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支払いを済ませた後、
カラスは親子丼を持ち、残りのお菓子をツバメに持たせた。
ツバメはこちらも気になるようで、袋の中をじっと見た後、
「この中だとどれがおいしいんですか?」
「んー、全部、かな?」
「全部・・・」
うっとり眺める少年に、思わず笑みが浮かぶ。
「私は特にこれが好き」
そう言って1つを取り出した。
カラスが選んだそれは、昔からある駄菓子だ。
「小さい頃よく食べてて・・・懐かしい」
柔らかく、コロコロとしたそれは、食べると優しい甘さで、
鳥にもよくやっていた覚えがある。
「ご飯の後に食べようね」
「はい!あ、先生、こっちはなんですか?」
ツバメにお菓子を紹介しながら歩いていると、見知った顔がこちらに近づいてきた。
「鳥本君・・・帰省するよう言ったはずだけど」
「こんな時に帰るなんてできませんよ!先生、こういう時こそ、俺たちの研究が役に立つんじゃないですか?」
研究生である鳥本達には、帰省をするよう伝えていた。
帰っていない所を見ると、独自で調査をしているのだろう。
相変わらず熱心な子だ。
「ええ、そうね。だから他の先生達も協力して、政府に情報提供を・・・」
「俺にも手伝わせて下さい」
「・・・駄目な理由は話したはずだけど?」
「じゃあこの人達は何なんですか?」
鳥本はそう返すと、2人を見た。
「違います。彼らは大学前で被害にあっていたので、こちらで保護し、話を聞いていただけです」
「・・・そうですか」
カラスとツバメは頭を下げる。口を開くことはしない2人に、鳥本は構わず話しかける。
「どんな鳥に襲われたんですか?」
「さあ・・・突然のことでしたし、あまり詳しくないもので」
サラリとかわしたカラスに、鳥本は食い下がろうとするが、
「すいません、少し具合が悪くて・・・」
そう言って傷を抑えるような真似をしたので、それ以上追求することはしなかった。
「その熱意は今回の件が終わったら発揮してもらいます。皆が安心して戻ってこられるように、この件には全力で対処しています」
鳥本の顔が歪んだ。
「対処・・・まさか先生、彼らを処分するわけじゃあないですよね?」
「・・・こちらを害するなら、それも仕方ありません」
「自業自得ですよ。今まで人間は、彼らを蔑ろにしてきた。鳥頭だなんだと馬鹿にして、住処を奪い、乱獲し、数を減らし続けてきた。人間のせいでどれだけの種が滅んだか」
「だから人を襲っても良いと?」
そう言って私達の間に割って入り、鳥本を見据えたのは、学部長だった。
突然現れた上司に驚いたが、正直ありがたかった。
私では彼の説得は難しい。
案の定、鳥本はうろたえ、反論できずにいる。
そんな彼を、まるで新しいサンプルを観察する様に見つめた後、
「・・・もう帰りなさい。親御さんも心配しているでしょう」
学部長の口調は穏やかだが、それには有無を言わせない迫力があった。
それに気圧され、鳥本は悔しそうに顔を歪めた後、わかりました、と返事をする。
けれどまだ納得していない表情で、私を見据えた。
「・・・俺は間違っていない」
そう言い残すと、足早に階段を降りていった。
「すいません。助かりました」
「いえいえ、これくらいは」
学部長は人好きのする笑顔で労わった後、その笑顔のまま、
「進捗はどうですか?」
と声を落として聞いてきた。
「仮説は立てました。これから研究を重ね、精度を上げていくつもりです」
「・・・さすがですね。やはりあなたを推して正解でした」
満足そうに頷くと、学部長はカラスを見た。
「・・・お久し振りです。その節はどうも」
頭を下げたカラスに、学部長も会釈をする。
「いえ、ご協力感謝します。・・・そちらの少年も?」
「ええ、新しい協力者です」
挨拶を、とでも言うように、カラスはツバメに視線を送る。
ツバメは戸惑いながら私を見た。
素性のわからない相手にどう対応すればいいかわからないようだ。
私は、学部長とは私が所属する学部の最高責任者であること、
またカラスに私を紹介してくれた人であることを説明した。
そこまで聞いて、ツバメは安心したように名乗り、続けて学部長に聞いた。
「さっきの人ですけど・・・協力してもらわないんですか?」
学部長は少し唸って見せた後、
