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来の屋敷編
見知らぬ狸1
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まだ慣れぬ茶の髪に違和感はあるものの使用人達は俺を異国人の者だと受け入れた。白い髪の末っ子はまだ閉じ込められていると思っている彼らは俺が日本へやってきた外人と勘違いしたようだ。
使用人達に教えられ竹箒で庭の掃除をさせられる。
朝貴の言っていた俺の条件とは使用人として仕事をこの家で行うことだった。使用人として毎日働き、きちんと生活を送れるならば俺がこの家ですむことを許されたらしい。今は殊夜兄上が1番の権力者だ。彼がそれを許したのが1番の驚きだった。
薄紫の着物を纏った次男が縁側へ顔を出した。
「来、今日も頑張っているね」
「朝貴様、おはようございます」
今の来は使用人として挨拶しなければならない。朝貴は何も言わず微笑んでいた。
朝貴はそのまま縁側へ腰掛ける。俺がいたら邪魔かと移動しようとすると、「使用人の来さんは次男坊のお喋りに付き合ってよ」と言われ、少し悩んだが掃除をそのまま再開した。
「来、外国に行ってみたいと思うかい?」
「外国…ですか」
足を地面につけるように、座る朝貴は来を見て頷いた。
「俺は…別に」
「そうなの?外国は凄いらしくてね、日本にはない緑や動物。様々な道具があって、街の景色も全然違うらしい」
へえ…とぽつり来は呟いて、それはどんな光景なんだろうと思った。
「僕、昔から実は動物に興味があって。異国では日本と違う種の動物がたくさんいるそうなんだ。しかも、医療も発達しているらしくて…」
朝貴はペラペラと口を動かし話が止まらない。
俺はそんな朝貴をあの中ではあまり見たことがなかったから、掃除の手をやめて朝貴を見つめてしまっていた。
朝貴は黙ってこちらを見つめる来に気づいて言葉を止めた。そしてすぐに顔を真っ赤にして俯かせ、耳より長い髪をさわさわと触った。
「ご、ごめん…こういう話なかなか人前で出来なくて…つい話しすぎちゃった」
「い、いえ…そんなに外国に興味があるのですか?」
「う、うん…夕晴が今蘭へ行っているだろう?あちらの方では蘭以外の国の人間が夕晴と同じように訪れているらしくて、たくさん話を聞かせてもらったんだ。それを聞いてたらますます興味が湧いてきて…」
「そうなんですか。それなら一緒に蘭へ行ってみたらどうですか?」
朝貴は俯かせていた顔をバッとあげた。まだ顔はやんわり赤くなっている。泣きそうな朝貴の瞳がこちらを向いていた。
「来は…来は僕が異国へ行ったらついてくる?」
(俺…?)
来は突然の投げかけに困惑した。なぜ朝貴が異国へいくのに俺が出てくるのか。
「朝貴様が付いて来いというのなら」
来は無難にそう回答した。
朝貴はその回答に納得いかない表情を浮かべたが、「来は優しいね」と曖昧に微笑んだ。
それからしばらくあちらにはどういうものがあるのかという話をした。朝貴は地下のときのように俺の話す言葉を真摯に受け止めて、会話を弾ませた。
海外の汁物が味噌を使わないという話をしていた時だ。遠くからやってきた使用人が朝貴に声をかけた。耳元で何かを伝えている。
朝貴はわかったと使用人に頷くと、着物の裾を整えながら立ち上がった。
「来、ありがとう。またお話に付き合ってくれると嬉しい」
「こちらこそ、ありがとうございます」
深くお辞儀をすると、朝貴はそのまま家の中へと入っていった。
見えなくなった背に、薄紫の着物はとても朝貴に似合っていたと思った。
使用人達に教えられ竹箒で庭の掃除をさせられる。
朝貴の言っていた俺の条件とは使用人として仕事をこの家で行うことだった。使用人として毎日働き、きちんと生活を送れるならば俺がこの家ですむことを許されたらしい。今は殊夜兄上が1番の権力者だ。彼がそれを許したのが1番の驚きだった。
薄紫の着物を纏った次男が縁側へ顔を出した。
「来、今日も頑張っているね」
「朝貴様、おはようございます」
今の来は使用人として挨拶しなければならない。朝貴は何も言わず微笑んでいた。
朝貴はそのまま縁側へ腰掛ける。俺がいたら邪魔かと移動しようとすると、「使用人の来さんは次男坊のお喋りに付き合ってよ」と言われ、少し悩んだが掃除をそのまま再開した。
「来、外国に行ってみたいと思うかい?」
「外国…ですか」
足を地面につけるように、座る朝貴は来を見て頷いた。
「俺は…別に」
「そうなの?外国は凄いらしくてね、日本にはない緑や動物。様々な道具があって、街の景色も全然違うらしい」
へえ…とぽつり来は呟いて、それはどんな光景なんだろうと思った。
「僕、昔から実は動物に興味があって。異国では日本と違う種の動物がたくさんいるそうなんだ。しかも、医療も発達しているらしくて…」
朝貴はペラペラと口を動かし話が止まらない。
俺はそんな朝貴をあの中ではあまり見たことがなかったから、掃除の手をやめて朝貴を見つめてしまっていた。
朝貴は黙ってこちらを見つめる来に気づいて言葉を止めた。そしてすぐに顔を真っ赤にして俯かせ、耳より長い髪をさわさわと触った。
「ご、ごめん…こういう話なかなか人前で出来なくて…つい話しすぎちゃった」
「い、いえ…そんなに外国に興味があるのですか?」
「う、うん…夕晴が今蘭へ行っているだろう?あちらの方では蘭以外の国の人間が夕晴と同じように訪れているらしくて、たくさん話を聞かせてもらったんだ。それを聞いてたらますます興味が湧いてきて…」
「そうなんですか。それなら一緒に蘭へ行ってみたらどうですか?」
朝貴は俯かせていた顔をバッとあげた。まだ顔はやんわり赤くなっている。泣きそうな朝貴の瞳がこちらを向いていた。
「来は…来は僕が異国へ行ったらついてくる?」
(俺…?)
来は突然の投げかけに困惑した。なぜ朝貴が異国へいくのに俺が出てくるのか。
「朝貴様が付いて来いというのなら」
来は無難にそう回答した。
朝貴はその回答に納得いかない表情を浮かべたが、「来は優しいね」と曖昧に微笑んだ。
それからしばらくあちらにはどういうものがあるのかという話をした。朝貴は地下のときのように俺の話す言葉を真摯に受け止めて、会話を弾ませた。
海外の汁物が味噌を使わないという話をしていた時だ。遠くからやってきた使用人が朝貴に声をかけた。耳元で何かを伝えている。
朝貴はわかったと使用人に頷くと、着物の裾を整えながら立ち上がった。
「来、ありがとう。またお話に付き合ってくれると嬉しい」
「こちらこそ、ありがとうございます」
深くお辞儀をすると、朝貴はそのまま家の中へと入っていった。
見えなくなった背に、薄紫の着物はとても朝貴に似合っていたと思った。
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