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しおりを挟む「検定お疲れさまー。待合室Bで待っててね、後で結果持っていくから」
「お疲れ様です……」
「ねえねえ、どうだった?」
そう言う受け付けのお姉さんの瞳は、面白いと言わんばかりの好奇心に満ち溢れていて。
そんな彼女の意図するところは、きっと彼に関することだろうと思った。
けれど、
「あはは、私なんか揶揄われてるだけですよ」
最後まで、アクションを起こそうとしないのはそういうことでしょう?
ほとんど本音でそう言った私の言葉を、お姉さんは「またまたー」とまともに受け取ってはくれなかったけれど。
バタン、車とは違った類の開閉音と共に俯けていた顔を持ち上げる。
その瞬間、
「うそ……」
自分でも気付かない内に、そんな小さな呟きを発してしまっていた。
視線の先に居るのは、今日検定を受けた人数分の資料を持った彼だったから。
お姉さんの口振りからして、きっと彼女がその役目を担うものだと思い込んでいた。
だから彼と接するのは、先程の車内が最後だと。
そう、思い込んでしまっていたから。
一瞬ぱちりと合った視線の中で、彼がゆるりと笑みを浮かべた気がした。
「───つーわけで、今日の受検者で不合格者はゼロ。長い間お疲れさん、じゃ解散ー」
「センセ、最後まで適当だったな」
「はあ?ちゃーんと試験当日のイロハ教えてやっただろ。ほれ、帰れ帰れ」
「はは、ひっでー!じゃーなー」
「おー、気を付けてな」
鞄に書類を詰めている傍ら、そんな会話が耳に入り顔を上げた。
他の生徒を送り出していた彼は、指先をひらひらと泳がせている。
私の視線が捉えたのはその大きな背中のみだったから、少しだけ安堵した。
けれど、
「な?言っただろ」
そんな言葉と共に振り返った男は、私が視線を向けていることに。
まるで気付いていたかのように、悪戯な笑みをその口許に刻み込む。
「、受かってるか微妙だって…!」
「不合格だとは言ってねぇ」
「またそうやって揶揄うっ、」
言葉尻が、詰まってしまった最大の理由は。
「仕方ねーだろ」
その余りの至近距離に、呼吸を洩らすことさえ憚られたから――、
「気付いたらこんなことばっか言ってんだよ、お前には」
「ッ、」
瞬時に頬に赤い色が迸って。
それを目にした目の前の男が微笑んだあたり、またもや揶揄されているんじゃないかと気を揉む私。
だけれど、
「――…そういうとこ、可愛すぎ」
落とされたそんな言葉によって、心配は杞憂に終わってしまった。
ニュートラルからドライブへ
( 彼と私の関係の変化を表すなら、そんな感じ )
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