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第1話 走馬灯
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……これは、俺の走馬灯である。
「今日も今日とてヤバかったな......」
俺の名前は、山王 尊。なんら変哲のない学生だ。
いや、他の人より少し不幸が多い人かもしれない。
歩いていたら不良たちに絡まれるわ、トイレに入ったはいいものの大体ペーパーが切れているわ.........とまぁ、そんなこんなで俺は生きてきた。
今日も憂鬱な気持ちで学校を過ごしていた。
―――しかし、その気持ちは不意に変わった。
「付き合ってください!」
帰る用意をして、校門から出ようとすると、クラスで1位や2位を争うほどの美少女、服部 渚 が俺にそう言った。
「.......え?」
驚きがまず勝った。
面識がない。それどころか、まともに話したことすらない。ドッキリか、罰ゲームか。
思わず、周囲を見渡してしまう。誰もいない。
「前々から好きだったんです!付き合ってください!」
真剣な眼差しだった。その次に、信じがたい、しかし否定できない喜びと戸惑いが入り交じった感情が湧き上がってきた。
こんな俺でも、本当に?
「......あの、えっと、俺みたいな地味な奴で、本当にいいのか?」
思わず口にしたのは、素朴な疑問だった。
「.......ダメ....ですか?」
渚は少し不安そうに唇を噛んだ。その表情に、嘘をついているようには見えなかった。
俺は、こんな機会二度とないだろうと、勢いに押されてしまった。
「い、いえいえ、全然良いですよ!よろしくお願いします」
その夜は、現実感がなかった。俺は単純だったが、それ以上に、この幸福がいつ壊れるかという不安も同時に抱え込んでしまった。
───しかし、不安は杞憂だったかのように、俺たちは楽しい時間を過ごした。
初めてのデートは、映画館だった。誰もいない帰り道、繋いだ手のひらの汗を気にする俺に、渚は屈託のない笑顔で「尊くんの手、あったかいね」と笑いかけてくれた。
休日には、二人で海沿いの小さなカフェに行った。渚が飲んでいたメロンソーダを一口飲ませてくれた時、俺は初めて、心から誰かに受け入れられた気がした。
……不安は徐々に薄れ、ちゃんと俺は渚のことを、心の底から好きになった。
俺の地味な生活は、色鮮やかに塗り替えられていた。
幸せだった。
本当に幸せだった。
……いつかの日。
「なぁ、麗。彼女の誕生日プレゼント、何がいいと思う?」
休み時間中に、幼馴染の太刀川 麗に相談を持ちかける。
麗は、俺の隣で参考書を広げながら、ふと顔を上げた。
「やっぱり、食べ物とかよりも、思い出に残るものがいいと思うよ?」
「んーそうかっ!」
俺はそう言われてある物が頭に浮かんだ。
「ペアネックレス...とかどう思う?ずっとつけられるし」
麗はペンを止めたまま、一瞬、その視線に影を落とし、少し視線を逸らす。
「.....い、いいんじゃない?素敵だと思うよ。尊が選んだものなら、きっと喜んでくれる」
「なんだよ~良くないなら良くないって言えよ~」
「いや、良いと思うよ。ただ、」
「ただ?」
麗は、寂しさを隠すような不自然な笑顔を浮かべた。
「どうせなら、その渡してくれる人が、私だったら良かったのにって、ちょっと思っちゃっただけ」
彼女の独り言のような、しかしはっきりとした言葉に、俺は一瞬息を呑んだ。
「ちょ、麗、それ......」
言葉を返そうとした瞬間、授業の合図であるチャイムが鳴り響き、その場の空気は一気に切り替わってしまった。
麗はすぐに顔を伏せ、僅かに震える声で「さ、授業始まるよ」と、いつも通りの幼馴染に戻っていた。
――─2ヶ月経つか経たないかの頃だろうか。
俺は教室に傘を置いたままにしていて、取りに戻っろうと、学校へと帰ってきた時だった。
「んでさぁ」
楽しそうな声が聞こえてくる。
―――その喧騒の中には渚も居た。
「あいつ、馬鹿だよねっ!まさかあの時の告白が、茶道部の罰ゲームだったなんて夢にも思ってないんだから!」
「う、うん....そうだねっ!」
罰......ゲーム?
一瞬、脳が情報を処理しきれず、時間が止まったように感じた。
「部長命令って言われたから仕方なかったけど、流石にもう充分でしょ?今日で別れ話つけなよ」
「だ、だよね、もうあいつの地味な顔、見るの飽きたし。ちょうど良かっ......た、よ」
足の力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
―――あの、真剣な眼差しは、嘘だったのか?なんでだ?
