いつかの笑い話に

深澤雅海

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 先輩たちの中には、告白すれば上手くいくんじゃないかと言う人もいた。
 でも、故郷に帰ったらここには戻ってこない。
 ラーン隊長はこの国の獣人部隊の隊長を任されている以上、この国から出ることはないだろう。
 告白を受け入れてくれても付き合うことは難しい。
 私はただ、思い出が欲しかった。

 全く経験のない私は、経験豊富な先輩方にありとあらゆることを教わった。
 そしてラーン隊長の性格と私の能力を鑑みて計画を立てた。

 退職日に、こっちから襲う。

 夕方に隊長を捕まえて媚薬を飲ませて自分から迫り性行為をする。
 薬が効いている間は動けないので、その間に港町へ行く乗合馬車の最終便に乗る。
 港町に行くには山を越えなければならない。
 その山は野犬が群れで出るせいで、夜の間は封鎖される。最終便の乗合馬車が通った後すぐに門を閉め、翌朝まで通れなくなる。
 最終便に乗ってしまえばその日のうちに追いつかれることはない。
 そして翌朝、朝一番の船に乗ってこの国を出てしまえばもう安全だ。
 失敗したら、隊長は激怒して私を訴えるだろう。訴えるだけならまだいい。怒りのあまり殺されるかもしれない。獣人にとって人間は簡単に殺せる生き物だ。
 
 先輩たちからは男性器の扱い方や、自分からの挿入の仕方など、恥ずかしいことをいっぱい教えてもらった。
 国に帰ったら間違いなく、国一番の破廉恥な女子だと思う。

*****

 退職日。
 別れを惜しまれつつも先輩たちに「幸運を祈る」と送り出された夕方。
 私は先輩たちの情報網に引っかかった城下町にある「狼隊長のお気に入り食堂」の近くで隊長が出てくるのを待った。
 隊長を襲った後、すぐに最終便の馬車に乗れるように荷物をすべて持ってきているので大荷物だ。
 子供がひとり入れそうなバッグを持っているので道行く人がもれなく私を見る。
 当然、店から出てきたラーン隊長もすぐに私を見付けた。

「あの、ラーン隊長、こ、こんばんは」
 心拍数が上がっていて声が上ずってしまった。
 それでも自分を待っていたと察した隊長は私の目の前に立つ。
 引き締まった体を目の前にして、これからのことを考えるとお腹がうずいた。

「ブランカさん? どうしてこんなところに、そんな……」
 私の姿を上から下まで一通り見た後、隊長は咳ばらいをした。
「何か、俺に用ですか?」
「あの、私、今日で退職して故郷に帰るんです」
「…………え?」
 目を見開いて止まってしまった。こういう表情は初めて見た。
「それで、それでですね、私、ラーン隊長に……隊長?」
 日が沈みかけた明るさでも分かるほど、隊長は青ざめていた。
 長身がゆらりと揺れたので、私はとっさにその太い腕を掴む。

「隊長? 大丈夫ですか?」
 近付くとお酒の匂いがした。飲みすぎてしまったのかな?
 隊長は、私が掴んだ自分の腕を見たまま動かない。
「酔ってます? 宿舎まで付き添いましょうか?」
「いや……いや、そうだな、頼んでいいだろうか」
 計画上都合が良いので即頷く。

 二人並んで歩き始めた。支えているとは言えないけれど、腕を掴んだまま歩調を合わせる。
 近い距離に隊長の体温を感じて、私の体温も上がるようだった。
 隊長が倒れたらどうしようと少し心配したけれど、多少ふらついたものの歩きはしっかりしていた。

 宿舎のロビーはいつも受付の人がいるのに今日はいなかった。
 隊長が何も言わないので部屋まで送ることにする。都合が良すぎて不安になるほどだ。
 隊長の部屋に入ってベッドに腰掛けさせて私も隣に座る。
「あ、あの、良かったらこのお茶を飲んでください」
 私は荷物を足元に置いて、その中から水筒を取り出した。
 中身はお気に入りの紅茶だ。例の媚薬が入っている。
 媚薬は即効性で持続時間は五時間。
 隊長は何の疑いもなく水筒を受け取り、ごくごくと飲んだ。
 私もごくりと唾を飲み込んでしまった。

