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スマイル25

週末のビジネスマン・4

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 美羽の提案通り、ガックンとリカに挟まれて、美羽が作ってくれた飯を食った。
 相変わらず美味い飯だ。何食っても美味い。予想通り、ちゃんと俺の分も用意してくれていたしな。


 なあ、これってさ、もう俺等夫婦みたいじゃねーの?


 俺、ずっとここに帰って来ても、いーんじゃねーの?


 大人だけど、ここに居るガキ共と同じで、淋しい子供なんだ、俺。それじゃダメかな。施設に住まわせてくんねーかな。
 
 今日、思い切って話つけてやろうかな。

 結婚しようって言って、同意取って、今日から俺も、ここに住むんだ。
 そんでもって夜は――お泊り保育のリベンジだ!!
 初夜到来だっ!

 やり遂げろ、櫻井王雅!
 このミッションは、絶対に成功させるんだ!!

 でもっ、もしまだ俺の事信じてなくて、前みたいに断られたら――今みたいに、気軽に施設出入りできなくなるかもしんねーな。


 そーなったら、メチャクチャ気まずくなるだろーな。


 それはイヤだ。
 そう考えると、怖い。
 もの凄く怖い。


 俺様ともあろうものが、今、もの凄く恐怖を感じている。
 怖いと思って怖気づいたことなんて、今まで一度だってねーのに。


 ただ、今すぐ俺が美羽に話しつけると、どっちにしろこの小説は終わるな。
 ハッピーエンドで終わるか、バッドエンドで終わるか、どっちかわかんねーけど。

 美羽が俺と結婚してもいいっつったら、じゃあ今日から施設で幸せに暮らします、めでたしめでたし――で終わり。
 ダメだって言われたら、俺は路頭に迷って、ストーカーになったりして、今後の人生、想像も絶するような悲惨な運命を辿りました――で終わり。


 俺様の活躍も、ここまでというわけか。


 それも困るな。
 話つけるのは、ちょっと延期だ。今は無理だな。
 もっと俺が素晴らしい活躍をして、世界一の本物の男になって、美羽だけじゃなくて、読者のお前等が、死ぬほど俺の事を好きになってからにしよう。

 えっ、もう惚れてる?

 フッ、ありがとよ。

 でも、もっともっと惚れさせてやるから、まあ見てろ。



 って、そうじゃなくて。



 美羽から同意を取るって話だ。今日話つけるのは、やっぱまだ時期尚早な気がする。成功確率百パーセントではないからな。むしろ成功率のパーセンテージ、かなり低いだろ。
 ビジネスなら、絶対にそんな危ない案件、俺なら手を出さない。

 もう少し施設通いして、親密度を上げて、信頼してもらえるように努力して、アイツが俺の事好きオーラを出し始めたら、もう一回結婚の話をすることにしよう。
 俺のアンテナでは、まだ美羽からのそーいったオーラ、一切関知できねえからな。
 今は多分、俺が淋しい男だから、ガキ共と同じように受け入れて接してくれてるだけなんだろーな。

 男としてじゃなく、子供みたいに思われてるんだろーな。きっと。
 道のりは長そうだ。
 今日、干からびた身体と、ようやくおさらばできると思ったけど、難しそうだな。
 でも、早くしないと俺の身体、干物になっちまうぞ?

 いつまでこの状態でいればいいんだろう。それだけでも、美羽に聞けたらいーのにな。

 手を出さないように我慢すんの、結構辛いんだぜ。男じゃねーと、この辛さはわかんねーだろ。

 この際、他の女で潤い成分だけ、何とかできりゃいーけどな。
 でも、俺、多分他の女ではもう出来ないと思う。
 前に接待でクラブ行って、リョウコが傍に来た時、何の魅力も感じ無かったんだ。あんなに美人でイイ女でも、ダメなんだ。そん時、ハッキリ解ったしな。美羽じゃなきゃって。

 リョウコだけじゃなくて他の女を見ても、何とも思わなくなってしまったし、性的魅力を感じない。

 もう、美羽しか欲しくないんだ。

 これも、一点集中型になっちまったんだな。いいのか悪いのか・・・・エロ魔神の俺様ともあろうものが、こんなにモヤモヤくすぶるなんて、どーかしてる。前代未聞だぜ、全く。




 というワケで悲しいかな、俺の身体の日照りはまだまだ続きそうだ――




 朝食を終え、片付けを手伝い、今日も買い出しに行こうかと思ったが、先週大量に必要なものを買ったから、そんな大した量の買い物は無いらしく、今日は少しの切れた調味料を、美羽一人だけで買いに行くことになった。
 こんな少しの買い物に行くのに、ガキ共の面倒を見ながら留守番してくれる方が助かるとのことで、俺が残ることになった。

 商店街のデートは二人きりになれるから、結構楽しみにしてたのにな。

 まっ、また来週だってあるんだ。今日だけが全てじゃねえ。それより、嫌な顔せずいう通り引き受けた方が、好感度が上がるんだ。俺は極上の微笑みで、気にせず買い出し行って来いよ、っつってやったんだ。
 そしたら美羽のヤツ、ありがとう、すごく助かる、って喜んでたしな。今日のコロッケスマイルは見れたワケだ。


 俺は、施設に来たら、一日一回はコロッケスマイルを見ようと思っている。


 でも、何かコレって、恋愛シュミレーションゲームみたいな感じだな。
 美羽を喜ばせて、コロッケスマイルを見る。そうしたら、ピロリロリン、と音楽が鳴って好感度が上がるんだ。
 俺はそんなゲームやったこと無いけど、何か、そんな感じがする。
 百コロッケスマイル貯めたら、クリア、みたいな?
 そう考えると、今、どれくらい貯まってんだろ。うーん、十個も無いだろうな。
 いや、美羽の場合、百コロッケスマイルじゃ無理だな。多分、もっと必要だな。超難易度が高い、一番攻略しにくいパターンの女だろう。
 だから手に入れた時、頑張った甲斐があったな、って思うんだ。


 でも、俺の場合、そんな遊びのゲームなんかじゃねーぞ。


 俺は自分のペースで、俺のやりたいように、お前との間合いを詰めていく。何時までも淋しい子供でいる訳にはいかねーんだ。俺は大人の男だからな。
 何時、どんな恐ろしいライバルが現れるか、わかんねーだろ。
 そんで、安心して近づいたら最後、同意取った上で、全部残らずお前のコト喰ってやるからな。覚悟しとけ。

 でも、それは顔に出しちゃお終いだから、俺は優しくて頼れる男を全面アピールすることにしようと思う。この作戦、いーだろ? 惚れるだろ?
 優しい男はモテるからな。でも、俺らしく振舞うぜ。
 だから美羽が俺様に惚れるのも、時間の問題だ。こうなったら、こっちのモンだ。


 見てろよ、美羽!

 週末のビジネスマンになって、お前を喰うのはもう、時間の問題だからなっ!!
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