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3.お帰りのキスを強要する旦那様(ニセ)。
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しおりを挟む「脇が開きすぎで、きちんとした美しい姿勢が保てておりません。外側からナイフやフォークをお取りになったのは結構でございますが、その後が全くスマートではありません。『おいし―』等のお言葉は、もっての外でございます。言葉遣いもさながら、だらしなく開いた口元も減点対象でございますよ。いい所を探す方が難しいです」
さっきクソって言ったから、根に持って必要以上に厳しくしているのね!
鬼!
悪魔!!
「でも、おかしくない? マナーマナーって言うけど、こんなにかしこまって上品に食べて、味が劇的に変わるとでもいうならともかく、何が偉いの? 確かにマナー悪いのは良くないと思うし、これについては修業して頑張って直すけどさ、料理って単純に『美味しい』って味わって食べるのが一番大切なんじゃない? 私にとったらこんな風に凝り固まって食べるの、もっての外でござーますわよ。おいしーものをおいしーって言って、何が悪いの?」
不貞腐れた顔を見せ、思わず反論してしまった。
「あっはっは、伊織らしいな。まあ、お前の言う事も一理ある。だが、中松の言う事も解ってやってくれ。来月はお前の披露パーティーを開催するのだ。そこでは『伊織流』にはできない。礼儀作法を問われてしまうからな。私にも立場というものがある。それを解ってくれないか。伊織には荷が重いし、大変だという事は承知の上だ。しかしその上でこの話を持ち掛けたのだ。上手くやって貰わないと私が困る」
私を窘(たしな)めるように一矢が言った。まあ、一矢を困らせたくないから、中松の言う事を聞き入れるしかないわね。
「見本を見せてやる。よく見ていろ」
水が流れるかのように美しい所業に見惚れた。ナイフ使い、フォークを刺して口元に運ぶその姿。美しい以外、何と表現すればいいのだろう。
「お前もやってみろ」
そうよ。ニセとはいえ、大事な一矢のお嫁さんの役なんだから、私のガサつ加減で一矢の面子を台無しにしちゃいけない。大好きな一矢の為に、頑張らなきゃ。
見よう見まねで一矢のイメージを思い浮かべながら、上品に食べた。
「見違えたな。やればできるじゃないか。なあ、中松」
「左様でございますね。伊織様、その調子でございます」
一矢に続いて中松まで褒めてくれた。良かった。この調子で頑張ろう。
しかしまだまだ、ニセ嫁(令嬢)になる為の厳しい修業は続く――
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