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スマイル28

ビジネスビジョン・1

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 昨夜は美羽と二人きりで、初めて長い時間を過ごした。
 ただ黙って、傍に居て、流れる時間を過ごすだけだったけれど、本当に幸せだった。
 悲しみに震える彼女を包んで、ずっと傍についていたんだ。

 そんな事ができるのが、俺であってよかったと思う。独りきりで俺の知らない所で泣かれても、慰めてやれねーからな。
 俺の知らない所で、他の男に慰められたりしたら、それも困るからな。そんなの赦せねーし。

 ま、今のところ、美羽の周辺に、俺以外の男の影は皆無だ。ガキや恭一郎はもう眼中にねえ。近辺に居ると思われる、ヒラメオヤジや横山なんかは心配いらねーだろ。あんなオヤジ達。既婚者だし。



――ハッ。でも待て!



 そういえば、横山の工場に融資の話した時、美羽のヤツ、えらく俺に頭下げて来たよな。お陰で悪夢を見ちまったんだ。
 横山のオヤジは、一番苦しかった時に、自分を助けてくれた恩人だからとかなんとか、って。

 ま・・・・まさか・・・・。

 しかし、横山と美羽がどーこーなる絵図は、全く想像ができなかった。
 歳も離れすぎてるし、美羽にとったら横山は、親戚のオヤジみたいなモンだろ、多分。
 横山だって美羽のコト、娘みたいに可愛がっているんだ。だから横山も安全牌だ。大丈夫だろう。俺は、一体何を考えてるんだ。

 但し、万が一にも横山が美羽に手を出そうとしたら、俺は絶対に、どんな手を使ってもオヤジの工場を潰すからな。
 融資金だって、即回収してやるぞ。契約は反故だ。
 そーなったら横山は、莫大な借金抱えた上に、更に酷い目に遭うだろう。

 そう考えると、ヒラメオヤジだって油断ならねえぞ!
 前に商店街に買い物行った時、魚のアラあげるとか何とか美羽にうまい事言って、極上のコロッケスマイル見てやがったしな。
 あっ。ヒラメオヤジのヤツ、小さい頃から美羽のコロッケスマイル見てやがるだろーから、もう、オヤジのヤツが千個位貯めてんじゃねーのかよっ!
 ちょっ。美羽を抱くのは千個どころじゃ足りねーのか。一体、幾つ貯めりゃ・・・・。

 いや、横山だって油断ならねーぞ。なんせ恩人・・・・。



 ・・・・って、俺、本当にマズい。妄想が暴走してる。



 人を裏切ることに無縁そうな、人の良さそうな横山のオヤジが、姑息な花井のように、美羽に手を出すワケねーだろ。
 ヒラメオヤジだって、美羽のコトあんなに大切に想ってるのに、彼女を傷つけるような事をするワケない。


 俺は、美羽が盗られたりしないか、不安すぎてしょーがねーんだな。
 自分でもなんとかしたい。

 美羽が俺のモンになったら、この妄想なんかは改善されるのだろうか――そう思ったが、もっと酷くなりそうな気がする。
 チイの親父みたいになっちまったら、どーしよう。上村のヤツ、佳奈美をかなり束縛していたみたいだからな。
 美羽と付き合えるようになった時、束縛しすぎてDVになんないように、俺も気を付けないと。


 でも俺、美羽が仲良く男と話をするだけで、嫉妬しそうな気がする。例えば、施設に訪れる宅配業者みたいなどーでもイイヤツにまで、仲良く話をしていたら、ヤキモチ焼いちまうかもしんない。

 美羽が仲良く話をする男は全滅したらいいとか、マジで考えちまうんだ。

 現に、ヒラメオヤジや横山の事でさえ、疑ってかかる始末だ。
 精神科に行けとか、落ち着け、とか、読者のお前等に言われるくらいだ。俺は、相当酷く精神を病んでいる気がする。
 初めて、気が付いた事実だ。


 手に入れても不安、手に入れなくても不安って・・・・どーしたらいーんだ、俺は。


 ブルブルと首を横に振った。もう、おかしなコトばっか考えるのは、止めだ。
 俺は美羽が好きになってくれるよう、世界一の男になるために、全力で頑張るだけだ。
 つまんねーコトばっか考えていても、好きになってもらえるワケねーからな。

 今のままじゃ世界一の男なんて、夢のまた夢だぞ。
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