9 / 42
第一章 伯爵令嬢と吸血鬼
8.素敵なおねえさま
しおりを挟む
「あらあら、急いで一体どちらへ向かうところだったのかしら?」
妙に耳に低く響く声までもが妖艶で、大人の女性の色香を感じさせた。
波打つ銀髪、透き通るような白い肌。それに紫水晶のような、人を見通してしまいそうな深みを感じる瞳。
完成された大人びた色気があるのに、私達と同じ制服を身にまとっている。とても同じ年頃とは思えない大人の魅力がある。
そして美しく妖艶なその姿は一度見たら忘れない程なのに、この学院で見かけるのは初めてだった。
私が思わず疑問を頭に浮かべながらも見惚れている間に、ヴルグは鼻の頭に皺を寄せ、ぱぱっと彼女を観察した。
「んん? なんだお前は。なんか嫌な匂いがするな。俺行くわ、シェリア。またな」
何かを感じ取ったヴルグの行動は早かった。
誰何しておきながら答えも聞かずにぴらぴらと手を振って去る。
呆気にとられ、飛ぶように歩き去るヴルグの背中を見送っていると、ふっと吐息で笑う声が聞こえた。
「随分とそそっかしい方ね。その正体を見極めもせずに尻尾を巻いて逃げるなんて、本当に知能の低い獣ですこと」
振り返れば、彼女が妖艶さの端にどこか意地悪そうな色を浮かべて笑っていた。
綺麗な顔をしているだけに、辛辣な言葉がより冷たく聞こえる。
けど何故か怖くはなかった。むしろ何故だか親しみを覚えた。
間接的にしろ、助けてもらったからかもしれない。
「ぶつかってしまい申し訳ありませんでした。お怪我はありませんでしたか?」
改めて謝罪を告げると、彼女はふふ、と小さく笑った。
「ええ、大丈夫よ。あなたのようなかわいらしい子がちょっと触れたくらいでは、私はぴくりともしないわ」
確かに。その豊満な膨らみが、ばいーんと見事に衝撃を吸収していた。
彼女の顔からはもう意地悪な色は消えていた。
むしろ私に怪我がないか慈しむような目を向けている。
「私はシェリア=アンレーンと申します。あなたのお名前を伺っても?」
「エヴァ=アシュタルト。短期留学でこちらに来たの。よろしくね?」
なるほど、と頷く。
どうりで見かけた覚えのない顔だ。
そして噂の留学生は彼女だとすぐに理解した。噂通り、一度見たら忘れぬ美しさだ。
色気のある笑顔に見惚れていると、背後からいくつかの足音が聞こえた。
「あ、こちらにいらっしゃったんですね、エヴァ様。お約束通り、我々が学院内を案内しますよ。まだ不慣れでしょう」
やって来たのは先程ヴルグから私を助けてくれたクラスメイト三人組だった。
改めてさっきのお礼を言おうかと思ったけど、彼らはもはや私など目に入っていないようだったので、邪魔をするのも野暮かと口を噤む。
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてお願いするわね」
エヴァがにこりとほほ笑むと、彼らはうっとりと笑み崩れた。
この顔はさっきも見た。
そうだ、ヴルグを追い払いに行った彼らが戻って来たときも、こんな顔をしていたのだった。
おそらくその時も彼女に会ったのだろう。
そこで優しい彼らが案内を買ってでたのかもしれない。
エヴァは私にもにこりと目礼を向けると、小さく手を振り彼らと中庭の方へ歩いて行った。
私はそれを見送り、ふう、と肩で息を吐く。
すごく綺麗な人だった。
どことなく影が漂い、大人の雰囲気を感じさせる。
男たちが一目で虜になるのも頷ける。けれど彼女自身には、媚びたところは一つもない。
女の私から見ても、魅力的な人だ。
なんとなく惹かれるものがあった。
機会があれば、もっと話してみたいなと思った。
妙に耳に低く響く声までもが妖艶で、大人の女性の色香を感じさせた。
波打つ銀髪、透き通るような白い肌。それに紫水晶のような、人を見通してしまいそうな深みを感じる瞳。
完成された大人びた色気があるのに、私達と同じ制服を身にまとっている。とても同じ年頃とは思えない大人の魅力がある。
そして美しく妖艶なその姿は一度見たら忘れない程なのに、この学院で見かけるのは初めてだった。
私が思わず疑問を頭に浮かべながらも見惚れている間に、ヴルグは鼻の頭に皺を寄せ、ぱぱっと彼女を観察した。
「んん? なんだお前は。なんか嫌な匂いがするな。俺行くわ、シェリア。またな」
何かを感じ取ったヴルグの行動は早かった。
誰何しておきながら答えも聞かずにぴらぴらと手を振って去る。
呆気にとられ、飛ぶように歩き去るヴルグの背中を見送っていると、ふっと吐息で笑う声が聞こえた。
「随分とそそっかしい方ね。その正体を見極めもせずに尻尾を巻いて逃げるなんて、本当に知能の低い獣ですこと」
振り返れば、彼女が妖艶さの端にどこか意地悪そうな色を浮かべて笑っていた。
綺麗な顔をしているだけに、辛辣な言葉がより冷たく聞こえる。
けど何故か怖くはなかった。むしろ何故だか親しみを覚えた。
間接的にしろ、助けてもらったからかもしれない。
「ぶつかってしまい申し訳ありませんでした。お怪我はありませんでしたか?」
改めて謝罪を告げると、彼女はふふ、と小さく笑った。
「ええ、大丈夫よ。あなたのようなかわいらしい子がちょっと触れたくらいでは、私はぴくりともしないわ」
確かに。その豊満な膨らみが、ばいーんと見事に衝撃を吸収していた。
彼女の顔からはもう意地悪な色は消えていた。
むしろ私に怪我がないか慈しむような目を向けている。
「私はシェリア=アンレーンと申します。あなたのお名前を伺っても?」
「エヴァ=アシュタルト。短期留学でこちらに来たの。よろしくね?」
なるほど、と頷く。
どうりで見かけた覚えのない顔だ。
そして噂の留学生は彼女だとすぐに理解した。噂通り、一度見たら忘れぬ美しさだ。
色気のある笑顔に見惚れていると、背後からいくつかの足音が聞こえた。
「あ、こちらにいらっしゃったんですね、エヴァ様。お約束通り、我々が学院内を案内しますよ。まだ不慣れでしょう」
やって来たのは先程ヴルグから私を助けてくれたクラスメイト三人組だった。
改めてさっきのお礼を言おうかと思ったけど、彼らはもはや私など目に入っていないようだったので、邪魔をするのも野暮かと口を噤む。
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてお願いするわね」
エヴァがにこりとほほ笑むと、彼らはうっとりと笑み崩れた。
この顔はさっきも見た。
そうだ、ヴルグを追い払いに行った彼らが戻って来たときも、こんな顔をしていたのだった。
おそらくその時も彼女に会ったのだろう。
そこで優しい彼らが案内を買ってでたのかもしれない。
エヴァは私にもにこりと目礼を向けると、小さく手を振り彼らと中庭の方へ歩いて行った。
私はそれを見送り、ふう、と肩で息を吐く。
すごく綺麗な人だった。
どことなく影が漂い、大人の雰囲気を感じさせる。
男たちが一目で虜になるのも頷ける。けれど彼女自身には、媚びたところは一つもない。
女の私から見ても、魅力的な人だ。
なんとなく惹かれるものがあった。
機会があれば、もっと話してみたいなと思った。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる