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11.ニセ嫁の大ピンチに駆けつける執事が、実は本物の鬼だった件。
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「もう、その七面倒で他人みたいな喋り方、止めれば? いいよもう、私の前は敬語なんか使わなくても」
「そうですか。それでは遠慮なく」
中松の目つきが変わった。何時もみたいに目の奥が笑っていない仮面みたいな顔じゃなくて、ちょっと、なんというか、ほんの少しだけ砕けた素の雰囲気になった。
「中松はどうしてそんなに一矢に忠誠を誓っているの?」
一矢には、忠犬中松だもんね。
「一矢様は、こんな社会のゴミみたいな俺を拾って下さったんだよ。衣食住も与えてくれて、仕事も与えてくれた。十分忠誠を誓うに値する。それに、お前も」
わっ。中松が脱皮して羊じゃなくて、執事じゃなくなった。そうすればいいって言ったのは、私だけど。何か、変な感じ!
「伊織」
「は、はいっ」
まさかの呼び捨て! いや、この状態で『伊織様』とか言われたら逆に気持ち悪いけど。
「お前に、ずっと礼を言いたかった。執事の中松道弘じゃなく、一個人の中松道弘として、礼を言う」
「お礼?」
何かしたかしら?
「伊織が助けを呼んでくれた事だ。あの時は、俺を怖がらずに助けてくれてありがとう。伊織が助けを呼んでくれなきゃ、俺はあの時死んでいた。お前は、俺の命の恩人だ。だからお前が困ったら絶対に俺が助よう、お前が辛い時や苦しい時は、絶対に俺が解決してやる――そう心に決めて生きてきた。さっき言った事は嘘じゃない。俺を助けてくれた二人の為なら、この中松道弘、命を捨てる覚悟で――」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!」中松の言葉を遮った。「時代劇じゃあるまいし、簡単に命を投げ捨てないでよ。勿体ないでしょ」
「勿体ない・・・・」
私の返しが面白かったらしく、こんな時なのに笑ってすまない、と中松が笑いを堪えて言ってくれた。
ちょっ。激レア―!
鬼執事のちょい笑い、見ちゃったよー!!
何故かテンションが上がった。
「中松って、冷たい男だと思っていたけれど、胸の内はかなりあつーい男だったのね!」
冷血松じゃなくて熱血松だったのね。
「忠誠心が厚いと言ってくれ」
笑っている。あの、鬼松が普通に笑っている――
「貴方もそんな風に笑えるのね」
信じられない光景に、涙も引込んでしまった。
「普段は見せない。俺の素は、誰にも見せない。必要ないから」
「そうかしら。見せればいいと思う。私と一矢にだけは、見せればいいじゃない」
「調子に乗ってあまり踏み込むな」
「なんで? 素敵よ。素の中松。何時もの鬼みたいな顔よりずっといい」
「・・・・ありがとう」
初めて見る彼の優しい笑顔。中松ってこんな男だったんだ。何時も鬼みたいに怖いと思っていたけれど、それって自分の感情を押し殺して、ただ一矢の為に忠誠を誓い、生きるしかできなかったから。
この人も不器用なのね。一矢もそう。男ってみんな、不器用なんだ。
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