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開戦
戦況②
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ケイのいる軍は、占領した砦から進むことはできなかった。攻略までに3か月以上かかったことも、攻城に予想以上の損害が出たことも、砦を引き払って撤退する敵軍を追撃した部隊が壊滅してしまって、それで兵力不足になったことも、理由の一つではあったものの、それが主要な原因というわけではなかった。ケイが、聖女ケイが精神的にも、肉体的にも疲れ切っていたことも、サラギからは大きな理由ではあったが、彼はさすがにそれで進むことを断念することはしなかった。彼には、必要な程度の政治家、軍事指導者、王子としての才があったからだ。
その先に強固そうな野戦陣地、砦、さらに堅固な城が控えているのに、後続の部隊がないということが原因だった。本隊が、傭兵天下無双の軍の壊滅した戦いでの敗北後、態勢を立て直して攻勢に出たが、それも二度、それが大敗を期したからで、兵力が回せなくなったことである。兵力不足なのだ。
さらに、寄合所帯の連合軍である、敗北続きでシュン王国以外の諸国の大半が及び腰、士気は低下、略奪もままならぬ傭兵たちの不満・・・そのため兵力の実数以上に兵力、動く兵力という意味で、不足しているということである。
さらに、本隊に従軍している聖女の疲労が大きいことも問題だった。全力で聖女としての力を行使しても、聖結界は通用することなく、魔王、女魔王に大暴れされ、加護による銃砲弾、矢の威力は高まったものの、リツシユン王国国王親衛隊の銃砲弾や矢の威力に威力にはるかに劣り、完全に撃ち負けていたからである。そのことで、精神的にショックを受けていたからである。それもあって、必死に聖女としての力を強めて、より聖結界に、加護に力を注ぎ込んだ。それがさらに心身に負担をかける悪循環をさせてしまっていたのだ。シュン王国としては、他国の担当である聖女のことには気を使わざるを得なかった。
それでも、第三王子の軍には多少の増援もあっただけましだった。第一王子の軍は、兵力を引き抜かれていたからである。
「あなた方までいなくなっては・・・。反撃されたら持ちこたえられないかも・・・。どうか、考え直して。」
「お、お嬢様・・・。父上様からの命令では・・・どうしようもないのです。」
「そ、そんな・・・。」
絶句するトオシ大公妃、エイリ、つまり第一王子妃であり、自分の主の長女に申し訳ないという表情をしながらも、彼女の領地の騎士団長は、歴戦の、盛りは過ぎているものの、まだまだ現役で奮闘できる、実際に奮闘している、やや禿てはきた栗色の髪の、かつては女達を魅力していた面影のある凛々しく逞しい、父が娘のためにと、特別に配属した、その場を立ち去った。その日の内には、その配下の騎士隊、歩兵隊を率いて第一王子の軍から去っていった。ただ、病気や怪我で動けない兵士達を、回復するまでは置いておいてほしいと残していった。もちろん、本当に動けない者達もいたが、軽傷で戦闘力の有る者、それどころか、小さな傷、ほんの小さな傷を理由に残った騎士、歩兵達もいた。可能な限り、僅かでも戦力を残しておこうという、彼の配慮であり、彼女の父の意志でもあった。王太子に、何とか黙認してもらえる、可能な限りの配慮だった。彼女の領地の騎士達である。彼女の意志が、命令が絶対であるはずではあるが、元々は娘の結婚での持参金、生活費として父が与えた領地であるから、彼女の父親の意志こそが、その地の家臣達にとっては優先されなければならないのである。
彼女は夫についてきた。甲斐甲斐しく武装していだが、それだけでは足手まといにしか過ぎない。彼女の護衛や侍女だけでなく、自分の領地から無理のない程度に騎士、兵士を動員してきたのである。総計100名程度ではあったが、夫を守る親衛隊を補強するということでは意味が十分あった。それが、今では10人に満たなくなってしまった。そして、彼らには、いよいよとなったら彼女をつれて、無理やりにでも、第一王子の軍から離脱することも任務とされていたのである。
残った者達に、特に十分に動けない騎士達に、声をかけて、励まし、今後のことを頼んだ後、悄然として自分達の天幕に戻ったエイリを迎えたのは、マキイアだった。彼女の方も同様だったのだ。
二人の女は大きなため息をついた。
シュン王国軍の部隊だけでなく、他国の部隊もかなり引き抜かれた。総大将である王太子、第二王子からの命令である。二人の騎士達が去ったのは、本軍に合流するためであるが、王太子からの命令はない。そもそも、流石に命令することはできなかった。建前上、彼女らの兵である。形の上では、彼女らの父親が勝手にやったことである。しかし、王太子の意志を反映したものであることは確実だった。
その上で、この地の要路の砦の早期攻略を命じてきていたのだ。陽動のためだという。
