白い化け物は彼を愛せない

COCOmi

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来の屋敷編

長男と次男(殊夜視点)

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薄紫の着物をきた黒髪の男が部屋の前で立っていた。こちらへ真っ先に気づいて笑みをこぼす。
「殊夜兄様、お帰りなさい」
愛しい次男へ「ただいま」と答えた。



23になった殊夜は幼い頃から神童と一家から讃えられ、ついに当主として君臨した。
全ては腑抜けて酒と女に溺れた父が全く持って役に立たなくなってしまったからだ。
俺を当主へと最後に後押しした叔父は祝い酒だと日本酒を猪口に注いだ。
無言で口をつける。味は上質だか特に上手くはない。早く叔父の満足をさせて、家で待つ愛しい次男をこの手で抱きしめたかった。
「そういえば夕晴はしっかりと勉強しているか」
叔父が自分の猪口にも酒を注ぎながらそう尋ねる。
「ついこの前戻ってきていたようですが、蘭の国だけではなく英など他の国の人間とも積極的に交流しているようです」
「そうかそうか。足りないものがあればまた出資しよう。夕晴にそう伝えておいてくれ」
叔父はふふん、と上機嫌に酒を煽る。叔父は俺ら3兄弟と初めて会った時から夕晴に目をつけていた。次男にうまくすがり、長男の俺の機嫌も上手にとる夕晴の、賢さと他人を自分の思い通りに動かす才能を誰よりも早く見抜いた。多額の資金を払い、夕晴の海外留学を決定させたのもこの叔父だった。叔父は商売にうるさくそういう経済的な管理や流通を掴むのはとてもうまい。金になる夕晴を手駒にしようと考えているのだろう。
「そういえばあの、気が薄い次男はどうしてる」
質問ばかりするなと苛立つが酒を口に含んで冷静に答えた。
「朝貴は細かい管理をするのが得意なので、家の管理をさせています。なにゆえ取引なども多くなってきて自分が本家を見ている時間もないですから」
そうか、と叔父は自ら聞いてきたくせにその内容はどうでも良さそうに流した。
朝貴のことは静かだが華がないと昔から叔父は言っていた。あんなに可愛らしい子をどう見たらそう思うのか。何事もまっすぐで俺たちを大きく受け入れてくれる朝貴を。しかし、夕晴のように目をつけられては困るので、特に反論することもなくそのままにしておいた。
それから数刻ほど酒を飲み交わし、ベロベロになった叔父を迎えにきた馬車に乗せ、俺も帰宅路へと向かった。




「朝貴、疲れた…」
「殊夜兄様、まるで赤ん坊のようですよ」
シャツのボタンを2つ3つ外し、朝貴の薄紫の太ももへ頭を預けた。膝枕の状態で朝貴を見上げる。少しつり目の細長い目元に朝貴の空いた手を自ら当てた。
朝貴はそのまま幼な子を撫でるように優しく頰や髪を梳く。暖かい朝貴の右手が心地よくて目を閉じる。
しかし、クスリ、と笑った声が聞こえて目を開けた。朝貴は少し目元を崩して軽く笑みを浮かべている。
「なんだ…」
「いえ、いつもの兄様らしくないな、と」
おそらく、表で皆の前に立つ自分のことを言っているのだろう。凛とした背に涼しげな切れ長の目、黒髪に細高い鼻と薄い唇。まるで人形のような容姿に冷静に淡々と話すその仕草は、圧倒的に人の上に立つ威厳さを出している。
笑う朝貴の口元の左手を掴んだ。
朝貴は上機嫌に笑うとき口元に手をやる癖がある。大体は冗談を面白がっている場合だが。
朝貴の左手は掴んだまま、器用に起き上がる。座った朝貴と同じ高さに自分の頭がくる。
「甘えられるのはお前の時だけだ」
左手をそのまま顔の方へ持って行き手のひらの付け根に優しく口付けた。
朝貴は笑うのをやめて穏やかにほくそ笑む。
「わかっていますよ、殊夜兄様」
俺はまだ離したくないと朝貴の手を口元へおおった。
何もかも上手く思い通りに行けば良いのに。

「今日は何かあったか?」
そう問えば、「何事もなかったですよ、平和でした」と朝貴は答えた。






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