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2.ニセ嫁修行、始めました。
1
「立ち姿がなっておりません!」
びしっ。
「歩く姿はもっとエレガントに!」
びしっ。
「仮にも一矢様の嫁になろうともお方が、その様な事では困りますよ!!」
びしーっっ。
ここは一矢家。結婚(ニセの契約婚だけど)をすると本家に一矢が堂々宣言したため、私の紹介・お披露目を大々的に婚約披露パーティーという名目で、どこかのホテルを貸し切り、約一か月後に開催する事が決まってしまった。翌日から早速私は、花嫁修業ならぬニセ嫁修行をさせられる事になった。高級ドレスを一枚も持っていない上、マナーや作法も知らない私に、一矢のお付きの中松がビシバシ特訓を付けてくれているところ。
ちなみに、びしっ、という効果音は私の心が中松のムチで叩かれている音よ。
中松はめちゃくちゃ厳しいのよ――っ!
平民が上流階級のお方と結ばれるには、育ちが違いすぎてなんか早くも挫けそうで色々無理ざまーす。
中松は一矢と同じく美しい容姿で、黙っていたらイケメン執事みたいに見える。どこぞの執事カフェやバーなんかにいそうで、執事の仕事を何でもできちゃう強者。
中松は一矢家に仕えているから、かなりの短髪黒髪を何時もきちんとセットしていて、高身長に鋭い目つきで醸し出すオーラが怖い。私と一矢の丁度十歳上で、私達が九歳の時に彼を拾ったのが出会い。中松は、三成本家の門外辺りで、ボロ雑巾のようになって倒れていたの。可哀想だから助けてあげて、って私が一矢に頼んで一緒に助けたのがきっかけ。
聞く所によれば何でも『シマ』を追われて『コウソウ』に巻き込まれたのだとか。彼の経歴はよく解らないけれど、とにかく強くて頼もしく、そして鬼の様に厳しい。
『シマ』を追われて――というのは、鬼ヶ島のことだったんじゃないかな。彼はきっと、鬼ヶ島出身なのだ。今日改めて思う。
「いいですか、伊織様、貴女が勝手に恥をかくのは構いません。しかし、一矢様に恥をかかせたとあれば、俺は貴女を赦しませんよ」
ひいいいー。やっぱり中松怖いー。鬼だあー。鬼ヶ島出身って、戸籍謄本に乗せておいてよー!
「さあ、もう一度線を踏み外さないように歩いて下さい」
えー、まだやるのおー?
「顔! 貧相な顔がたるんでおります! もう少し精鋭な顔つきはできませんか!?」
貧相で悪かったな!
思わず中松を睨んだ。
「できるじゃありませんか。さっきより随分マシなお顔になられましたよ。さ、もう一回」
パンパンと手を叩いて修行の続きを促し、中松が笑った。目がちっとも笑っていない、ブリザード笑顔で。
「中松ってさあ」私は貼られた白いテープの上を、お腹に力を入れながら歩いた。「私の事嫌いでしょ」
「伊織様が、もう少し上品な方なら良かったのですが」
中松は顔色ひとつ変えずに、好きとも嫌いとも言わずにそう述べた。
悔しい――! 腹が立つけど中松の言う事はもっともで、付け焼刃でもきちんとしたことができなきゃ、一矢に恥をかかせることになってしまう。
幾らニセだからって、ちゃんとしなきゃ。わかってはいるけど、やった事がないから失敗ばかり。だから、ニセ嫁修行というワケ。
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