体の内側から、冷たい怒りと絶望が込み上げてくる。
「.......っ!」
俺は走った。
傘なんてどうでもいい。ただ、この場所から逃げたかった。
「くそっ」
衝動的に、いつの間にか付けていたあのネックレスをちぎり、路肩に叩きつけてしまった。
「........っ」
俺は、無我夢中で家へと向かう。
走る、走る、走る。
───にゃぁ。
突然、足元で鳴き声がした。
激しい雨に打たれ、泥まみれになっている子だ。
「にゃぁ」
見れば、やせ細って震えている。体毛は湿りきっていた。
俺の足元まで数cm。逃げるどころか、立ち止まった俺の足に、助けを求めるように弱々しく登ろうとする。
「おいおい、どうしたんだ?そんなんで大丈夫か」
俺の走りの勢いは落ち、ついには足を止めた。裏切られた直後からなのか、無性にこの小さな命が、同情を誘い、そして愛おしく思えた。
「俺みたいなやつに懐くなんて.....神様からの慰めかなんかか?」
「ゃ~っ!」
俺はそっと手を伸ばし、猫の頭を撫でてみた。
「にゃぁ......」
尾は上がり、弱々しいながらも、嬉しそうな表情をしていた。
「飼おう......かな。お前も、一人なんだろ」
俺は抱き上げ、雨に濡れないよう服の中に押し込む。
「よいしょっ......と」
家へ持って帰ろうと再び歩き出した、その一瞬。
───猫は服の中から飛び出し、俺の首筋に、まるで獲物を仕留めるように弱々しい命とは思えないほどの力で牙を立てた。
「なっ...........」
噛んだ。
「うっ......あっ」
あれ、あれ、首を噛まれただけなのに......っ
───動悸が異常に早くなる。視界が急速に狭まっていく。
「だ、だれか......」
くるしい、クルシイ、苦しい.....!
「あっ.......が」
───俺は、災難すぎる人生の物語を閉じてしまうようだった。
「───っ、そろそろかな。観測は成功、プロトコル・リセット開始」
……そんな時、誰かが尊に囁いていた。
尊はそんなことも露知らずに倒れてしまう。
「でも、大丈夫……かなぁ?尊ちゃん。まぁ、なんとかなるよね?だって、君の不幸は誰かが望んだものだから」
観測者は、心配していた。
───────────────────────
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
ここまで読んで頂きありがとうございました!
連載版はカクヨム様にてやってます!ぜひ良かったら見にきてください!
https://kakuyomu.jp/works/822139836531403073
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俺の名前は、山王 尊。なんら変哲のない学生だ。
いや、他の人より少し不幸が多い人かもしれない。
歩いていたら不良たちに絡まれるわ、トイレに入ったはいいものの大体ペーパーが切れているわ.........とまぁ、そんなこんなで俺は生きてきた。
今日も憂鬱な気持ちで学校を過ごしていた。
―――しかし、その気持ちは不意に変わった。
「付き合ってください!」
帰る用意をして、校門から出ようとすると、クラスで1位や2位を争うほどの美少女、服部 渚 が俺にそう言った。
「.......え?」
驚きがまず勝った。
面識がない。それどころか、まともに話したことすらない。ドッキリか、罰ゲームか。
思わず、周囲を見渡してしまう。誰もいない。
「前々から好きだったんです!付き合ってください!」
真剣な眼差しだった。その次に、信じがたい、しかし否定できない喜びと戸惑いが入り交じった感情が湧き上がってきた。
こんな俺でも、本当に?