「正直人手は欲しいんだがね・・・学生達には、彼のような考えの子が多い。生き物が好きでここにいるのだから、当然と言えば当然なんだが・・・今回の件に関しては、人間側に立って考えることができる人材でなければ、危なっかしくて任せられない。もちろん、そういう子ばかりではないが、贔屓は良くないからね・・・学生には皆家に帰ってもらっているんだ」
学部長はそこで話を切ったが、理由はもう一つある。
少し前、学部内で盗難事件が起きた。
部屋が荒らされ、研究データやサンプルが無くなっていたのだ。
当然大問題となったが、その後間もなく今回の件が発生。
それどころでは無くなった為、現在は保留となっている。
ただ状況から見て、内部犯の可能性が高い。
なので現在、私達は極力自分以外の人間を部屋にいれないようにしている。
「そういうわけで、人手が無い分、君達には負担がかかると思うが、何か助けになれるようなことがあれば、遠慮なく言って欲しい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
私に倣ってお礼を言ったツバメに学部長は微笑み、そしてカラスを見てその笑みを深くする。
「・・・折角だ、人間の生活も楽しみなさい」
「は、はい!」
「・・・そうさせてもらいます」
学部長は2人の反応に満足そうにすると、
それでは、と自分の部屋へ帰って行った。
「良い人でしたね!」
「・・・そう見えるかい?」
首を傾げた私にカラスは苦笑を返す。
「ああ、すいません。・・・正直、ああいうタイプの人間が苦手で。表向きは善良な風に見えますが、何か底知れない感じがして」
同属嫌悪、という言葉が頭に浮かんだ。
もちろん、そう思うだけで言ったりはしないが。
「そうですか?気が合うと思いますよ?」
2人はとてもよく似ていますから!
ニッコリ笑ったツバメには、少し本音と建前というものを教えた方が良いかもしれない。
カラスは一瞬だけ眉を寄せた後、ニッコリ笑って、ツバメが持っていた袋を奪い取った。
「・・・君はもっと人間について勉強した方がいい」
そう言い残すと、足早に去っていく。
ツバメはポカンとしていたが、すぐに慌てて後を追う。
全部食べられてしまうと思ったのか、必死に謝りながら取り返そうとするが、
カラスはツバメが届かない高さまで手を挙げてそれを邪魔する。
そんな彼らの姿に思わず笑みを浮かべながら、私も2人の後を追った。
カラスは親子丼を持ち、残りのお菓子をツバメに持たせた。
ツバメはこちらも気になるようで、袋の中をじっと見た後、
「この中だとどれがおいしいんですか?」
「んー、全部、かな?」
「全部・・・」
うっとり眺める少年に、思わず笑みが浮かぶ。
「私は特にこれが好き」
そう言って1つを取り出した。
カラスが選んだそれは、昔からある駄菓子だ。
「小さい頃よく食べてて・・・懐かしい」
柔らかく、コロコロとしたそれは、食べると優しい甘さで、
鳥にもよくやっていた覚えがある。
「ご飯の後に食べようね」
「はい!あ、先生、こっちはなんですか?」
ツバメにお菓子を紹介しながら歩いていると、見知った顔がこちらに近づいてきた。
「鳥本君・・・帰省するよう言ったはずだけど」
「こんな時に帰るなんてできませんよ!先生、こういう時こそ、俺たちの研究が役に立つんじゃないですか?」
研究生である鳥本達には、帰省をするよう伝えていた。
帰っていない所を見ると、独自で調査をしているのだろう。
相変わらず熱心な子だ。
「ええ、そうね。だから他の先生達も協力して、政府に情報提供を・・・」
「俺にも手伝わせて下さい」
「・・・駄目な理由は話したはずだけど?」
「じゃあこの人達は何なんですか?」
鳥本はそう返すと、2人を見た。
「違います。彼らは大学前で被害にあっていたので、こちらで保護し、話を聞いていただけです」
「・・・そうですか」
カラスとツバメは頭を下げる。口を開くことはしない2人に、鳥本は構わず話しかける。
「どんな鳥に襲われたんですか?」
「さあ・・・突然のことでしたし、あまり詳しくないもので」
サラリとかわしたカラスに、鳥本は食い下がろうとするが、
「すいません、少し具合が悪くて・・・」
そう言って傷を抑えるような真似をしたので、それ以上追求することはしなかった。
「その熱意は今回の件が終わったら発揮してもらいます。皆が安心して戻ってこられるように、この件には全力で対処しています」
鳥本の顔が歪んだ。
「対処・・・まさか先生、彼らを処分するわけじゃあないですよね?」
「・・・こちらを害するなら、それも仕方ありません」
