6 / 117
1.かなり斜め上から社長の告白(笑顔でお断り)
6
しおりを挟む
しかしスギウラを救ってくれた恩はある。ここは私が折れるしかないだろう。
長い物には巻かれろ――昔の人が作ったことわざというものは、実によくできていると思う。先人の教えというのは立派で間違いも無く、素晴らしい。
ため息を飲み込み、仕方なく社長室に戻った。不本意だが、こちらが侘びるしかない。一家心中せずに済んだのは、言う通り福士成彰(しゃちょう)のお陰なのだ。深呼吸をして心を落ち着かせ、お腹に力を入れて扉をノックした。「杉浦です」
『入れ』
社長の声がした。
侘びは手短に、一気に済ませた方がいいだろう。私は社長の下へヒールを鳴らしてツカツカと歩み寄り、先ほどの朝の挨拶と同じように斜め四十五度の角度でシャキっとお辞儀をした。
「先程の無礼な態度、大変申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます」
「何の事だ」
「父から連絡が入りました。社長に謝るように、と」
「ああ。別に謝って貰わなくていいんだ。俺は紗那に鋭く見つめて貰えるだけでいい」
キモ。
「では、お赦し頂けるという見解でよろしいですね?」
社長の気持ち悪い台詞は、全て受け流す事にしよう。
「勿論だ。今日の俺のスケジュール、午後七時以降、お前のスケジュールと共に空ける事は可能か?」
「はい、ただいま確認を致します」
スケジュール表を取り出し、確認した。暗記はしているが、念のため。
「午後からの社長のスケジュールです。午後一時より来客、その後社長室で業務に入って頂き、三時から移動、三時半より新商品の靴底の仕上がりを見にスギウラへ。更にその後午後六時より、問屋取引先の有限会社浅岡商店様、並びに藤並商会様との接待会食が予定されております。今日は絶対欠席できません。従って、調整は不可で御座います」
「なんでっ」
「私の受けている報告によりますと、浅岡商店様は、フクシの新商品を前回同様三千足ほどご発注予定でいらっしゃいます。目玉商品にして売り出し、様々な顧客様や小売業者に卸すつもりでお考えいただいております。藤並商会様も千足ほどのご注文を予定して頂いております。社長が会食をボイコットしたとなれば、新商品に確約されたも同然の四千足の受注がいただけない可能性が発生致します。死んでも会食に行って頂きます」
「・・・・死んだらもう、お前に会えなくなるじゃないか。そんなの嫌だ」
「私に会えなくなる事は、特に重要案件では無いと思いますが」
冷ややかに言った。
「いいっ。その冷徹な態度、たまらんっ」
くうーっ、と何かを噛みしめるように社長は端正な顔を台無しにしながら呟いている。
長い物には巻かれろ――昔の人が作ったことわざというものは、実によくできていると思う。先人の教えというのは立派で間違いも無く、素晴らしい。
ため息を飲み込み、仕方なく社長室に戻った。不本意だが、こちらが侘びるしかない。一家心中せずに済んだのは、言う通り福士成彰(しゃちょう)のお陰なのだ。深呼吸をして心を落ち着かせ、お腹に力を入れて扉をノックした。「杉浦です」
『入れ』
社長の声がした。
侘びは手短に、一気に済ませた方がいいだろう。私は社長の下へヒールを鳴らしてツカツカと歩み寄り、先ほどの朝の挨拶と同じように斜め四十五度の角度でシャキっとお辞儀をした。
「先程の無礼な態度、大変申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます」
「何の事だ」
「父から連絡が入りました。社長に謝るように、と」
「ああ。別に謝って貰わなくていいんだ。俺は紗那に鋭く見つめて貰えるだけでいい」
キモ。
「では、お赦し頂けるという見解でよろしいですね?」
社長の気持ち悪い台詞は、全て受け流す事にしよう。
「勿論だ。今日の俺のスケジュール、午後七時以降、お前のスケジュールと共に空ける事は可能か?」
「はい、ただいま確認を致します」
スケジュール表を取り出し、確認した。暗記はしているが、念のため。
「午後からの社長のスケジュールです。午後一時より来客、その後社長室で業務に入って頂き、三時から移動、三時半より新商品の靴底の仕上がりを見にスギウラへ。更にその後午後六時より、問屋取引先の有限会社浅岡商店様、並びに藤並商会様との接待会食が予定されております。今日は絶対欠席できません。従って、調整は不可で御座います」
「なんでっ」
「私の受けている報告によりますと、浅岡商店様は、フクシの新商品を前回同様三千足ほどご発注予定でいらっしゃいます。目玉商品にして売り出し、様々な顧客様や小売業者に卸すつもりでお考えいただいております。藤並商会様も千足ほどのご注文を予定して頂いております。社長が会食をボイコットしたとなれば、新商品に確約されたも同然の四千足の受注がいただけない可能性が発生致します。死んでも会食に行って頂きます」
「・・・・死んだらもう、お前に会えなくなるじゃないか。そんなの嫌だ」
「私に会えなくなる事は、特に重要案件では無いと思いますが」
冷ややかに言った。
「いいっ。その冷徹な態度、たまらんっ」
くうーっ、と何かを噛みしめるように社長は端正な顔を台無しにしながら呟いている。
1
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと?
そんな男、こっちから願い下げ!
——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ!
って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる