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Office02・限定デートの始まり
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しおりを挟む「で、断らなかったんだ。バカ和歌子さんは」
「ぐっ・・・・自分でも良く解ってます」
昨日の約束ボイコットの件を清算すべく、お昼ランチの痛い出費をさせられ、挙句デザートまで奢らされた可哀想な私の目の前に居るのが江藤 綾音こと、アヤネ。同僚でもあり、悪友でもある彼女に、昨日の三輪さんとの事を包み隠さず話したところだった。
「でもよかったじゃない」大きな目を細めて、キレイな栗色の肩位までの髪を揺らしながら、アヤネは笑った。「ナンにせよ、憧れの三輪さんとデート出来るんだから」
「そうだけどーぉ」
「アンタ、コレを機にちゃんと三輪さんにフラれるか、キッパリケジメつけるか、どっちかにしなよ? じゃないと、一生恋愛できないよ」
「解ってますぅ」
私を気遣う台詞に、思わず泣きそうになる。
アヤネは何時でも私を心配してくれるのだ。ホント、有難うアヤネ。
でも、自分でも止められないのが恋愛なのよ。
バカなの解ってるけどねー。ホント、救いようがないバカだわ。私。
「あ、またアイツ手ぇ振ってるよ。真吾君」
屈託の無い笑顔を見せながら、今アヤネが言った真吾君――上山真吾(かみやましんご)が私に向かって手を振っているのが、カフェの窓越しに見えた。
彼は、私が面倒を見ている部下の一人。最近妙に懐かれちゃって、ことある毎にデートに誘われたりされるのだ。
「よっぽどアンタの事好きなのね~ぇ」真吾君と私を見比べて、ニヤリと笑いながら、アヤネが呟いた。
「そっ、そんな訳ないよ!」
「おーおー照れちゃって。まぁ~、そんな風に言わずに付き合ってあげれば? どうせアンタ、フリーだし」
「ちょっと、アヤネ!!」
アヤネに向かって叫んだトコだった。噂の主、真吾君がいつの間にか店に入ってきたらしく、私達の目の前に現れた。黒の短い髪をツンツンに上げて、イマドキの若者風ヘアスタイル。ふちの厚い眼鏡もお洒落で、笑顔の可愛い、二つ年下の男の子。
「和歌子さん、俺も今ランチ終ったところなんです! まだならコーヒー一緒に飲みませんか? ご馳走しますよ!」
「あ・・・・あの・・・・」
「じゃ、私は仕事あるから先に行くね。二人でごゆっくり」
ウィンクを残して、アヤネが席を立った。
「ちょっと、アヤネ――」立ち上がろうとした私を制して、アヤネが耳元で囁いた。「真吾君だって必死なんだから、少しくらい、付き合ってあげな」
アヤネに言われて、しぶしぶ私は席に着いた。
「和歌子さんはカフェラテが好きなんですよね? 注文、アイスカフェラテで良いですか?」
「あ、うん。良く知ってるね」
ハイ、と真吾君は笑顔を見せて、ウェイトレスにアイスコーヒーとカフェラテを注文した。二人で向かい合って座ると、真吾君が身を乗り出してきた。
「あのっ! 和歌子さん、今日仕事終った後、ヒマですか? もしヒマがあったら、俺と映画でも行きませんか?」
スーツのポケットから映画の招待券を取り出して、真吾君が笑顔を見せた。「前、和歌子さんこの映画見たいって言ってたでしょう? 知り合いにチケット貰ったんで、お時間あったら一緒に・・・・」
「ごめんなさい」私は頭を下げた。「先約、あるの」
「ふーん、そっか。残念! じゃ、明日はどうですか?」
私は答えられなかった。
明日も、明後日も、今週は三輪さんとの約束があったから。
「ははっ、ゴメンなさい。急に迷惑でしたよね。じゃあまた時間のある時に、アヤネさんとでも見に行ってください。俺は使わないので」
拒否する事も出来ずに、結局映画の券を受け取った。
幾らバカな私でも解る。・・・・真吾君は、私を誘う為にわざわざこのチケットを用意してくれたんだ。
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