引き換えもの

COCOmi

文字の大きさ
2 / 12

2

しおりを挟む

「万智、今日空いてる?そのバイト紹介してやるよ」
「え、行く行く」
「オッケ。私服かスーツ着て、ゲーセン前に集合な」
「りょうかーい」

放課後田島にそう声をかけられた俺は、そのまま彼と別れて家へと向かう。

スーツは家にあっただろうか。なるべく学生には見えない格好のほうがいいとは言っていた。

(おじさんがスーツを着ていたのをあまり見たことない。タンスの奥深くにしまってあるかも、そしたら皺だらけになっているかもしれないな。やっぱり私服にしよう)



繁華街を抜けると次第に人気が薄くなる。

住宅街さえ通り越して、森ほどではないが、木が散乱と生えた山道へ進む。
数分ほどすると高い針葉樹の中にぽつんと小さな一軒家が見えてくる。

これが俺の家だ。

こんな奥迫った場所に地元の人間もやってこない。



俺は鍵を開けて中に入った。
家の中はやはり静かで、おじさんがいつも仕事で乗っているトラックがなかったから当たり前か、なんて思った。

俺は自室に向かい、さっさと制服から着替える。
おじさんは確か今日は帰って来ず、明日の朝に帰ってくると言っていた。彼は運送業の仕事をしていて、長時間家を開けがちなのだ。

(おじさんも給料ほどほどだしなぁ…)

俺にお小遣いをくれるおじさんだが、おじさんは大した給料をしていない。独身と俺で暮らして行くにはそれは質素な生活で、遊ぶ金をそこまではもらっていない。俺がむしろお金を工面してあげたほうがいいかもしれない。

俺はそう思えば、無難にYシャツと黒に近い紺のジーンズへと着替え、そそくさ家から集合場所へ向かった。






「それで、仕事内容はわかった?」
「うん、大方」
「オッケー。ならとりあえず暇そうにしてるねーちゃんに軽く声かけな。いい子が捕まったら俺にすぐ連絡して、上の人呼んで連れて行ってもらうから。あと、相手が嫌がったり警察が来そうな雰囲気がしたらすぐ引き上げる。いいな?」
「大丈夫!」
「よし、じゃあ頑張って!」
「はーい」

俺は田島につけられたクシャクシャのワックスを軽く弄りながら返事した。
とりあえず「女の子」を見つけようと、繁華街の方へ向かう。


田島に空き教室で告げられたのは「風俗の斡旋」のバイトだった。
一眼を憚ったのは、それが犯罪と言われるべき行為でもあるからだろう。
軽くいえばスカウトマンの仕事で、お金に困っていたりバイトをしそうな女の子に声を掛け、キャバ嬢や風俗を勧める。俺らは声をかけて店の前まで誘導するまでが仕事だ。その声掛けが上手くいけば、そのまま1件で手渡し2万もらえる。田島の話によると上手くいけば3時間以内に10万も稼いだ先輩がいるという。とても割の良いバイトだ。

俺はその話に二つ返事で乗った。
女の子に声をかけて、店前まで連れて行けばいいだけの仕事。自分が何か危険な行為を迫られたり、その女の子が店でそのあと働かなくとも、一回体験入店させれば金が来るのだ。そんな美味しい話はない。


俺はフラフラと街の中を歩いていた。

こうやって見ると、1人で立っている女の子はちらほらといる。
とりあえずそれとなく話しかけてみる。

……しかし人生はそんな甘くないもので、話しかけても無視されたり、用事で待っているだけだと断られてしまう。案外簡単にはいかない仕事のようだ。

そうして2時間ぐらい立った時だ。通話音が鳴り出した。田島だ。

「もしもし?」
「あ、万智?捕まった」
「いや、全然何人かに声はかけてみたけど完璧に無視された」
「うわー、万智でも初めはそうか。いきなり実戦はやっぱり無理だよな。俺さっきのゲーセンの前にいるから戻ってこいよ。コツでも教えてやる」
「お、まじか。ありがたい~。今から向かうわ」

そう通話を切って、田島のいるゲーセン前へと向かう。
何度も通っているこの繁華街で、すぐゲームセンターの前にたどり着いた。


田島がキョロキョロと辺りを見渡しながら立っており、俺が近づけばすぐに気づいた。

「お、お疲れ~万智。やっぱり厳しそうだったか」
「うん、あんなに話しかけて無視されたの初めて。俺そんなに怪しい?」
「まあ、突然知らないやつに話しかけられたらビビるっしょー」

そう言ってパンパンと背中を強く叩かれる。初めて見た田島の私服は思ったよりヤンキー感があった。
「それで田島は誰か見つけたの?」
「ああ、うん一人は紹介した。ほら、その場で2万ゲット」
「え!」

驚いた。こんなチンピラみたいな格好している田島について行った女子がいるのか。俺だったらついていかないぞ。
そんな失礼なことを思っているのがバレたのか、田島はおちょくったようにこちらをみてくる。

「お前、なんだよその意外!みたいな顔は。これでも一応お前より数ヶ月は先輩なの、俺はー。今日は平日だし、そろそろ店も混み始めるからバイト終了するぞ」
「ええー…俺1円ももらってないんだけど」
「そんなのザラにあるって。でも次回その分貰えばいいわけだし。帰りながら俺が教えてやるよ」
「そっか。教えてよ田島センパーイ」
「お前、馬鹿にしてるな?」



そう言いながらも田島はあれこれと俺に教えてくれた。

どうやら俺のこのうっすい顔は印象が薄くて声をかけても魅力に感じないそうだ。確かに田島の極悪人顔(本人には絶対言わない)に比べれば、俺は特筆しない顔をしているだろう。冬織のように綺麗な顔やイケメンでなければ彼女たちもわざわざ立ち止まって話は聞こうとしないらしい。人間って顔だよな。

ならばこの平凡な顔を生かして、一般人のように声をかけるほうがいいのではないかと田島は提案してきた。背も特別高くなく、ガタイがいいわけでもない俺は、困った顔をすれば親近感を寄せて話を聞いてくれるだろう、と。


その提案を聞いた俺は、翌週、もう少し普段着に近い軽めのTシャツとズボンを着用した。髪も今回はワックスなどつけないで派手にせず、あくまで普段通りの自分の格好である。

本当に今から風俗の斡旋をしに行くのか?というほどのラフな格好だったが、田島と別れてチャレンジしてみることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り

攻め→→→→←←受け

眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。

高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。

有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。

美形でヤンデレなケモミミ男に求婚されて困ってる話

月夜の晩に
BL
ペットショップで買ったキツネが大人になったら美形ヤンデレケモミミ男になってしまい・・?

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

処理中です...