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⑮依頼

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回想
バーにて
バーの扉が開き、カランコロンと音がなり、少女が現れる。
「一ノ瀬光さん、いらっしゃいます」
一人の少女が周りをきょろきょろしながら入ってくる。たぶん彼女は危険な香りを感じ取っている。身に危険が起きるのかを想定しながら入ってくる。この子は賢いんだと分かる。
「もうすぐ来るよ」
小桜舞が少女の目を見ながら言葉を出した。彼女も臆さずにこちらの目を見ている。
「依頼の相談」
丸宮瞳が優しく言葉を発する。
「はい」
毅然と立ち向かう感じが見て取れた。
「私は月城月菜です」
「ああ、病院の」
と話している間に光が現れる。
「足長お兄さんを助けて」
光にすがるように声を出す。たぶん、光を見て安心して緊張の糸が外れたんだ。
「どうしたのさ」
光は驚いている。まあ、いつでも来なさいって、言ってたから、おかしくはないが。
「ハーメルンって人から話を聞きました。光を殺すように指示されていたの」
どういうことかすぐには理解できない、しかし、この子の目が本気である。


ハーメルンとの回想
病室で検査を待ちつつ本を読んでいる。
「やあ、月菜ちゃん」
ピエロの格好に似た感じで笛を加えている。
背は同じくらいで、この少女にも分かるくらいのどす黒いオーラを発している。
「誰」
病室のシーツを手でぎゅっと握りしめて、恐怖に打ち勝とうとしている。
「私はハーメルンといいます。以後お見知りおきを」
ハーメルンは笑顔を振りまいているが、オーラはどす黒い。
「単刀直入に言います」
「憎悪になりませんか」
彼女がそこまで憎悪に染まっていないことは分かっている。でも、ハーメルンは彼女を選んだ。その心は分からないが。考えがあってのことなんだと後で分かることになる。
「どういうこと」
きょとんとしている。
「貴方には素質があります。それに、病気も治ってお兄さんとも会えます」
「お兄さん」
彼女はまだ、気づいてはいない、兄の存在を。
「だって死んじゃったのよ」
「どうして会えるの」
言葉を自然に出している。
「まだ、秘密なんですね」
ハーメルンは悪い顔をしている。
「あの足長お兄さんが貴方のお兄さんです」
「えっでも、顔が」
「そうです」
「憎悪になったんです」
彼女は自然に受け入れる。足長お兄さんが本当の兄なんだと。
そう言われればそうかもと月菜は考える。
「憎悪になると自分の憎悪が他人の中に入って人生をやり直せるのです」
ハーメルンは淡々と言葉を並べている。
「どういうこと」
訳が分からないようではない、ただ、自然に受け入れたが、頭では分かっているが、心が整理できていない様子である。
優しい声のトーンだが、その裏に隠れている闇の部分を隠している。しかし、月菜ちゃんはその部分を理解している様子である。
「ただ、死を待つのは苦しいでしょ」
「なら、憎悪になって過ごす方がいいでしょ」
「どうです」
「すぐには答えは要りません」
「お待ちしております」
ハーメルンはこの子の強さを分かってはいない。
だが、ハーメルンの策略は始まったばかりだ。
桐ケ谷はどう思うでしょう。それでも、妹に執着するでしょうか。きっと、憎悪に、つまり。怒りに身をまかすでしょうか。
そう、桐ケ谷が憎悪に飲まれて死んでゆくところを見たいんです。憎悪になったんだから、憎悪におぼれて死になさい。それが、私のしたいことです。とハーメルンの言葉が聞こえてきそうだ。

ハーメルンとの回想続き
「やあ、月菜ちゃんどうですか」とハーメルンが言葉を出す。
「私は断ります」
これが彼女の強さである。自分が弱い立場だからこそ、この取引は正当性がないと感じている。もしも、言葉に乗ったらもう、足長お兄さんとは会えないことを理解している。
「私は人の命を奪ってまで生きたくない」
「そうですか、足長お兄さんがどうやってお金を工面しているか知っていますか」
彼女はやはり賢い。だからこそ、憎悪に落としたいとハーメルンは感じている。
「分かりません」
「入院費だって馬鹿にはならない金額です」
「しかも、個室」
「普通に働いて稼げる金額じゃない」
「今、裏家業の組織で対等に上がってきている。組織があります。それが、ホライゾン。あなたの兄さんの組している組織なんです」
「貴方は、そのお金で生きているんですよ」
彼女の意思を見ようと考えて、この言葉を出す。嘘を入れてもよかったが、彼女はその嘘を見抜く力がある、だからこそ、真実を並べだしたんだ。
「そりゃ、貴方がいなければどんなにお兄さんの人生が変わるか」
「後余命何ヶ月かの命、しかも貴方が死ねばお兄さんの生きる意味すら失しなうかもしれません」
「それでも、断りますか。未来がない命を大事にしますか」
「断ります」
何ていう瞳をしているんだ。こんなに真のある瞳は珍しい。彼女にとって断るということはどういう意味をしているか、分かっているはずだ。死をも乗り越えようとしているのか。久しぶりだ、だからこそ憎悪に落としたい。
楽しいでしょうね。こんな子が憎悪に落ちる様を見るのは。
まさに歓喜である。
「私はお兄ちゃんを信じます」
「それにお兄ちゃん、嫌、足長お兄さんは一人じゃない」
「そうですか、残念」
ハーメルンにも分かった。彼女の強さが。
「又、会える日を」
「いつでも憎悪にして差し上げますよ」
「そう言えば次のターゲットは、一ノ瀬光さんらしいですね」
ラッパを鳴らしながらどこかに消えていく。
ハーメルンとの回想終わり
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