Birds

遠野

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なんとかカラスから昼食を取り戻したツバメは、
研究室に戻ると、すぐに椅子に座った。
そしてうずうずしながらこちらを窺っているので、
私も早く座る。
袋から取り出し、蓋を開ける動作を、少年は真似していく。
そうして2人手を合わせて、
「いただきます」
「いただきます!」
スプーンからこぼれそうな程すくって、大きく口を開けて食べる。
もぐもぐ口を動かす内に、その瞳がキラキラと輝き始める。
そして飲み込むと、どんどん口に詰め込み始めた。

夢中で食べ続ける姿に、おいしいのだろうなと思うと同時に、
なんとも複雑な気持ちになる。
「鳥、という括りになっていますが、私達は千差万別ですからね。同族・仲間という考えが無いのですよ」
こちらの考えを読んだかのように、カラスは言った。
「・・・人が鳥を食べるのと、変わりないということでしょうか」
「そういうことになります」
「では・・・そこが弱点になりえますね」
カラスはニヤリと笑ってみせる。
「ええ。今は結束していても、所詮彼らは、自分の種、更に言えば自身の遺伝子を残す事を第一に考えています。仮に人を排除したとして、他の種が自分達を脅かす存在だとわかれば容赦はしない。待っているのは今以上の弱肉強食、混沌でしょう。私達カラスにとって、それは何の利益もない。言い方は悪いですが、人を利用し、共存していく方が、安定して子孫を残せるのです。そのことを吹聴し、力を削ごうとしているのですが・・・今の所効果は薄いですね」
報告にあった、襲ってきた鳥達の名前を思い出す。
どれも、近年人に害されている種と一致していた。
「そうやって共存できる鳥がいる一方で、人によって数が減少している種がいるのも事実です。彼らを説得するのは難しいと思います。」
「では、滅ぶだけだ」
なんでもないようにカラスは言う。その目は変わらず凪いでいて、私を見つめる。
少しの間そうした後、彼は口を開いた。
「・・・失礼。気を悪くしないで下さい。確かに人の手によって減少、絶滅した種もいるでしょう。だがそれは、それに対抗できなかった彼らにも非はある。強く、環境に適応できるものだけが生き残り、弱い者は淘汰される。それが自然の摂理です。」
「・・・人にとっては、今でしょうか」
「お互いそうならないよう、力を尽くしましょう」
カラスは手馴れた様子で箸を動かし、お茶を飲む。
その仕草は人間そのもの。
けれどその姿は、戦闘では一変することを知っている。
厳しい生存競争の中で培われた身体能力と残忍性。
自然界においてそれは絶対に必要なもので、そうでない者は消えるのが当然。
頭ではわかっているが。
「・・・そうですね。人も、そうやって生き残り、繁栄してきた。ええ・・・わかってはいるんです。私の考えが、ただのエゴだということを。でも私は、鳥が好きなんです。大空を彩り自由に飛び回る姿は、幼い頃からの憧れでした。そんな彼らを、もっと知りたい。少しでも多くの種を、残していきたい。そしてまだ見たことのない鳥達を、この目で見てみたいんです」
そう言い終わって2人を見ると、
カラスはこちらを見てニッコリとし、ツバメは頬を染めて嬉しそうにしていた。
鳥、イコール自分達が好きだと、憧れだと、告白の様なことを言ってしまったことに気付いて、
恥ずかしくて顔に熱が集まっていくのがよくわかった。
「ありがとうございます・・・」
「いやいや!なんかごめんね!急に語っちゃって・・・」
はにかむツバメに、赤くなりながら謝ると、
少年は俯きがちに聞いてきた。
「・・・あの、先生、ちなみに・・・一番好きな鳥って何ですか?」
「え!?」
思わず声を上げて驚くと、カラスが笑った。
「それは興味深い。私も知りたいですね」
明らかに私の反応を面白がっている顔だ。
対してツバメは真剣に、けれど期待に満ちた目でこちらを見つめている。
4つの瞳に見つめられ、私はなんとか搾り出す。
「・・・多すぎて、一番は決められません」
けれど、
「・・・その中に、ちゃんと、御二人は、入っていますので・・・」
「・・・ありがとうございます」
予想に反して、カラスは本当に嬉しそうに微笑んでいた。
「僕も!嬉しいです!」
ツバメもニコニコと笑っている。
そんな2人の様子に、さっきまでの恥ずかしさは消えて、
暖かな気持ちが心に広がる。
まだ熱さが抜け切らない顔で、私は2人に笑い返した。
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