「ありがとう。それで……その、今日、故郷に、帰る……と?」
 隊長が戸惑う声で言いながら私に水筒を返した。
 半分ほど残っている。全部飲んでもらうのが一番だけど、半分でも効果はあるだろう。
 いよいよだ。ドキドキと、心臓がうるさい。

「はい。母の病気が悪化したので、実家に戻ることにしたのです」
「故郷はペイスン国ですよね。どのあたりですか?」
「山の方です。行商の馬車もなかなか来ない田舎です」
 お医者様も隣の村にしかいない。母は馬車の振動も辛いらしく、隣町に行くのも大変だった。
 もっと大きな街に住んでいれば、すぐにお医者様に見せられたり薬が手に入りやすくなったりするのになと思う。
 そうすれば、私が故郷に帰る必要もなく、ラーン隊長のそばに……

「急だから……驚い、た……」
 隊長の息遣いが荒くなってきた。媚薬が効いてきたようだ。
「た、隊長、横になったほうがいいと思います」
「はぁ、はぁ……すまない……もう少し、話を……」
 小刻みに震える体を隊長は横たえた。
 いつも高い位置に見上げる顔が、手の届く位置にある……
 私まで息遣いが荒くなり、乾いた唇を濡らした。

「はぁ……ブランカ、さん?」
 私は覚悟を決めて横になった隊長の膝あたりに馬乗りになった。
「!? ブランカさっ……くっ」
 震える隊長のボトムを下げる。すでにそこは盛り上がっていた。
 下着も下ろすと、勢いよく怒張が飛び出る。
 隊長は震える手を持ち上げたけど、力が入らないようでそのままぱたりと落ちた。

「ラーン隊長、ごめんなさい」
 膝立ちになって、自分のスカートの中に手を入れて下着を脱ぐ。
「ブ、ブランカさ……っ」
 下着は濡れて糸を引いた。
 先輩に言われた通りに、私はスカートをまくり上げて腰の位置で結んだ。秘部が丸見えになる。
「……ま、待て、はぁ、はぁ、ブランカ、さ……はぁ」
 待てと言いつつも隊長は震えて体を動かせずにいる。媚薬の効果はすごい。
 私は一度深呼吸をしてから、秘部を隊長に見せつけるようにして。
「ん……っ」

 事前に挿れて置いた張り型を抜いた。

「ん……」
 馬車に乗り遅れるわけにはいかない。でも経験のない私が短時間で行為を終わらせるには、すぐに挿入できるようにしたほうがいい。
 そう先輩たちに助言され、私は隊長に会う前から自分で張り型を挿れていた。
 ここ五日間、私は張り型で今まで触ったことがない場所を広げ、痛みで失敗することがないようにしていた。

 ごくり、と音を立てて唾を飲み込んだのはどっちだっただろう。

 私の蜜で濡れた張り型を、ベッドの下に捨てる。
 ラーン隊長は何も言わず息を荒げながら私を、いや、私の蜜口を見つめていた。
 その視線で蜜があふれるのが分かる……
 私はそっと勃ち上がった隊長の怒張を握った。

「はぁ、はぁ、ブランカさん、待て、はぁ、待つんだ」
 はぁはぁと息をしながら必死な声を出すラーン隊長を見下ろしながら、私は蜜口にその怒張を当てる。
「待……っっ!」
 そして一気に腰を下ろした。

 「んあっっ!」
 張り型で解し、すぐ挿るようにしていたものの、ラーン隊長のものは大きく、引きつるような痛みが走った。
「うぅっ!」
「!?」
 しかしその痛みを堪えている間に、ラーン隊長の叫びと共に蜜壺に温かいものが広がる。

