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スマイル36・王様の帰還

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「こういう事だ、花井。もうお前の飼い犬は終了だ。美羽ねーちゃんや施設を裏切らせるような事をさせて、俺がどんな思いで過ごしてきたと思っているんだ。全部お前を、王雅とぶちのめす為だよ」

 真秀君が晴れ晴れとした笑顔で言った。

 えっ。真秀君――ずっと私を裏切ったと思っていたけれど、私や施設を助ける為に、辛い中必死に立ち回ってくれていたの?
 私、随分貴方に冷たくしたわ。真秀君が施設に来る度、顔も見たくないって追い返したわよね。


 それでも、王雅と一緒に水面下で動いてくれていたの?


「この株、もう売れねーぞ。お前の証券は全部ゴミクズだ。良かったな。これからは借金地獄が待ってんだぜ。俺様を敵に回すから、こーいう目に遭うんだ」

 王雅も真秀君と同じ様に晴れやかな笑顔を見せた。一方花井は、そんなバカな、と一言呟いて、青ざめて震えている。




「あっはははは! 傑作だわ!!」




 笑いがこみ上げた。
 花井のあの顔。間抜けでアホ面、最高だわ!
 おかあさんの事、打ち明けるなら今ね。最高のタイミングだわ。
 王雅がいるけど、仕方ない。貴方と再会したその日が別れる日になってしまうなんて、皮肉なものだけど。
 頼めば、施設の土地だけは譲ってくれるかしら。

 

「ちょっとごめんね、先生を助けに来てくれて本当にありがとう」


 私を取り囲んで守ってくれている子供たちに声を掛け、花井の前に立った。


「ねえ、花井。施設が絶対に大丈夫になったら、アンタに言おうと思っていた事があるのよ」


 笑顔が出た。
 おそらく、私が今まで生きて来た中で一番、驚異的な笑顔になっていると思う。



 憎しみや怒りが頂点に立つと、人間って笑えるのね。初めて知ったわ。




「私、美幸おかあさんとは、血が繋がってないの。血筋不明の、どこの誰かもわからない人間なの。ごめんなさいね?」




 私の言葉が理解できなかったのか、花井は金魚のデメキンに負けず劣らず目を飛び出させそうな程、カッ、と目を見開いている。その様子は、本当に目が飛び出てきそうに見えた。
 
 誰か、本当に飛び出ちゃえばいいのにってメッセージくれているわね。
 あはは。本当ね。そうなったら傑作だわ。また、大笑いしてやろうかしら。

「そっ・・・・そんなっ・・・・ウソだっ、デタラメだ!! こんなに美幸さんに似ているのに!」

「それは、私が美幸おかあさんに似せているからよ。髪型や雰囲気で、女はどうにでもなるのよ」

「じゃあ・・・・私が・・・・今まで追いかけて来たのは・・・・」

 あまりの衝撃で、花井の声が震えていた。
 うふふ。傑作ね。トドメ刺してあげる。

「残念でした。私は、美幸おかあさんと、血の繋がりもない、何の関係もない、素性も解らない、ただの女なの。嘘だと思うなら、横山さんに聞いてみて? 幼い時、私が虐待されて、憔悴しきっていたところを助けてくれたのが、横山さんだから」

 恐る恐る横山さんを見た花井に向かって、彼は、美羽ちゃんの言う通りだ、と漏らした。
 花井はこれ以上にないくらい、目を見開いて震えている。
 顔が真っ白になって、今にも倒れそうだわ。


 あはは。


 
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