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陸上
足の怪我5
しおりを挟む今日も1人で学校へ向かう。真悠は明後日ごろには退院だ。
松葉杖を支給されての生活になるらしい。
真悠はまだしばらく1人で行動できない。それまで自分が助けなきゃ、とぼんやり考える。
真悠は自分がうまく動けないことにまた落ち込まないだろうか。真悠は案外プライドが高いようで、人に弱みを見せるのを嫌うということがここ最近にわかった。
最初は取り乱していたものの、充希へ頼ることをやっと慣れてきたのに、学校に来て大勢の人間に囲まれた時、彼は大丈夫なのだろうか。
親も仕事が忙しくて、結局家に帰ってきていないようだ。
尚更不憫な真悠に、俺は同情せざるを得ない。真悠の弱い部分を見せられて、充希は真悠のことを気にかけていた。
しかし、ぼんやりとしていたのがまずかった。
「充希っ」
突然名前を呼ばれて顔をあげてみれば、竹下が立っていた。
(まずい)
充希は咄嗟にそう思ってしまう。
真悠にはリレーのことを断られてしまった。
竹下にどう言えばいいのかわからない。
思わず顔を俯かせてしまうと、竹下は勢いよく肩を掴んできた。
「真悠が部を辞めると急に言い出した!お前何か知ってるのか?」
「真悠が…?!」
リレーを断るどころか、部活を辞める話まで彼らにしたのか…!
充希は動揺して言葉が出ない。
竹下は俺が黙ってしまうのを見て、顔を一気に強張らせた。
「知ってるんだな、充希。なんで真悠は辞めるって言ってるんだ」
「っ、あっ…えっ、と…」
「なぁ、教えてくれ。真悠は何も教えてくれないんだ」
ガッと肩を掴まれ、逃げられなくなってしまう。
充希は顔を真っ青にするしかない。
どう言えば納得してもらえるんだろうか。真悠は陸上部に興味を無くしてしまった、とか、今回の怪我で陸上をすることが怖くなってしまった、とか…?だが、嘘を吐いてもいつかバレてしまうのではないだろうか。それなら素直に経緯を話すか?「全部俺のせいだ」と素直にいうなんて、それこそ馬鹿馬鹿しすぎる。
どうすればいいんだ。どうすれば。
汗だけがダラダラと額を伝っていく。
竹下の食い入る目が恐ろしい。彼らは必死なのだ。これで最後の試合になってしまうかもしれない。最後の頼みの綱なのだ。それだけ彼らは盲目に真悠を求めていた。
俺はその事実に目を瞑ることは、やっぱり、できなかった。
「リレー……リレーの件、もう一度お願いしてみます……」
絞り出せた声はそれだけだった。
理由は言えない、でももう一度頑張ってみるから、これ以上聞かないで欲しい。
竹下から目を逸らしてそう願った。
「それって…ッ!!………っ、わか、った……。すまない頼む」
竹下が何か俺へ言おうとした。しかし、全てを告げられることはなく、彼はその言葉をグッと押し殺して、そう呟いた。彼が俺の顔を見ることは、なかった。
最後に、弱く、肩を叩かれた。
そのまま俺から遠ざかっていく竹下に、俺はホッと安堵するものの、申し訳ない気持ちになるしかなかった。
竹下がどこまで気づいているのかわからないが、俺が言い出しづらい理由だということは察したのだろう。また嫌な風に話が大きくなるかもしれない。しかし、仕方ない。俺ができることはこれしかないのだ。俺は真悠の代わりになれない。
彼が何も言わず立ち去ってくれた理由を、俺は真悠へ繋げるしかなかった。
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