「......あの、えっと、俺みたいな地味な奴で、本当にいいのか?」
思わず口にしたのは、素朴な疑問だった。
「.......ダメ....ですか?」
渚は少し不安そうに唇を噛んだ。その表情に、嘘をついているようには見えなかった。
俺は、こんな機会二度とないだろうと、勢いに押されてしまった。
「い、いえいえ、全然良いですよ!よろしくお願いします」
その夜は、現実感がなかった。俺は単純だったが、それ以上に、この幸福がいつ壊れるかという不安も同時に抱え込んでしまった。
───しかし、不安は杞憂だったかのように、俺たちは楽しい時間を過ごした。
初めてのデートは、映画館だった。誰もいない帰り道、繋いだ手のひらの汗を気にする俺に、渚は屈託のない笑顔で「尊くんの手、あったかいね」と笑いかけてくれた。
休日には、二人で海沿いの小さなカフェに行った。渚が飲んでいたメロンソーダを一口飲ませてくれた時、俺は初めて、心から誰かに受け入れられた気がした。
……不安は徐々に薄れ、ちゃんと俺は渚のことを、心の底から好きになった。
俺の地味な生活は、色鮮やかに塗り替えられていた。
幸せだった。
本当に幸せだった。
……いつかの日。
「なぁ、麗。彼女の誕生日プレゼント、何がいいと思う?」
休み時間中に、幼馴染の太刀川 麗に相談を持ちかける。
麗は、俺の隣で参考書を広げながら、ふと顔を上げた。
「やっぱり、食べ物とかよりも、思い出に残るものがいいと思うよ?」
「んーそうかっ!」
俺はそう言われてある物が頭に浮かんだ。
「ペアネックレス...とかどう思う?ずっとつけられるし」
麗はペンを止めたまま、一瞬、その視線に影を落とし、少し視線を逸らす。
「.....い、いいんじゃない?素敵だと思うよ。尊が選んだものなら、きっと喜んでくれる」
「なんだよ~良くないなら良くないって言えよ~」
「いや、良いと思うよ。ただ、」
「ただ?」
麗は、寂しさを隠すような不自然な笑顔を浮かべた。
「どうせなら、その渡してくれる人が、私だったら良かったのにって、ちょっと思っちゃっただけ」
彼女の独り言のような、しかしはっきりとした言葉に、俺は一瞬息を呑んだ。
「ちょ、麗、それ......」
言葉を返そうとした瞬間、授業の合図であるチャイムが鳴り響き、その場の空気は一気に切り替わってしまった。
麗はすぐに顔を伏せ、僅かに震える声で「さ、授業始まるよ」と、いつも通りの幼馴染に戻っていた。
――─2ヶ月経つか経たないかの頃だろうか。
俺は教室に傘を置いたままにしていて、取りに戻っろうと、学校へと帰ってきた時だった。
「んでさぁ」
楽しそうな声が聞こえてくる。
―――その喧騒の中には渚も居た。
「あいつ、馬鹿だよねっ!まさかあの時の告白が、茶道部の罰ゲームだったなんて夢にも思ってないんだから!」
「う、うん....そうだねっ!」
罰......ゲーム?
一瞬、脳が情報を処理しきれず、時間が止まったように感じた。
「部長命令って言われたから仕方なかったけど、流石にもう充分でしょ?今日で別れ話つけなよ」
「だ、だよね、もうあいつの地味な顔、見るの飽きたし。ちょうど良かっ......た、よ」
足の力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
―――あの、真剣な眼差しは、嘘だったのか?なんでだ?
体の内側から、冷たい怒りと絶望が込み上げてくる。
「.......っ!」
俺は走った。
傘なんてどうでもいい。ただ、この場所から逃げたかった。
「くそっ」
衝動的に、いつの間にか付けていたあのネックレスをちぎり、路肩に叩きつけてしまった。
「........っ」
俺は、無我夢中で家へと向かう。
走る、走る、走る。
───にゃぁ。
突然、足元で鳴き声がした。
激しい雨に打たれ、泥まみれになっている子だ。
「にゃぁ」
見れば、やせ細って震えている。体毛は湿りきっていた。
俺の足元まで数cm。逃げるどころか、立ち止まった俺の足に、助けを求めるように弱々しく登ろうとする。
「おいおい、どうしたんだ?そんなんで大丈夫か」
俺の走りの勢いは落ち、ついには足を止めた。裏切られた直後からなのか、無性にこの小さな命が、同情を誘い、そして愛おしく思えた。
「俺みたいなやつに懐くなんて.....神様からの慰めかなんかか?」
「ゃ~っ!」
俺はそっと手を伸ばし、猫の頭を撫でてみた。
「にゃぁ......」
尾は上がり、弱々しいながらも、嬉しそうな表情をしていた。
「飼おう......かな。お前も、一人なんだろ」
俺は抱き上げ、雨に濡れないよう服の中に押し込む。
「よいしょっ......と」
家へ持って帰ろうと再び歩き出した、その一瞬。
───猫は服の中から飛び出し、俺の首筋に、まるで獲物を仕留めるように弱々しい命とは思えないほどの力で牙を立てた。
「なっ...........」
噛んだ。
「うっ......あっ」
あれ、あれ、首を噛まれただけなのに......っ
───動悸が異常に早くなる。視界が急速に狭まっていく。
「だ、だれか......」
くるしい、クルシイ、苦しい.....!
「あっ.......が」
───俺は、災難すぎる人生の物語を閉じてしまうようだった。
「───っ、そろそろかな。観測は成功、プロトコル・リセット開始」
……そんな時、誰かが尊に囁いていた。
尊はそんなことも露知らずに倒れてしまう。
「でも、大丈夫……かなぁ?尊ちゃん。まぁ、なんとかなるよね?だって、君の不幸は誰かが望んだものだから」
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