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スマイル20

商店街デート・4

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 商店街にやって来た。名前はセントラル商店街。
 小さな商店街だから、入口から出口まで、ちょっと歩いて買い物したら、すぐに終わる感じだ。入口から既に、もう向こうの先の方に出口が見えている。天井はアーケードになっていて、雨でもゆっくり買い物ができるようになっている。

 俺達がやって来た方の入口側から入ってすぐ、小さくて古いスーパー、金物屋、それから個人商店が二、三件並んでいる。もう少し進むと肉屋、魚屋、果物屋、花屋、八百屋などなど。まあ、ここで買い物すれば、一通り欲しいものは揃うようだ。
 ちなみに、コロッケ屋も通常営業している。今日はあの美味い、三個百円の激安コロッケ特売日では無いようだ。


「ねえ、王雅。今日の夜、何が食べたい? 何でも王雅の好きなもの、作ってあげる。お礼しろって言ってたでしょ。タダ働きのお礼よ」

「えっ、マジかよ!? 嬉しいな」

 ちょっ。なんつー嬉しい提案なんだ。
 俺が一番食いたいもの言ったら――マジで叶えてくれんのかな。聞いてみよ。

「王雅は何が好きなの? 食べるもの」

「お前」

「えっ?」

「だから、美羽、お前だよ。お前が食いた――・・・・」


 あっ、美羽のヤツ、メチャクチャ冷ややかな目で俺の事見てるっ。
 マズったか。

 
「じょ、冗談だよ。えーっと・・・・お前が作ってくれるんだったら、俺、何でもいい。別に好きなものとかねーし。何でも食うぜ」

「張り合いないわねー。何かあるでしょ? よく食べてるものとか、これだったら嬉しいなーっていうもの、無いの?」

「無い。お前が作ってくれるから、嬉しいんだ。ガキ共と一緒に食えるし、最高だな。俺、毎日お前の料理食いたい」


 俺は真剣に伝え、そして精一杯の笑顔を見せた。


「・・・・そんなの無理でしょ。王雅、仕事もあるんだし。どうやって一緒の時間に合わせて食べるのよ」

 無理なのか。そうか。そうなのか。遠回しのプロポーズとか、俺様の渾身の笑顔とか、お前には通じないのか。
 ちょっと、いや、かなりガッカリだ。
 SPの気配には気づくクセに、俺の気持ちは全部スルーかよ。クソッ。

 まあ、焦るな。デートはまだ始まったばかりだ。


 スーパーは最後に回るらしいから、先に夕飯のメインを何か買うということで、商店街の先へ進んだ。
 金物屋等を通り過ぎて、肉屋の前を通った。肉を見て、バーベキューをしたことを思い出した。

「そういえばこの前は楽しかったな、バーベキュー。あれ、またやりたいな」

 
「あ、そんなに楽しかったんだ。良かったわ、王雅の事誘って。最初は嫌がってるように見えたから、失敗しちゃったかなって思ったけど。じゃあ、また何かあるときは、王雅も誘うね」

 最初そう見えたのは、宿泊施設が散々な場所で初夜もおあずけになった上、お前がキスもさせてくんねーし、冷たくあしらうから、ガッカリ祭り真っ最中だったんだ。
 でも、ガックンのおかげで楽しくなったワケだ。
 ま、これは言わないでおいてやる。

「平日は基本的に仕事入れるつもりだから、何かやるなら、休み取ろうと思ってる土日で考えてくれよ。それに、これから土日は俺も施設泊まりするからな。足りないものは、二人で毎週買いに来ようぜ」

「わかった。いいわよ」


 おっ。何か、いい感じじゃね?
 ちょっと、恋人どうしっぽくね?

 しかも、何でも好きなもの作ってくれるって言ってくれたし!

 こっから先、腕とか組みたいんだけどな。ダメかな。聞いてみよ。


「なあ、美羽、俺と腕――」

「あっ、美羽ちゃん、おはよう! 今日も買い出し?」

 美羽に話しかけている最中に、ねじりはちまきがトレードマークの、魚屋のオヤジが親し気に声をかけてきた。美羽は、よくこの商店街で買い物するっつってるから、顔なじみなんだろう。

 気が付くと、魚屋の前だった。露店には、朝獲れの魚が色々並んでいる。魚の質は悪くない――いや、むしろ良い。新鮮で美味そうだ。

「おじさん、おはよう。ええ。今日も買い出しよ。何かいいお魚ある?」

「もういっぱい入ってるよ! まだ他にもあるから、これから並べていくけどね。あ、また帰りによってくれたら、余ってるアラあげるよ」

「ホント? おじさん、いつもありがとう!」


 美羽のコロッケスマイルが炸裂した。魚屋のオヤジから、何やら貰えるらしい。
 オヤジが羨ましくなった。いいな。俺にも笑ってくれねーかな。
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