OLの花道

Office12・ミーティング

３

　
「ま、泣きたくなったら後輩クンが控えてるんだから、ソッチに慰めて貰えばいーんじゃない？」

「アヤネが慰めてくれるんじゃないのぉ？　真吾君はいいよー。絶対意地悪言われるしー。慰めには向いてないよ」

「ふーん。真吾君って意地悪なんだ。カワイイ顔してるのにね。腹黒王子ってワケ？」

「ま、そーいうコト。アイツったらさあ、エスパーなんだよっ！　私の心隅々まで読むんだもん！　ズバズバ色々ハッキリ言うしさぁ、信じられないよー」

　愚痴ってやった。

「和歌子チャンにはそれくらいハッキリ言ってくれる男の方が、お似合いじゃない？　私みたいな」

「うん、そーかも。真吾君って、アヤネの女版だわ！」

「私は腹黒じゃないけどー。隠して無いしー」

「男には隠してるじゃない」

「そっかなー。本性見せるのが全てじゃないよ。上手にやらなきゃ」

「どーせ下手ですよー」

「私は和歌子のそんなところ、可愛いって思うけどな。真吾君のキモチ、わかるわぁー」

「わからんでよろしい」

　ミーティングそっちのけで、ガールズトークになってるんですけど。
　バレたら怒られるわ。

　
「アヤネ、そろそろミーティングしない？　お願いしたい事があるって言ったよね」

「あ、そーだね。一通り報告もらったから、そろそろ仕事しよっか」

　あっさり仕事モードに切り替えてくれた。
　この切り替えの早さ、素敵だわ。
　アヤネのこーいうトコ好き。
　彼氏もそうなのよね。冷めたらズバっと切ったり、飽きたと言ってちぎっては投げ、ちぎっては････。

「誰がちぎって投げるって？」


　ん？


「和歌子は私のコト、どーいう目で見てんのよ」


　んん!?


「きーてんのっ？」

「いや、ちょっと待って？　アヤネ････心読めるの？」

「読めないけど、和歌子の考えてる事は解るよ。顔に書いてあるもん」

「書いてないっっ」


　知らなかった････アヤネもエスパーだったなんて！
　私、エスパーの悪友と後輩持ってたのねっ。

　アヤネと真吾君、仲間じゃないの。エスパー仲間。

「一緒にしないで」


　もう怖いよ――っ!!
　私の心を読まないで――っ！
　
「あ、そう。そうだ。あの、ミーティングまだしてないよ？　そろそろやろう？」

「そうね」アヤネが笑った。

　何故か彼女の笑顔が、悪魔に見えた。


　余計な事は考えないよう、仕事に集中することにした。
　私は早速持ってきた資料を広げて、ナイトワンの報告を行った。
水色の着色とシトラスの香料の原案は、実はアヤネなの。彼女もいい商品をあれこれ提案してくれるから、意見を出してもらって採用している。

「アヤネに相談っていうのは、今この『ナイトワンプロジェクト』で提携したミリオンドラッグ――櫻井グループの取締役の櫻井さんに頼まれて、ラグジュアリーホテルに置く、ラブサプリの開発や、海外の子供たちに無償提供する、医療用ワクチンの開発も手掛ける事になったの。勿論無償って言っても、櫻井さんの会社が費用は出してくれるから、金銭面での心配はないわ。全般的な取引にヒロイを使ってくれるって。かなりの大口契約になると思う。だからいい製品開発して、きちんと取引成立させたいの。いい意見ないかな？」

「そうね････じゃ、今夜どんな商品でやったら燃えるか、カレシと色々試してみるわ。和歌子も、折角だから三輪さんか真吾君と試してみたらいいんじゃないの？」

「なっ････なんちゅーことを････」

　冷汗がどばどば出てきた。

　
「実況見分いるでしょー」

　あっけらかんと言い放たれた。
　開いた口が塞がらないとは、この事ね。

「と、とにかく！　私は実況見分はやりませんっ！　この分野はカレシがいるアヤネにお任せします!!　ヒロイの製品だけじゃなくて、他社の製品も色々試してみて。頼んだわよっ」

「レポート出したら、奢ってね？」

「････飲み代、接待費は、経費で出してもらうわ」

　何で私が、アヤネを接待せにゃならんのじゃ。
　飲みに連れて行ったら、わーかこー、とか言いながら、胸触ってくるに決まってるわ。結構セクハラするのよね、この女も。
　やっぱ、真吾君と親戚････。

「親戚じゃないし」



　読むなーっっ!!



　結局こんなやり取りがミーティング終わるまで続いた。
　アヤネも悪魔の仲間だったんだって、今日初めて気が付いた。


　私は自身が悪魔ホイホイらしいということも、初めて気が付いたのだった。