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Office15・バースデープラン

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「承知しました。それでは三輪さん、Bizoux(ビズー)という宝石を加工したアクセサリーが購入できるお店に行きましょう。私、色々考えました。桃香さんもきっと気に入ってくれると思います。今日はプランBで行きます。私のプレゼンに任せておいてください! 絶対、奥様との親密度を上げてみせますから」


 腕を組んで歩きたくなる衝動を押さえ、私は三輪さんと並んで歩き出した。
 待ち合わせした和光デパートを背に、都道三百四号線の晴海通りを南西に向かった。そのまま東京メトロ日比谷線の東銀座駅を少し越え、歌舞伎座の鳥居がある所を左に曲がって北東の方に向かっていく。ビルの合間を抜け、少し隠れ家的な雰囲気のある東銀座の少し入った所に、その店はあった。私は三輪さんと一緒に歩き、暫くデート気分を楽しんだ。


「三輪さん、こちらです。小さなお店ですが、素敵なアクセサリーが揃って売っています。オーダーメイドで有名なんですが、桃香さんのお誕生日まで時間がありません。二か月近くかかりますから、オーダーメイドは諦めて、店内で売っているもので素敵なものを選んで購入してください。私は、このお店の通りからまっすぐ北西にすすんだ少し先の、cafe634というお店で待っています。しっかり吟味して選んで下さいね! 七月の誕生石はルビーですから、お間違いなく」

 ニッコリ笑って放置していこうとする私を、案の定三輪さんが呼び止めた。「ちょっと待って、僕一人で行くの? 和歌ちゃんは?」

 
「三輪さん、桃香さんの立場になって考えて下さい」ずいっと三輪さんを睨んで詰め寄った。「幾ら部下とはいえ、デートまがいの事をした他の女と一緒にこのプレゼントを選んだことが万が一桃香さんの耳に入ったら、絶対いい気はしませんよ。私が一緒に行くべきではないです。ここは、三輪さんおひとりでお願いします。女性の立場から言わせていただきますと、私が一緒にプレゼントを選んだりしたら、その時点でアウトです。そんなプレゼントは嬉しいものではなく、不愉快なものに変わります。せっかくのプレゼントが台無しになります。ですから、ここはおひとりで。それとも三輪さんは、桃香さんが他の男と仲良くデートして選んだプレゼントをもらって、嬉しいですか?」

「そうだね。それは嬉しくないな・・・・じゃあ、和歌ちゃんのアドバイス通り、ひとりで買いに行って来るよ。センスが悪くて桃香に突き返されるかもしれないけど、頑張ってみる」

 どうやら三輪さんは納得してくれたようだ。

「大丈夫です。三輪さんが一生懸命選んでくれたものなら、どんなものでも桃香さんは喜んでくれますよ、きっと」

 プレゼントを買うヒントくらいをあげるならいいとしても、絶対にここは私が立ち入っちゃいけない。三輪さんに頑張って貰わなきゃ!
 私服のセンスもお洒落な三輪さんが、下手なプレゼントを選ぶ訳が無いわ。
 大丈夫。

 三輪さんと別れて指定したカフェで待っていると、四十分程経ってから三輪さんが現れた。

「ごめんね、すごく待たせちゃって」

「いいえ、構いません。こちらもリサーチしたい事がありましたので、全然問題ありません。プランBを練っていました。あ、注文何になさいますか? ここのケーキ結構美味しいんですよ。三輪さん甘党でしょ。こんな機会じゃないと食べられないでしょうから、召し上がったらいかがですか?」

「和歌ちゃんは何でもお見通しだな。じゃあ、一緒に美味しいケーキ食べたい。注文しよう」

 三輪さんがさっと手を挙げ店員さんを呼んで、丁度私も飲み物が無くなってしまったので、ケーキセット二つを注文してくれた。

 アイスコーヒーとアイスカフェラテ、それからケーキがすぐに運ばれてきた。口コミで評判の、ベイクドチーズケーキ。二人用の席の木製のテーブルに飲み物やケーキが置かれると、それだけでいっぱいになった。


「いただきまーす」

 
 美味しいケーキを目の前にすると、テンション上がるわ!
 早速チーズケーキを頬張った。爽やかなチーズの甘さが口いっぱいに広がって、思わず笑顔になった。
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