上 下
52 / 96
Office12・ミーティング

しおりを挟む
 
「で? それで? その後の後輩クンとの進展は?」

「それだけ」

「たったそれだけぇ? なーんだ。つまんないのー。慌てて真っ赤になってるから、てっきりヤったのかと・・・・」

「するかっっ」

 昼間のオフィスで、しかも仮にも仕事のミーティングしようと思っているのに、なんちゅー話するんだこの女は! 飲みの席のセクハラオヤジかっ!!
 絶対からかってるわ!!


「あのねえ。私で遊ぶの止めてくれる?」

「だって和歌子チャンは、可愛いんだモーン」

 私はアンタの玩具かっっ。

「そうやってすぐムキになるところとか、可愛いのよねー」

 グリグリと頭を撫でられた。「三輪さんの方は? 進展あったの? 同時進行だったら驚くけど、和歌子はそんな器用な女じゃないもんねー」

「進展なんか、無いわよ。お食事して、帰るだけ」

「ナニソレっ。中学生かっつーの! 今時の中学生でも、チューくらいするわ」

 ブホっ、と思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

「もうっ。三輪さんは、奥さんいるんだよ? 相談だって奥さんのコトだし、私に気があるなんてとても思えない。火遊びなんかできないし、楽しく時間を過ごしてるだけ。日曜日に最後のデートしたら、告白してフラれるつもりだし」

 もう決めてあるのよ。
 
「ふーん。告白して上手く行ったらどーすんのさ」

「行かないわよ。三輪さん真面目だし、そんな男じゃないもん」

「三輪さんが不真面目な男だったらどうするの? 記念に一回くらいって、和歌子に手を出すかもしれないでしょ」

「ないってば。真吾君みたいな事言うのね、アヤネも」


 まあ、わからなくはない。
 カワイイと思っていた真吾君も本性剥き出しにしてきたし、もしかしたら三輪さんは、思った以上に肉食獣かもしれないし。

 でも・・・・もしそうなったら・・・・。


 ううん、できない。


 私は、奥さんのいる男にちょっかいをかけたいわけじゃない。
 知らなかったのよ。好きになってしまってから、奥さんがいるって気が付いたんだもん。


 三輪庄司という一人の人間を、知らずに好きになってしまっただけだから。



「大丈夫よ。もしそれ以上のコトを求められたりしたら、私、多分、三輪さんのコト引っぱたいちゃうわ。それで、フラれるから。いいの! 大丈夫!!」

「なーにが大丈夫なんだか。じゃあ、三輪さんがホンキだったらどうするの? 奥さんと別れて和歌子を選んだりしたら――」

「そんなの、あるわけないわ。平凡な一般のガサツなOLと、大企業のお上品なご令嬢と、ドッチを取るの? しかも結婚前ならともかく、もう既に結婚までしているのよ? あるワケない。あっちゃいけない」


 そうよ。
 こんな事、何時までも続けられない。
 悪友にも、後輩にまで心配かけてしまうこんな恋、もうちゃんと終わりにしなきゃ。


「大丈夫。アヤネ、心配してくれてありがとう。私は大丈夫。三輪さんに告白して、ちゃんとフラれるから。新しい恋に踏み出す為には、今は必要な過程なの。バカな事してると自分でも思う。でも、前に進みたいの。あともう少しで終わるから。見守ってて?」

「・・・・超がつくほど真面目でバカだね、和歌子は」

 アヤネに苦笑された。
しおりを挟む

処理中です...