「自業自得ですよ。今まで人間は、彼らを蔑ろにしてきた。鳥頭だなんだと馬鹿にして、住処を奪い、乱獲し、数を減らし続けてきた。人間のせいでどれだけの種が滅んだか」
「だから人を襲っても良いと?」
そう言って私達の間に割って入り、鳥本を見据えたのは、学部長だった。
突然現れた上司に驚いたが、正直ありがたかった。
私では彼の説得は難しい。
案の定、鳥本はうろたえ、反論できずにいる。
そんな彼を、まるで新しいサンプルを観察する様に見つめた後、
「・・・もう帰りなさい。親御さんも心配しているでしょう」
学部長の口調は穏やかだが、それには有無を言わせない迫力があった。
それに気圧され、鳥本は悔しそうに顔を歪めた後、わかりました、と返事をする。
けれどまだ納得していない表情で、私を見据えた。
「・・・俺は間違っていない」
そう言い残すと、足早に階段を降りていった。
「すいません。助かりました」
「いえいえ、これくらいは」
学部長は人好きのする笑顔で労わった後、その笑顔のまま、
「進捗はどうですか?」
と声を落として聞いてきた。
「仮説は立てました。これから研究を重ね、精度を上げていくつもりです」
「・・・さすがですね。やはりあなたを推して正解でした」
満足そうに頷くと、学部長はカラスを見た。
「・・・お久し振りです。その節はどうも」
頭を下げたカラスに、学部長も会釈をする。
「いえ、ご協力感謝します。・・・そちらの少年も?」
「ええ、新しい協力者です」
挨拶を、とでも言うように、カラスはツバメに視線を送る。
ツバメは戸惑いながら私を見た。
素性のわからない相手にどう対応すればいいかわからないようだ。
私は、学部長とは私が所属する学部の最高責任者であること、
またカラスに私を紹介してくれた人であることを説明した。
そこまで聞いて、ツバメは安心したように名乗り、続けて学部長に聞いた。
「さっきの人ですけど・・・協力してもらわないんですか?」
学部長は少し唸って見せた後、
「正直人手は欲しいんだがね・・・学生達には、彼のような考えの子が多い。生き物が好きでここにいるのだから、当然と言えば当然なんだが・・・今回の件に関しては、人間側に立って考えることができる人材でなければ、危なっかしくて任せられない。もちろん、そういう子ばかりではないが、贔屓は良くないからね・・・学生には皆家に帰ってもらっているんだ」
学部長はそこで話を切ったが、理由はもう一つある。
少し前、学部内で盗難事件が起きた。
部屋が荒らされ、研究データやサンプルが無くなっていたのだ。
当然大問題となったが、その後間もなく今回の件が発生。
それどころでは無くなった為、現在は保留となっている。
ただ状況から見て、内部犯の可能性が高い。
なので現在、私達は極力自分以外の人間を部屋にいれないようにしている。
「そういうわけで、人手が無い分、君達には負担がかかると思うが、何か助けになれるようなことがあれば、遠慮なく言って欲しい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
私に倣ってお礼を言ったツバメに学部長は微笑み、そしてカラスを見てその笑みを深くする。
「・・・折角だ、人間の生活も楽しみなさい」
「は、はい!」
「・・・そうさせてもらいます」
学部長は2人の反応に満足そうにすると、
それでは、と自分の部屋へ帰って行った。
「良い人でしたね!」
「・・・そう見えるかい?」
首を傾げた私にカラスは苦笑を返す。
「ああ、すいません。・・・正直、ああいうタイプの人間が苦手で。表向きは善良な風に見えますが、何か底知れない感じがして」
同属嫌悪、という言葉が頭に浮かんだ。
もちろん、そう思うだけで言ったりはしないが。
「そうですか?気が合うと思いますよ?」
2人はとてもよく似ていますから!
ニッコリ笑ったツバメには、少し本音と建前というものを教えた方が良いかもしれない。
カラスは一瞬だけ眉を寄せた後、ニッコリ笑って、ツバメが持っていた袋を奪い取った。
「・・・君はもっと人間について勉強した方がいい」
そう言い残すと、足早に去っていく。
ツバメはポカンとしていたが、すぐに慌てて後を追う。
全部食べられてしまうと思ったのか、必死に謝りながら取り返そうとするが、
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