「……」
「…………」

 お互い無言で数秒見つめ合った後。
 ラーン隊長は真っ赤な顔をふいっとそらした。

 挿れた瞬間、達してしまったらしい。
 私はラーン隊長のものを挿れたまま、そっと自分のお腹を撫でる。
 ラーン隊長の子種がお腹に、と思うとぽろりと一粒涙が零れた。

「……はぁ、ブランカ、さん……っ」
 ラーン隊長の息はまだ荒い。堪えるような声をしている。
 私はラーン隊長のお腹に両手を付くと、腰を前後に動かした。
「ぅあっ……ブランカ、さ、んっ……はぁ、はぁ」
「ん……っ」
 すぐに硬さを取り戻し、私の蜜壺を刺激する。
「はぁ、はぁ、待て、ブランカ、さん、はぁ、はぁ、これ、は、くぅっ」
 ぐちゅっぐちゅっと音がする。
 私は一度腰を上げて、そのまま勢いよく腰を下ろした。

「んぁああんっ」
 快感に声を上げる。
 私は腰を上下に繰り返し動かした。
 ラーン隊長のものが私の蜜壺を擦る。
「待て、はぁ、待って、くれ、はぁ、はぁ」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 私は謝りながら、必死に上下の動きを繰り返した。

 ラーン隊長の怒張は太くて大きくて硬くて熱くて、私の気持ちいところに当てるととてもとても気持ちがよかった。
 このままずっと繋がっていたい。
 奥の奥まで侵されたい。
 ちらりとよぎる別の気持ちを無視して、快感と幸せな気持ちに集中して腰を振り続ける。

「ごめんな、さい、ぁっ、ごめ、んあっ、さっ、あぁんっ」
「ブランカ、さ、待て、くれ、頼、むっ、はぁ、待っ、はぁっ、ああっ」
 気持ちのままに動きを早くする。
 ラーン隊長が震える手を伸ばしてくるけど、私は動きを止めなかった。

「ごめ、なさ、ごめ、なさ、い、一緒に……っ」
 一緒に達したい……!
「ふぁあっ!」
「くぁ……っっ!!」
 体の重さのままにどすんと腰を下ろすと、めまいがするほどの快感が突き抜けて動けなくなる。
 ラーン隊長も短く叫び、私の蜜壺に温かいものを吐き出す。
 一緒に達せた……
 私はぼろぼろと涙を零した。

 夢が叶って喜びは確かにあった。

 でもこの涙は、罪悪感に押しつぶされた心が流したものだった。

 目の前で、ラーン隊長の私に伸ばした手が、震えながら握りしめられる。
 顔を見ると、目を閉じ顔をしかめている。

 ああ、これ以上は、無理だ。
 これ以上は見たくない。

「ごめんな、さい……っ!」
 私は叫んで立ち上がる。
 ぬぷりと抜けた怒張はまた硬くなりかけていて私の蜜壺を刺激したけれど、体を叱咤してベッドから降りスカートの結び目を解いた。

「はぁはぁ、ブラン……はぁ、待」
「ごめんなさ……ごめんな……」
 私は泣きじゃくりながら荷物を掴み部屋を飛び出す。
 
 振り向かなかった。
 振り向けなかった。
 きっと軽蔑した目で私を見る。
 自分を侮辱した相手を、ラーン隊長は許さないだろう。
 そして冷たい目で見るのだ。
 見たくない。

 大切な思い出にするはずだった。
 大切な思い出になるはずだった。
 最後の思い出として、故郷に帰った後も思い出して、すごいことをしたと、いつか笑い話にするつもりだった。
 好きな人と繋がったことを、幸せに思い出すはずだった。

 それなのに、今、胸に広がるのは、罪悪感と後悔だった。
 
「うう……っ」
 蜜口からとろりと足を伝って流れるもの。
「ラーン隊長……ごめんなさい」
 道行く人の視線を感じながら、私は声を出して泣いた。

 空を見上げると、夕焼けも終わりそうだった。

 私は足を伝う好きな人の体液を拭い、鼻をすすりながら乗合馬車乗り場へと向かった。
 乗合馬車の御者は何か訳ありだと思ってくれたらしく、何も言わなかった。
 馬車にはすでに数人乗っていたけど、同じく何も言わなかった。
 隣に座った女性が、甘いお菓子をひとつくれた。

 時間になり馬車はゴトゴトと走り出す。

 どんどん遠ざかる城下町を振り返り、私は心の中で繰り返し続けた。

 ごめんなさい、さよなら、と。

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