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陸上
足の怪我1
しおりを挟む体育祭は閉会式を終えて、生徒や保護者は一部帰り出していた。
一方、充希は体操着のまま鞄を持って保健室の前に立っていた。ゆっくりと保健室のドアを開ける。
中には複数名の生徒たちと保健室の先生が一人、そして中央に作り笑顔をする真悠がいた。
「まゆ、本当に大丈夫かよ!」
「俺たちも病院について行くしさ」
「うん、でも大丈夫…ありがとう」
眉を下げて笑っている真悠の姿はやはり元気がなさそうに見えた。真悠はパイプ椅子に座りながら片足を抱えていて、その足首には包帯が大きく巻かれている。真悠は最後のリレーで足を怪我してしまったのだ。
周りが必死に真悠へ声をかけていると、ふと真悠が気配に気付いてドアの近くにいた充希を見つけた。
充希は真悠と目が合う。
その瞬間、平静だった真悠が顔を歪めた。
「充希っ!!」
真悠は充希の方に手を伸ばし、椅子から体を前のめりにする。しかし、足を怪我した真悠は歩くことができないどころか体も支えられない。そのまま椅子から滑り落ちて勢いよく床へ倒れ込みそうになる。充希はその様子に慌てて真悠の方へ走った。
真悠はなんとか周りにいた生徒たちに支えられるのが間に合って事故を防ぐことはできた。しかし、力なくしたように顔は下を向いて項垂れている。
充希が床に手と足をついた真悠はそっと近寄ると、真悠は充希へそのまま手を伸ばし強く抱きついてきた。
「まゆっ…」
「充希っ!充希、充希っ…みつきぃっ……」
無我夢中で自分の名を呼ばれながら真悠に強く抱きしめられる。
真悠の今までに見たことない姿に充希は驚いた。いつもニコニコと穏やかな笑顔を見せる真悠が激しく取り乱している。真悠は充希の体を強く自分の腕の中に仕舞い込むと、気持ちが耐えきれなくなったのかくぐもった声を上げて泣き出してしまった。
充希はその様子に、どうしたのかとしがみつく真悠の背を急いで撫でて落ち着くよう促す。周りの人間も普段悠々としている真悠が感情を大きく露わにして取り乱している様子を見て、呆然としている。そこで、保健室の教師が真悠と充希を取り囲んでいた生徒に声をかける。
「ほら、真悠くん結構精神的ショックを受けていると思うから、皆がいると辛いでしょ。今日はとりあえず貴方達帰りなさい」
他の生徒たちは、少し不安そうだったり奇妙な空気感を抱えてはいたが、先生に言われるまま大人しく保健室から出て行った。充希はその様子をみていたが、真悠はいまだにしがみついていて、地面に座り込んでいた。
生徒達を帰した教師はもう一度充希達のことを見ると、充希へやんわり話しかけてきた。
「うーん…やっぱり真悠くんの具合よくなさそうだから、ちょっと病院に連絡してくるわね。申し訳ないんだけど、その間真悠くんのことお願いしてもいい?」
充希は断れるわけもなく「わかりました」と承った。泣いた子供のように震える真悠の背を優しく撫でる。
お願いね、といった教師は書類を持ってドアを開けて保健室から離れた。真悠と2人きりになり、静かな保健室には真悠のすすり泣く音だけが響いた。
「真悠?どうしたの?」
充希はそっと腕を離しながら真悠の顔を伺おうとする。涙で長いまつ毛を濡らして下を向く真悠はまた芸術品のような美しさがあった。
「真悠…」
「充希、俺のこと嫌いになった…?」
ゆっくりと顔をこちらに向けた真悠はまだ涙で濡れた瞳でそう言った。
「ど、どういうこと?」
「俺は充希のことだけ見てた……でも、充希は俺なんかどうでもいいんでしょ?しかも足だって使えなくなって…こんな俺、余計充希にとってはいらないよね…リレーだって負けて、充希は俺を見放したでしょ」
「ま、待って、真悠、よくわかんない…!なんの話…?!」
「選ばれなかった…選ばれなかったんだ俺は、俺は充希にとってダメなんだ。充希には俺よりも他に…」
真悠は顔色をさらに青くして呟いた。
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