努力も愛も賜物

COCOmi

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陸上

足の怪我3

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○○○○○○○○

真悠はあれから徐々に明るさを取り戻していった。
初めの頃は俺が何か真悠を世話したり手伝うことに抵抗感を感じていた真悠だったが、俺が毎日学校帰りに通い真悠のことを何度も励ましていると、次第に気持ちが前向きになったのか、前のような穏やかさを取り戻し始めた。
さらに最近では甘えるということを学んだのか、俺が苦手なウサギのリンゴを作ることせがんでくるようになった。
真悠は俺が下手な手つきでリンゴを剥くのをじっと見つめるのが楽しいらしい。こんな不器用な姿で下手なものを真悠に出すなんてとても恥ずかしく嫌なものは嫌だったが、真悠が楽しければ…喜んでくれるなら…と要望に何度も応えた。


真悠は約1週間で少し甘えたな感じにもなった気がしたが、努力もしているようだ。治療に専念したおかげで、退院するタイミングにもう松葉杖で普通に歩行できるらしい。もちろん完全に治るまで、真悠の手助けはするつもりだ。真悠に頼られるのであれば、必ず。




それは真悠が入院して5日目の昼休みだった。
ご飯を食べ終え、出された数学の宿題を終わらせようと解いていると、突然肩を叩かれた。

「あ…充希くん、3年の先輩が呼んでる」
「え…?」

3年生?
帰宅部の充希はもちろん上級生との接点はない。強いて言うなら体育祭などのようなイベントごとだけだ。
教えてくれた同級生に礼を言って、とりあえず廊下の方へ向かう。
1人だけかと思いきや10人ほどズラッと先輩が待っていた。それに充希はびっくりしてしまった。な、なにごと…。やっぱり引っ込もうかなと思う前に、先に先輩に見つかってしまった。

「充希、久しぶり」
「?あ…あぁ!竹下先輩」
「元気してたか?」
「は、はい!」

充希に声をかけた、群の先頭にいた3年生は充希の知っている先輩だった。中学の部活の先輩だ。中学の時と体格も見た目も変わってすぐにはわからなかったが、大らかそうなオーラが先輩だとわかる。

「充希、お前陸上部入らなかったみたいだな。遼がずっと悲しんでんぞ」
「す、すみません。勉強に集中したくて…」
「はは、なんかそれも充希らしいな」
「そ、そうですか?…あ、そういえば俺に何か用事ですか?」

俺がそう聞くと、急に先輩は躊躇いがちに俺を見ると、口を開く。

「お前、真悠の見舞い行ってんの?」
「真悠ですか?あ、はい。一応毎日…」

そう充希が答えた瞬間、竹下以外の3年生たちがざわざわと騒ぎ出す。
何かおかしなことを言ってしまったのだろうか…。
急に不安になって充希は顔を俯かせる。それに気づいた竹下が慌てて充希の肩を叩いた。

「いや皆驚いただけだ、気にすんな。実はちょっと真悠の件で充希に頼み事があってな」
「真悠の…」

俺はそう聞いて少しばかり気分が下がってしまう。てっきり自分に何かあると思ったが、そりゃそうだ、真悠は竹下の陸上部の後輩じゃないか、俺に直接的な用事があるわけない。
それでもガッカリしてしまった自分がいて、気を払うようにそのまま先輩に問うた。

「真悠がどうかしたんですか?」
「実は、これを真悠に渡してくれないか?」

そう言って竹下は白い封筒を渡してくる。
目でこれはなんだと竹下を見つめると、竹下は親切にも答えてくれる。

「陸上の大会のやつなんだが、真悠にリレーに出て欲しいんだ」
「!」

充希は驚いて目を見開く。
陸上大会は高校陸上で大切なイベントで、インターハイにも関わる大会だ。リレーとなると、経験を重ねた3年生が出場する事が多いが…。

「真悠の実力は俺ら以上だ。特にこの大会は俺らにとっての最後の試合。ここで勝てなきゃ俺らの陸上はこれで終了になる。真悠に大会へ出てほしいんだ」

真剣に言う竹下に充希は言葉を失くす。
あれほど出たかったリレー。真悠はチームメンバーと息を合わす練習どころかまともにバトンの受け渡しすら練習してないはずだ。普通に考えれば、1年生のしかも未経験者を試合に出すなんて危うすぎる。しかし、それを踏んだとしても、真悠の実力はそのリスク以上に高いのだろう。たくさんの先輩を差し置いての抜擢だ。
真悠はそんな地位にあっさりとついてしまったと言うのか?