いくつかの小さな砦は落としたものの、砦というより城に近いその砦を落とすことは、兵力も武器弾薬も不足していたのに、兵も武器弾薬も引き抜かれ、その上で・・・。他国の部隊は、既にやる気は失せている。それでも、カサギはやらざるを得なかった。
「何とか言い訳の立つ、戦をして・・・二人だけは何とか助けなければ・・・ああ、死にたくない・・・。」
その先に強固そうな野戦陣地、砦、さらに堅固な城が控えているのに、後続の部隊がないということが原因だった。本隊が、傭兵天下無双の軍の壊滅した戦いでの敗北後、態勢を立て直して攻勢に出たが、それも二度、それが大敗を期したからで、兵力が回せなくなったことである。兵力不足なのだ。
さらに、寄合所帯の連合軍である、敗北続きでシュン王国以外の諸国の大半が及び腰、士気は低下、略奪もままならぬ傭兵たちの不満・・・そのため兵力の実数以上に兵力、動く兵力という意味で、不足しているということである。
さらに、本隊に従軍している聖女の疲労が大きいことも問題だった。全力で聖女としての力を行使しても、聖結界は通用することなく、魔王、女魔王に大暴れされ、加護による銃砲弾、矢の威力は高まったものの、リツシユン王国国王親衛隊の銃砲弾や矢の威力に威力にはるかに劣り、完全に撃ち負けていたからである。そのことで、精神的にショックを受けていたからである。それもあって、必死に聖女としての力を強めて、より聖結界に、加護に力を注ぎ込んだ。それがさらに心身に負担をかける悪循環をさせてしまっていたのだ。シュン王国としては、他国の担当である聖女のことには気を使わざるを得なかった。
それでも、第三王子の軍には多少の増援もあっただけましだった。第一王子の軍は、兵力を引き抜かれていたからである。
「あなた方までいなくなっては・・・。反撃されたら持ちこたえられないかも・・・。どうか、考え直して。」
「お、お嬢様・・・。父上様からの命令では・・・どうしようもないのです。」
「そ、そんな・・・。」
絶句するトオシ大公妃、エイリ、つまり第一王子妃であり、自分の主の長女に申し訳ないという表情をしながらも、彼女の領地の騎士団長は、歴戦の、盛りは過ぎているものの、まだまだ現役で奮闘できる、実際に奮闘している、やや禿てはきた栗色の髪の、かつては女達を魅力していた面影のある凛々しく逞しい、父が娘のためにと、特別に配属した、その場を立ち去った。その日の内には、その配下の騎士隊、歩兵隊を率いて第一王子の軍から去っていった。ただ、病気や怪我で動けない兵士達を、回復するまでは置いておいてほしいと残していった。もちろん、本当に動けない者達もいたが、軽傷で戦闘力の有る者、それどころか、小さな傷、ほんの小さな傷を理由に残った騎士、歩兵達もいた。可能な限り、僅かでも戦力を残しておこうという、彼の配慮であり、彼女の父の意志でもあった。王太子に、何とか黙認してもらえる、可能な限りの配慮だった。彼女の領地の騎士達である。彼女の意志が、命令が絶対であるはずではあるが、元々は娘の結婚での持参金、生活費として父が与えた領地であるから、彼女の父親の意志こそが、その地の家臣達にとっては優先されなければならないのである。
彼女は夫についてきた。甲斐甲斐しく武装していだが、それだけでは足手まといにしか過ぎない。彼女の護衛や侍女だけでなく、自分の領地から無理のない程度に騎士、兵士を動員してきたのである。総計100名程度ではあったが、夫を守る親衛隊を補強するということでは意味が十分あった。それが、今では10人に満たなくなってしまった。そして、彼らには、いよいよとなったら彼女をつれて、無理やりにでも、第一王子の軍から離脱することも任務とされていたのである。
残った者達に、特に十分に動けない騎士達に、声をかけて、励まし、今後のことを頼んだ後、悄然として自分達の天幕に戻ったエイリを迎えたのは、マキイアだった。彼女の方も同様だったのだ。
二人の女は大きなため息をついた。
シュン王国軍の部隊だけでなく、他国の部隊もかなり引き抜かれた。総大将である王太子、第二王子からの命令である。二人の騎士達が去ったのは、本軍に合流するためであるが、王太子からの命令はない。そもそも、流石に命令することはできなかった。建前上、彼女らの兵である。形の上では、彼女らの父親が勝手にやったことである。しかし、王太子の意志を反映したものであることは確実だった。
その上で、この地の要路の砦の早期攻略を命じてきていたのだ。陽動のためだという。
いくつかの小さな砦は落としたものの、砦というより城に近いその砦を落とすことは、兵力も武器弾薬も不足していたのに、兵も武器弾薬も引き抜かれ、その上で・・・。他国の部隊は、既にやる気は失せている。それでも、カサギはやらざるを得なかった。
「何とか言い訳の立つ、戦をして・・・二人だけは何とか助けなければ・・・ああ、死にたくない・・・。」
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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