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5.旦那様(ニセ)は、ニセ嫁の水着を選ぶのにVIPルームを利用致します。

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 一矢の宣言通り、あれから銀座のデパートで買い物をすることになった。
 自慢じゃないが、私は銀座のデパートなんか来た事が無い。せいぜい渋谷の109止まりで、デパートで買ったというワンピースも、もう少しお値段が安いデパートのものだ。こんなところでホイホイ買い物をしてしまう三成家にとって、私の一張羅もどきのワンピースなんか、古着のボロ以下だろう。


         ・・・・・・・・
 そりゃあ、鬼松が私の貧相な召し物を取り上げるのも納得だ。



 圧倒的な存在感を放つビル群。迷いもせず高級デパートの入り口に車を付け、さも当然のように迎え入れられ、庶民は一生無縁のお金持ち専用VIPルームに通された。サロンではなく、完全個室だった。百貨店にこんなところがあるなんて、生まれて初めて知った。

 現在このデパートでは催事が行われていて、水着や浴衣を展示・販売しているようだ。入口に大きく書いてあったのを見たので、それを知った。タイミングがよかったのだろうか、山のような在庫がVIPルームに並べられていた。

「一矢様、何時も当店をご愛顧頂き、誠にありがとうございます。お申しつけ頂いた商品でございますが、あちらに用意ができておりますので、どうぞごゆっくりご覧下さいませ。ご試着もできるようになってございますので、私共にお申し付けを」

「ああ、ありがとう。紹介が遅れた。えー・・・・」ゴホン、と咳ばらいをして、一矢が私をデパートの支配人と思しき男性に紹介してくれた。「私の妻になる女性だ」

「初めまして」絵にかいた様にきちんとポマードで頭を整え、バッチリスーツを着こなした年配の支配人にお辞儀した。「緑竹伊織と申します。よろしくお願いいたします」

「なんと愛らしい奥様! どちらのご令嬢様ですか」支配人が目を輝かせた。

「令嬢に見えるか?」

「はい、それはもう」


「――だそうだ。良かったな、伊織」


 いやそれ、ただ単に『見えない』なんて仮にもVIP顧客相手に、百貨店の支店長が失礼ブッこけないだけじゃないの?
 付け焼刃感満載だと自分では思うんだけど。それ、ツッこめないだけよ。
 まあ悲観せずにとりあえず実践も積まなきゃ。鬼松も目を光らせているし、私に自由はない。この立ち振る舞い・行動の全てがニセ嫁修業に繋がっているのだ。


「支配人、伊織は私にとって大事な女性なのだ。余計な事は詮索するな。それより、用意した商品を見せて貰うとしよう」


 早速一矢と鬼松が着用する肝心の私を放置し、VIPルームの真ん中の高級そうなテーブルに並べられた水着を吟味し始めた。
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