「そ、それなら…先輩たちが直接伝えに行った方がいいんじゃ…」

失礼も承知で、充希は竹下達に言う。
充希や手紙で間接的に伝えるよりも本人達が直接真悠へ頼めばいいじゃないか。部活の関係者でもないのに、なんでわざわざ俺にいわせるんだ。

「実は、俺たちも真悠へ会いに行ったんだが、面会謝絶されてしまってな…」
「え…真悠が?」
「ああ、見舞いですら、何日か訪ねたが、誰1人入れてくれなかったよ」

竹下はそう言って苦笑する。
信じられないと思ったが、3年たちが先ほど騒いだのがその理由だ。竹下達は全く真悠に会えなかったのに、充希だけが真悠の病室へ訪れていた。

(どうしてそんなことをするんだ、真悠…)

そう言われてしまえば、もう充希は断れないだろう。竹下達の気持ちもよくわかる。この大会に全てを賭けたからわざわざ真悠に頭を下げようと足を運んだだろう。しかし、肝心の真悠は会うのを断ってしまった。充希に縋りたくなる気持ちもわかる。一方で真悠が会いたくないと拒否してるのには、何か彼らに理由があるんじゃないかとは思った。

それでも、結局充希は竹下が差し出した封筒を受け取った。

「っ充希、ありがとう!真悠には好きな順番を選んで出すよう伝えてくれ。まあ、バトン練習をしてもほぼ間に合うか分からないからスタートか最終しか選択肢はないと思うが…」
「わかりました、そう伝えます…」

竹下は充希の手を取ってもう一度ありがとうと感謝を伝えた。握られた手の力は強く、それは彼らが本気だと分かってしまってより複雑な気持ちになってしまった。





そうして、陸上部の3年たちとわかれて、しぶしぶ教室へ入った。

「わっ」

すると、扉すぐ横に3人の生徒が立っていた。それに気づかなかった充希は声を上げてびっくりしてしまう。

充希が驚いてるのも気に留めずクラスメイトはこちらへ近づいてきた。よくよく顔を見れば、体育祭で嫌がらせをしてきた陸上部の3人だ。

「な、なに」
「…お前さ、真悠とどういう関係なの?なんで部活の同期の俺らとか先輩が会えなくて、何にも関係ないお前だけ真悠と会ってんの?」
「それにクラスメイトとか教師も会えてないって聞いたんだけど。お前だけってすげー怪しくね?」
「え…?」

クラスメイトや教師まで面会を拒否しているなんて知らなかった充希は、うそだろ…と言葉を漏らす。真悠は依然と変わらない態度で俺を迎え入れてくれていたから、俺以外の人間へ拒否してるなんて思いもしなかった。

「嘘じゃねえよ。まじでお前なんなの?ずっと真悠にひっついてるし。ホモかなんか?お前が会うなって真悠に駄々こねたわけ?」
「なっ…そんなこと言ってない!なんでそうなるんだよっ」

彼らが自分に敵意を向けているのはわかっていた。しかし、突拍子もないことを言われ、思わず語尾が強くなる。
同級生はそんな様子も気にせずペラペラと囃し立てる。

「真悠って優しいからさー。お願いされたらほっとけなさそうだよなぁって。あ、それともなに?ホモなりのオネダリした感じ?」
「そういやさ…お前らお揃いのネックレスしてるよな。もしかして、ガチのやつだったりして…」
「は?まじで?充希やばくね?」

ネックレスがお揃いであることや、図星な点がいくつかあって思わず息を呑んでしまう。怪しまれるのが怖くて、慌てて俺は声を上げた。

「…っ!体育祭のときっ、俺に球を投げてきたのお前たちだろ…っ!そんな言いがかりつけて…なにが気に食わないんだよ!」
「はぁ?なんの話?意味わかんないんだけど」
「え?なに?俺らがお前を虐めてる、って言いたいわけ?」
「ちょー渋いんだけど」
「…っ…」

全く謝ろうとしない態度に怒鳴りつけたくなったが、拉致があかないと思い踏み止まる。いくら否定したところで彼らはきっと聞き入れてくらないだろう。反抗したところで3対1。圧倒的にこちらの方が不利だ。


「…君たちがシラを切るなら、俺もなんで真悠が面会謝絶してるか、知らないから…っ。直接本人に聞いて」
「は?聞けないからお前に聞いて……おいっ!」

これ以上ちょっかいをかけられるなんて溜まったもんじゃないと俺は急いで教室を飛び出した。そのままトイレの個室に駆け込む。
昼休みはまだ20分もあったが、連中に絡まれたくなくて、結局俺は休みが終わるまでトイレに隠れていた。






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