72 / 113
10.ニセ嫁、披露パーティーで何やらひと悶着ありそうな予感がいたします。
1
しおりを挟む
残暑厳しい暑さがまだ身に応える季節。遂にこの日がやって来た。ニセ嫁とニセ夫のニセ婚約披露パーティーが開催される当日なのだ。
今日は土曜日。一週間の中で一番忙しいのに、グリーンバンブーは臨時休業にしてもらった。家族は婚約披露パーティーに全員出席してもらうように段取りがしてある。
婚約が決まってからは、常連様や事情を知らない従業員に惜しまれつつ、今日まで過ごしてきた。中には花やお祝いを持ってきてくれる常連様もいて、本当に申し訳ない気分でいっぱいになった。ほとぼりが冷めたら、離縁するのに。
胸を痛めつつも優しい常連のみんなの言葉には真摯に向き合い、精いっぱいの笑顔でお礼を伝えた。
そんな私は今日、盛大で晴れやかな舞台に立つ。
私も一矢と同様、他の人は信用できない。何時、どんな意地悪をされるか解らないから、少々具合悪くて嫌味を言われても、用意からセットまで、全て中松にお願いする事にした。
流石に男なので着替え中は退出するようにお願いした。
中松だけでは大変なので、妹の美緒にも頼んで彼女にだけはここに来るように頼んで、中松と一緒に手伝って貰った。
厳しい修業に耐え抜き、付け焼刃ではあるけれど、着飾ればそれなりの令嬢に変身することができた。
「お姉ちゃん凄い・・・・! 綺麗・・・・お姉ちゃんじゃないみたい!」
「見違えましたね、伊織様。麗しゅうございますよ」
聞いた、今の!
『麗しゅうございますよ』ですってよ!
ニセ嫁始めた頃の、鬼にコテンパンに痛めつけられていたあの日の私に聞かせてやりたいわ!
土下座希望だったけれど、まあ、悪くないわね。
「今回は、三条家の時と違います。伊織様、くれぐれもお気をつけ下さい」
中松がおもむろにメモを取り出し、さらさらと達筆な字で指示を書いた。
――今から大切な事をお伝え致します。盗聴されている可能性も考えて、筆談に致します。
驚いて中松を見た。この男は、ありとあらゆる可能性を考え、私に危険が及ばないように配慮してくれているのね。
「それから、くれぐれも阻喪がないように」
「はい。解っているわ」
この会話を一矢の足をひっぱる何者かに盗聴されているかもしれないので、相手にそれを悟らせない様に会話を続けながら、中松が更にメモにペンを走らせた。私がニセ嫁とか、絶対に外部の人間に悟られる訳にはいかないからね。
「アクセサリーはこちらを用意しました。本日のドレスに合う大きなもので御座います。美しい伊織様によく似合うと思います」
渡されたものは、大きなダイヤの花柄、中央にブラックパールが付いた、見るからに高そうなイヤリングだった。
今日は土曜日。一週間の中で一番忙しいのに、グリーンバンブーは臨時休業にしてもらった。家族は婚約披露パーティーに全員出席してもらうように段取りがしてある。
婚約が決まってからは、常連様や事情を知らない従業員に惜しまれつつ、今日まで過ごしてきた。中には花やお祝いを持ってきてくれる常連様もいて、本当に申し訳ない気分でいっぱいになった。ほとぼりが冷めたら、離縁するのに。
胸を痛めつつも優しい常連のみんなの言葉には真摯に向き合い、精いっぱいの笑顔でお礼を伝えた。
そんな私は今日、盛大で晴れやかな舞台に立つ。
私も一矢と同様、他の人は信用できない。何時、どんな意地悪をされるか解らないから、少々具合悪くて嫌味を言われても、用意からセットまで、全て中松にお願いする事にした。
流石に男なので着替え中は退出するようにお願いした。
中松だけでは大変なので、妹の美緒にも頼んで彼女にだけはここに来るように頼んで、中松と一緒に手伝って貰った。
厳しい修業に耐え抜き、付け焼刃ではあるけれど、着飾ればそれなりの令嬢に変身することができた。
「お姉ちゃん凄い・・・・! 綺麗・・・・お姉ちゃんじゃないみたい!」
「見違えましたね、伊織様。麗しゅうございますよ」
聞いた、今の!
『麗しゅうございますよ』ですってよ!
ニセ嫁始めた頃の、鬼にコテンパンに痛めつけられていたあの日の私に聞かせてやりたいわ!
土下座希望だったけれど、まあ、悪くないわね。
「今回は、三条家の時と違います。伊織様、くれぐれもお気をつけ下さい」
中松がおもむろにメモを取り出し、さらさらと達筆な字で指示を書いた。
――今から大切な事をお伝え致します。盗聴されている可能性も考えて、筆談に致します。
驚いて中松を見た。この男は、ありとあらゆる可能性を考え、私に危険が及ばないように配慮してくれているのね。
「それから、くれぐれも阻喪がないように」
「はい。解っているわ」
この会話を一矢の足をひっぱる何者かに盗聴されているかもしれないので、相手にそれを悟らせない様に会話を続けながら、中松が更にメモにペンを走らせた。私がニセ嫁とか、絶対に外部の人間に悟られる訳にはいかないからね。
「アクセサリーはこちらを用意しました。本日のドレスに合う大きなもので御座います。美しい伊織様によく似合うと思います」
渡されたものは、大きなダイヤの花柄、中央にブラックパールが付いた、見るからに高そうなイヤリングだった。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる