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第三章 吸血鬼と執事
5.強襲
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エヴァたちは既に朝食は済ませてあったようで、テーブルには私の前にだけ皿が並べられた。
給仕をしてくれたのはギルバート。
この広くて大きな城にはこの三人の他には人の気配がない。
どうやら侍女も使用人もいないようだった。
ギルバートも分身を使って執事と私の護衛とをこなしているのだから、ユリークも同様にしているのだろう。
エヴァとユリークは、私の食事に付き合って、食後のお茶を飲んでくれている。
昨日はばたばたとしていたから――っていうかギルバートが一方的に私を部屋へと連れていってしまったから――、改めていろいろと話をしようと待っていてくれたのだろう。
「昨夜はゆっくり眠れたかしら?」
「はい、気づいたら朝というくらいにぐっすりと寝ました。急にお世話になってしまい、すみませんでした」
見守られながら一人食器をカチャカチャ言わせているのはちょっと忍びない。
けれどユリークが小さな頭をふりふりして「いえ、いいんですよ」と言ってくれた。
「シェリア様はギルの大事な人ですから。僕たちも一度会ってみたいと思っていたんです」
くりくりとした瞳を輝かせ、それから少しだけ恥ずかしそうににこりと笑んだ。
なんてかわいらしいのかしら!
光が差しているわけでもないのに黒い瞳はキラキラと輝いていて、ツヤツヤの黒い髪には天使の輪が見えていて。
吸血鬼に天使という比喩もアレだけど。
なんかもう絶妙に母性をくすぐる。
おもいっきりその丸みを帯びた頭を撫でくりまわしたい。
「ギルがそうだからと言って、あなたまで私を『様』と呼ぶことはないわ。私もユリークと呼んでも?」
理性で欲望を抑え込み、平静なフリをしてそう問えば、ユリークは照れたように頷いてくれた。
くっ……!
2万カワイイいただきました!
「ユリークはギルバートの代わりにこの家……っていうかお城を管理してるのよね。使用人もいないって聞いたけど、仕事とか、大変ではない?」
考えてみたら、この城の維持だけが仕事なわけではないだろう。
このような城みたいな邸に住んでいるということは、このあたりの地を統治しているのかもしれない。
いくら分身が作れても、それを動かすのは本人だと言っていたから、そこまで手が回らないのではないだろうか。
ギルバートを執事として留め置いてしまっていることが申し訳ない。
けれどユリークは天使のように笑って「いいえ」と首を振った。
「僕の仕事はここで幅を利かせていればいいだけですから」
「そうなの?」
変な言い回しだなとは思ったけど、吸血鬼のことはよくわからないし、そもそもこれまでやってきたことだ。
今さら私が心配そうにしたって仕方がない。
「それよりもシェリア様。そろそろ食べ終えた方がいいかもしれませんよ」
隣でお茶を飲んでいたギルバートが、ちらりと外を眺めやった。
今朝来客があると言われていたことを思い出す。
「そうだったわね、遅くなってごめんなさい」
せっかく用意してもらったのを残すのも忍びないので、急いで口に運び完食する。
「ごちそうさまでした。あの、食器は……」
侍女がいないのだから何か手伝った方がいいだろうかと思ったが、杞憂だった。
私が言うよりも早く、食器はふわりと浮いて厨房へと運ばれていった。
「私がおりますので、シェリア様はいつも通りに過ごしていただいてかまいません。私はシェリア様の執事ですから」
そうか。
ここではギルバートは自分の力を隠す必要もないのだ。
慣れない私が手を出す方が邪魔になる。
「ありがとう」
謝罪よりもお礼を。
今朝言われた通りにそう告げれば、それでいいのです、と言うようにギルバートが笑んだ。
◇
「たのもーーーーーーう!!」
そんな声が聞こえてきたのは、食事を終えてギルバートの部屋に下がってすぐのことだった。
どこのモノノフかと慌てて窓から外を見下ろせば、そこにはミシェルと父、それから何人か帯剣した護衛らしき男たちが見えた。
どういうこと?
全く状況がわからない。
一体何をどういうつもりでここに来たのか。
パニックになって部屋の外に飛び出し、先程のダイニングに向かう。
扉を開けて駆け込むと、そこにはまだエヴァとユリーク、ギルバートの姿があり、私と同じように窓の外を見下ろしていた。
「ギルバート、ミシェルが!」
「ええ、思った通りお出でになったようですね。少々お相手をしてまいりましょうか」
「いやいや、相手をするって言ったって、何て言うのよ? っていうかきっと私を追いかけてきたのよね? なんでこの場所がわかったのかしら」
疑問だらけだ。
邪魔な姉がいなくなったのだから、放っておけばいいのに。
それにどうしてこの場所がわかったのだろうか。
昨夜の私の悲鳴に気が付いて、空を飛ぶ姿を目撃したのなら、普通はビビって追いかけては来られないと思う。まあミシェルの思考回路を普通に当てはめるのもどうかとは思うけど。
もしかして、ギルバートと私が消えていたから、ギルバートの所にいると推測したのだろうか。
だとしたら、父はギルバートがこの城に住んでいたことを知っていることになる。
そんな執事、怪しすぎて雇うだろうか。それとも納得できるだけの事情があったんだろうか。
思わずギルバートに疑問の目を向けると、平然と何でもないことのように歩き出した。
「騒々しいので迷惑だと伝えてまいりましょう」
「行くなら私が行くわよ。元々ミシェルとも話をしなきゃいけないと思ってたし」
その言葉に、ギルバートはやや目を丸くした。
「冷却期間が欲しいのではなかったのですか?」
「ここまで押しかけて来られて、出ないわけにもいかないでしょ」
一方的に距離を置いたってそれは新たなしこりになるだけだ。
少なくとも、何故その思いに至ったかを話す必要はあると思う。
「ですが、果たして穏便に済むかどうか」
ギルバートの呟きは、私の内心の懸念でもあった。
だけどぐだぐだと引っ込んでいても事態は何も変わらない。
ミシェルと父は、ここまで来てしまったのだ。
なんで父まで来ているのかわからなかったけど。
「お騒がせしてしまってすみません」
エヴァとユリークに頭を下げると、二人は笑って首を振ってくれた。
「よくわからないけど、頑張ってね」
「僕たちのことは気にせず、存分に、思うままにしてきてください」
二人の声援を受け、私とギルバートは玄関へと向かった。
給仕をしてくれたのはギルバート。
この広くて大きな城にはこの三人の他には人の気配がない。
どうやら侍女も使用人もいないようだった。
ギルバートも分身を使って執事と私の護衛とをこなしているのだから、ユリークも同様にしているのだろう。
エヴァとユリークは、私の食事に付き合って、食後のお茶を飲んでくれている。
昨日はばたばたとしていたから――っていうかギルバートが一方的に私を部屋へと連れていってしまったから――、改めていろいろと話をしようと待っていてくれたのだろう。
「昨夜はゆっくり眠れたかしら?」
「はい、気づいたら朝というくらいにぐっすりと寝ました。急にお世話になってしまい、すみませんでした」
見守られながら一人食器をカチャカチャ言わせているのはちょっと忍びない。
けれどユリークが小さな頭をふりふりして「いえ、いいんですよ」と言ってくれた。
「シェリア様はギルの大事な人ですから。僕たちも一度会ってみたいと思っていたんです」
くりくりとした瞳を輝かせ、それから少しだけ恥ずかしそうににこりと笑んだ。
なんてかわいらしいのかしら!
光が差しているわけでもないのに黒い瞳はキラキラと輝いていて、ツヤツヤの黒い髪には天使の輪が見えていて。
吸血鬼に天使という比喩もアレだけど。
なんかもう絶妙に母性をくすぐる。
おもいっきりその丸みを帯びた頭を撫でくりまわしたい。
「ギルがそうだからと言って、あなたまで私を『様』と呼ぶことはないわ。私もユリークと呼んでも?」
理性で欲望を抑え込み、平静なフリをしてそう問えば、ユリークは照れたように頷いてくれた。
くっ……!
2万カワイイいただきました!
