出始めているがゼハンプリュに似た見事な金髪の整った顔立ちの二人だった、怒ったこと怒ったこと。夫婦して怒鳴りまくり、罵りまくった、俺を。格下の家に、田舎者に娘はやれない、国王陛下に訴え出るとまで言ったのである。それに終止符を打ったのは、ゼハンプリュが泣いて俺にしがみついて、
「私はコリアンダー公爵様と、サムロ様と一緒にいたいのです。」
と訴えたからである。二人は、その彼女の姿にあっけにとられて、しばらく沈黙して、俺に娘を頼むと言うこととなった。
そして、二人の婚約破棄の元凶の曽祖父、ブルべエリ男爵はもっと驚いた。曾孫のやらかしたことの犠牲者二人が夫婦として来たのであるから、賠償金をもぎ取りに。賠償金というよりも、実際はそれだが、本来の我が家への資金援助に代わる金の支払いだが、を求めに来訪したのだ。かなりの金を二人の結婚式の際にだすということで妥協、かつ以前約束した我が家領内の商業権の認定も反故にしないことの約束に加え、ゼハンプリュが、
「我が領内でも。」
と必死の形相で言ったのには、さすがの海千山千の爺さんも白旗を上げた。
出がけに耳元で、
「あのゼハンプリュ嬢をここまで・・・。コリアンダー公爵閣下、流石ですな。全力で応援させてもらいますよ。」
とブルペエリ男爵は囁いた。爺さんは、この時、俺より先を見ていたのだ。
その後、王宮に参内して国王陛下に結婚の報告を。本来なら、認められないかもしれない組み合わせだが、王太子の所業の被害者2人であるから、認めざるを得なかった。
そして、再洗礼派教会で簡単な結婚式。俺の両親は、すぐに彼女を気に入ってくれたから、問題は全くなかった。運命論教会派の信徒の彼女だったが、その場で再洗礼派に鞍替えするとして、その場で結婚式を挙げたのである。
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