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㉓醜いとは

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「ねぇ、醜いでしょ」
光のトーンは一段階上がって本気度が増している。
「貴方は何で愛をつらぬけなかったの」
結はようやく彼女の言葉の裏にある気持ちに気づき始める。
「命をかけてくれる人を、私はそんな人を失くしてばかり。たぶん、それが、私の予定調和何だ」
「だからこそ、その愛で苦しんでいる、貴方を救うの」
光は言葉を出しながら結の心の変化を見失わない。
「じゃ、私の愛よりもあなたの考えが正しいか証明して」
この時の結の覚悟を聞き入れる。
「私を殺して」
結は生きることに疲れたわけじゃない。ただ、自分自身に絶望しているのだ。だからこそ、死という簡単な逃げ道に逃げたのだ。
「いや、殺さない」
「救うの、貴方を」
この言葉を言いたかった。
「いやいや、何ですか。そのお話詳しく聞かせてもらっても」
いつからだ、この気配が入って来たのは。ハーメルンの気配がない。なのに、どうして。
「ハーメルン」
「ハーメルン様」
「貴方はどうして憎悪になったんですか」
ハーメルンが言葉で、結の心が折れかかったのを修復している。
「敵のいいように心が砕けていますよ」
「もう一度砕けた心を修復します」
「そう、君に力を授けよう」
ハーメルンが結の背中に手を置き、不敵な笑みは消え、ハーメルンから湯気みたいなものが噴き出ている。ハーメルンの能力の一端がここで、見受けられる。ハーメルンの力とは。まず、 人を憎悪に変える能力がある。しかし、これは、人を憎悪に変える能力とは別の力だ。
「さあ、憎悪に落ちなさい」
「彼が好きなんでしょ」
ハーメルンが結の肩を叩く。
すると、結の能力が向上する。
二人の応戦がまた、大きくなる。
結は憎悪に取りつかれる。
結の攻撃が加速する。四方からの鎖の攻撃をかいくぐりながら、結の懐に入り込んだ。鎌の大振りを鎖で防ぎきれずに吹っ飛んだ。
攻撃は続き岩を先端の鎖につけて。大岩ごと光に叩きつける。
ハーメルンは不思議な笑い方をしその場を離れる。
「顔だって昔の私より綺麗なんだ。あの人はきっと愛してくれてる」
心とは裏腹に嫉妬の憎悪が上がり体が勝手に動いているみたいだ。
「それが、幻想だ」
「違う、愛している。だから、俺を助けろ」
鎖の攻撃を掻い潜りながら近づこうとした。その時。三本目の鎖が光の体に巻き付く。
「どう、強いでしょ」
「さあね。貴方が彼を助けるの」
光は体を巻き付いている鎖を引きちぎろうとしているができずに、次の策を練り始める。
そのころ、瞳が百人を打倒した。そして、舞の所に行き真島と応戦を始めた。舞は光の危険を察知し、すかさず、「銃」と書き円で囲み鷹を付加し触れた。
「イーグルライフル」
目を覆いかぶさろうとしている片目の眼鏡みたいな形のものが出た。そして、銃の形はライフル銃がでる。それを使い。離れた所からも鷹の目を眼鏡みたいなものを通すと、位置や飛距離や弾丸のスピード等の記録が表示されている。その距離は実に百mくらいだが、鷹の目を持って、敵の眉間を狙えるくらいの優秀な眼鏡みたいなものである。勝手にズーム機能があり、 敵の弱点もつけるようになっている。その効果を今、発揮させるんだ。鎖の弱点を狙い鎖の方へ弾丸を放つ。
ガン。
「高くつくよ」
舞は言い放つ。
「グリット弾」
数十発を撃ちはなし、鎖を壊した。これは、グリッド弾とイーグルライフルの両刀である。
光が鎖から解放される。
「ありがとう」
「こういうのが仲間って奴だ」
瞳は舞の代わりに声にする。
「彼は、貴方を助けてはくれない」
「なぜ」
光の言葉でもう一度心を元に戻そうとしている。
死角から真島が出てくる。
「イーグルライフル」と舞は真島に攻撃する。
真島はそれを避ける。
そして、光からの上段の回しげりを喰らう。
こんな奴らを相手に戦えるか。
俺は逃げさせてもらう。目標は北古寺だろ俺は関係ない。ドロンさせてもらう。
そして、真島は消えた。
「うるさい」
「私は彼の為に死ぬの」
「そして、幸せの為に死ぬの」
笑いながら言い放ている。話せば話すほど、結の強さが大きくなってきている感じが取れている。
「それは、本当に愛なの」
これが、執着だと自分自身にも分っていた、でも、どうしようもないのだ。
「だって」
「彼が好きなの」
目には大粒の涙が滲んでいる。どうしようもない心の叫びが痛いほど分かる光が言葉をもう一度言う。


「愛じゃなくて執着だ」


「だから、助けるよ」
光の覚悟が決まる。結は愛に疲れているんだ。翻弄されたくない、だから、死にたい。それを私が決める。そんなことはさせたくない。
生きて。
「貴方を本当に理解してくれる人は、他にいるはず」
「貴方は自分の勝手な空想に逃げてるだけ」
「本当に愛がほしいならその幻想を乗り越えなければならない。でも、それが、貴方の憎悪だもんね」
光は分かっている。
「どうしたらいいの」
泣きながら結は言い放つ。
「君は幸せにはならない。だって憎悪だから。かりそめでいいなら幾つもある。でもそれは、逃げているだけ」
「すべての嫉妬の憎悪を私が救うんだ。嫉妬に狂うあんたの憎悪を解放する。あんたの心は救われたがっているんだ」
「あんたは、私の昔に似ている」
「私は」
そう言いかけた瞬間。憎悪に飲み込まれた。そう、ハーメルンが時限式の力を与えていた。だから意思は消えて、ただの人殺しのマシンになった。結は、北古寺以外は皆殺すつもりだった。しかし、意識の消えゆく中でのSOSを出している。
「殺す、殺す、殺す」
意識が憎悪に乗っ取られていく。このままでいいのか。私はこんなことなんて望んでいない。ただ、好きな人と笑って生きていきたいんだ。でも、憎悪になった瞬間、それが、望めないことを本人は気づいていない。憎悪とは万能でも神様からの祝福でもない。よどんだ汚い能力だ。だから、憎悪に落ちたものは自分の大事なものが貰えないということも、また、気づくべきだが。
「見せて上げるよ私の本気を」
目ですべてを制する。怒りの満ちた目ではない。ただ、この子を救いたいという気持ちの目である。誰だって、間違えることがある。光に諭されようやくわかってきたはずなのに。この子は死を選んだ。その覚悟を光は気に入った。でも、憎悪の化け物にさせた、憎悪が憎いのだ。
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