「ユリークはギルバートの代わりにこの家……っていうかお城を管理してるのよね。使用人もいないって聞いたけど、仕事とか、大変ではない?」
考えてみたら、この城の維持だけが仕事なわけではないだろう。
このような城みたいな邸に住んでいるということは、このあたりの地を統治しているのかもしれない。
いくら分身が作れても、それを動かすのは本人だと言っていたから、そこまで手が回らないのではないだろうか。
ギルバートを執事として留め置いてしまっていることが申し訳ない。
けれどユリークは天使のように笑って「いいえ」と首を振った。
「僕の仕事はここで幅を利かせていればいいだけですから」
「そうなの?」
変な言い回しだなとは思ったけど、吸血鬼のことはよくわからないし、そもそもこれまでやってきたことだ。
今さら私が心配そうにしたって仕方がない。
「それよりもシェリア様。そろそろ食べ終えた方がいいかもしれませんよ」
隣でお茶を飲んでいたギルバートが、ちらりと外を眺めやった。
今朝来客があると言われていたことを思い出す。
「そうだったわね、遅くなってごめんなさい」
せっかく用意してもらったのを残すのも忍びないので、急いで口に運び完食する。
「ごちそうさまでした。あの、食器は……」
侍女がいないのだから何か手伝った方がいいだろうかと思ったが、杞憂だった。
私が言うよりも早く、食器はふわりと浮いて厨房へと運ばれていった。
「私がおりますので、シェリア様はいつも通りに過ごしていただいてかまいません。私はシェリア様の執事ですから」
そうか。
ここではギルバートは自分の力を隠す必要もないのだ。
慣れない私が手を出す方が邪魔になる。
「ありがとう」
謝罪よりもお礼を。
今朝言われた通りにそう告げれば、それでいいのです、と言うようにギルバートが笑んだ。
◇
「たのもーーーーーーう!!」
そんな声が聞こえてきたのは、食事を終えてギルバートの部屋に下がってすぐのことだった。
どこのモノノフかと慌てて窓から外を見下ろせば、そこにはミシェルと父、それから何人か帯剣した護衛らしき男たちが見えた。
どういうこと?
全く状況がわからない。
一体何をどういうつもりでここに来たのか。
パニックになって部屋の外に飛び出し、先程のダイニングに向かう。
扉を開けて駆け込むと、そこにはまだエヴァとユリーク、ギルバートの姿があり、私と同じように窓の外を見下ろしていた。
「ギルバート、ミシェルが!」
「ええ、思った通りお出でになったようですね。少々お相手をしてまいりましょうか」
「いやいや、相手をするって言ったって、何て言うのよ? っていうかきっと私を追いかけてきたのよね? なんでこの場所がわかったのかしら」
疑問だらけだ。
邪魔な姉がいなくなったのだから、放っておけばいいのに。
それにどうしてこの場所がわかったのだろうか。
昨夜の私の悲鳴に気が付いて、空を飛ぶ姿を目撃したのなら、普通はビビって追いかけては来られないと思う。まあミシェルの思考回路を普通に当てはめるのもどうかとは思うけど。
もしかして、ギルバートと私が消えていたから、ギルバートの所にいると推測したのだろうか。
だとしたら、父はギルバートがこの城に住んでいたことを知っていることになる。
そんな執事、怪しすぎて雇うだろうか。それとも納得できるだけの事情があったんだろうか。
思わずギルバートに疑問の目を向けると、平然と何でもないことのように歩き出した。
「騒々しいので迷惑だと伝えてまいりましょう」
「行くなら私が行くわよ。元々ミシェルとも話をしなきゃいけないと思ってたし」
その言葉に、ギルバートはやや目を丸くした。
「冷却期間が欲しいのではなかったのですか?」
「ここまで押しかけて来られて、出ないわけにもいかないでしょ」
一方的に距離を置いたってそれは新たなしこりになるだけだ。
少なくとも、何故その思いに至ったかを話す必要はあると思う。
「ですが、果たして穏便に済むかどうか」
ギルバートの呟きは、私の内心の懸念でもあった。
だけどぐだぐだと引っ込んでいても事態は何も変わらない。
ミシェルと父は、ここまで来てしまったのだ。
なんで父まで来ているのかわからなかったけど。
「お騒がせしてしまってすみません」
エヴァとユリークに頭を下げると、二人は笑って首を振ってくれた。
「よくわからないけど、頑張ってね」
「僕たちのことは気にせず、存分に、思うままにしてきてください」
二人の声援を受け、私とギルバートは玄関へと向かった。
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