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来の屋敷編
見知らぬ狸2
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俺は使用人としてよく働いた。庭の掃除や洗濯、その他雑用など様々な仕事を毎日取り組んだ。体を動かすことで筋肉がつき、少し気持ちの余裕も現れた。女の使用人達はよく声をかけてきては「今日も頑張ってね」と俺に愛想を振りまいてきた。
先ほどは、ある女から合間に作ったから食べてと袋包みを渡された。開けてみると、中には団子が入っている。生まれて初めて女から何かもらったから俺は少し戸惑った。そこへたまたま通りかかった朝貴に事情を話すと「食べてお礼を言ってやりなさい」とニコニコと微笑まれた。その笑顔がなんだか気持ち悪くて俺はからかわれた腹いせに、他人に見られないようこっそり朝貴のお腹へ肘をいれた。
朝貴の暇つぶしに俺は仕事をしながら言葉を交わす。最近では部屋の前の花を世話するのが大変だからと、朝貴の隣に並んで草いじりをさせられる。細くて男にしては角ばっていない綺麗な指が、優しく花に触れる。今度は野菜でも植えて皆で食べたいなぁと呑気に朝貴は笑った。
「朝貴様はなんで俺にも優しくするんですか」
隣で朝貴の顔がキョトンとした。その呆けた顔に意味が通じてなくてもう一度いう。
「なんで嫌われ者の俺に朝貴様は優しくしてくれるんですか」
昔からの疑問だった。憎しみにかられていた俺でも自覚はしている。
「来は嫌われ者じゃないだろ。今日だって女子から菓子ももらって」
「そういうことじゃない。初めから貴方は優しかった。閉じ込められてもなお俺に優しかった。それは同情からなんですか?」
小煩い夕晴が蘭へ飛ぶ前言っていた。朝貴はか弱い生き物を見捨てられない性格なのだと。
醜いお前が朝貴の関心を持てているのも、可哀想なお前を守ってやらなきゃいけない義務感からだ。おかげで、わざと弱い弟のふりをしていた俺の苦労が水の泡になった。弟よりも可哀想な境遇の化け物がきたらそちらを朝貴は守らなきゃいけないんだから。
朝貴の憎しみを抱きながらも俺は随分とその言葉に打ちのめされた。
理解できない彼の優しさ。死にたかったのにこうやってまだ生かされている自分。理由が欲しかった。偽りでもいいからせめてもの名前を。
ぽとり、と雨粒が地面に落ちて溶けた。
朝貴の顔を見れば来が見る2度目の涙がそこにあった。
「なぜ、同情だなんて言うの…来は何もわかってくれていなかったの……」
ぼとりぼとり、と大粒の涙が溢れる。地面はどんどんその涙で潤んでいき、朝貴の目や鼻が赤くなった。
俺は思わず涙を止めたくて手を伸ばした。しかし、その指は土で汚れていて彼に触れることはできなかった。
朝貴はそのまま下を向いて顔をしばらくの間うずくめると、今はどこか行ってくれと言い放った。使用人の俺はただ大人しくそれに従うしかなかった。
先ほどは、ある女から合間に作ったから食べてと袋包みを渡された。開けてみると、中には団子が入っている。生まれて初めて女から何かもらったから俺は少し戸惑った。そこへたまたま通りかかった朝貴に事情を話すと「食べてお礼を言ってやりなさい」とニコニコと微笑まれた。その笑顔がなんだか気持ち悪くて俺はからかわれた腹いせに、他人に見られないようこっそり朝貴のお腹へ肘をいれた。
朝貴の暇つぶしに俺は仕事をしながら言葉を交わす。最近では部屋の前の花を世話するのが大変だからと、朝貴の隣に並んで草いじりをさせられる。細くて男にしては角ばっていない綺麗な指が、優しく花に触れる。今度は野菜でも植えて皆で食べたいなぁと呑気に朝貴は笑った。
「朝貴様はなんで俺にも優しくするんですか」
隣で朝貴の顔がキョトンとした。その呆けた顔に意味が通じてなくてもう一度いう。
「なんで嫌われ者の俺に朝貴様は優しくしてくれるんですか」
昔からの疑問だった。憎しみにかられていた俺でも自覚はしている。
「来は嫌われ者じゃないだろ。今日だって女子から菓子ももらって」
「そういうことじゃない。初めから貴方は優しかった。閉じ込められてもなお俺に優しかった。それは同情からなんですか?」
小煩い夕晴が蘭へ飛ぶ前言っていた。朝貴はか弱い生き物を見捨てられない性格なのだと。
醜いお前が朝貴の関心を持てているのも、可哀想なお前を守ってやらなきゃいけない義務感からだ。おかげで、わざと弱い弟のふりをしていた俺の苦労が水の泡になった。弟よりも可哀想な境遇の化け物がきたらそちらを朝貴は守らなきゃいけないんだから。
朝貴の憎しみを抱きながらも俺は随分とその言葉に打ちのめされた。
理解できない彼の優しさ。死にたかったのにこうやってまだ生かされている自分。理由が欲しかった。偽りでもいいからせめてもの名前を。
ぽとり、と雨粒が地面に落ちて溶けた。
朝貴の顔を見れば来が見る2度目の涙がそこにあった。
「なぜ、同情だなんて言うの…来は何もわかってくれていなかったの……」
ぼとりぼとり、と大粒の涙が溢れる。地面はどんどんその涙で潤んでいき、朝貴の目や鼻が赤くなった。
俺は思わず涙を止めたくて手を伸ばした。しかし、その指は土で汚れていて彼に触れることはできなかった。
朝貴はそのまま下を向いて顔をしばらくの間うずくめると、今はどこか行ってくれと言い放った。使用人の俺はただ大人しくそれに従うしかなかった。
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